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2-10.石牢

 さて、華麗にリヨン入りを果たした俺達であるが、いきなり石牢に放り込まれた。気分↓↓↓である。


「世界の王に、俺はなるんだ!!」(ギネス認定)


「どうしました、いったい?」

「壊れたか?」


 おかしい。世界の王が何故こんなところで石牢に入っている?本当なら美女の10人も侍らせて、葡萄酒でも傾けていてもいいのではないだろうか?

何故か世界の危機を救うほど、俺がピンチになっていく。 

いったい俺にどうしろと?おい、ハヤブサ。俺の心の声が聞こえたら何とかしろ!


 スコットさんの上司、分隊長のサニーさんが俺達の拘留一週間を決めた。その間に捜査をするらしい。ヤーン神教の総本山で教徒の乗る辻馬車が襲われて、教徒は皆殺しになりました。犯人は分りません、では済まないらしい。そうだろうなあ・・・


 とりあえずやることが無い。仕方がないので鍛錬をする。タタミ一畳のスペースがあれば十分だ。倒立をしての腕立て伏せ。指を一本づつ少なくして最後は親指だけで行う、200回づつ行うので1,000回だ。次は窓の鉄格子を足の指で挟んで腹筋だ。足の指が悲鳴を上げて400回で終わった。次は地味にヒンズースクワットだ。これは軽く2,000回しておく。さて、震脚を試してみようか・・・うーん、1回で部屋が揺れて牢番のおじさんが飛び出てきたぞ。これは止めておくか・・・


「なるほど、世界最強を目指す一族ですか・・・」

「こうしてみると、実感がわくな。」

 レイメイは別牢のため、ここにはいない。


 なんとなく人外認定されてる気がする。流派独特の型や修練は見せていないのに・・・それにしても走り込みができないのが困る。俺にいわせれば馬車など使わず走ってくれば良かったのだ。そうすればこんな目に合わずに済んだんだ。あの盗賊連中、見つけたらただではおかん。とりあえず怨みの念波を送っておく。


 そんなこんなで一週間経ってしまった。俺の体の体脂肪率は決して高くはないが、更なるダイエットに成功した予感がする。絶対に2㎏は痩せたと思う。さて、捜査の方はどうなっているのだろうか?


「君達の疑いが決して晴れたわけではないのだが、盗賊の一味という確証もない。よって、信用のおける身元引受人さえおれば、仮釈放ということに決まった。もちろん、街を離れるときには出頭してもらいたい。何か質問はあるだろうか?」

「信用のおける身元引受人が見つからない場合はどうなるのでしょう?」

 さすがにニーも緊張気味である。俺達は冒険に来たのであって、石牢に入るために来たのではない。


「その場合は申し訳ないが、捜査が一応の決着をみるまでここで寝起きしてもらうことになる。」

「そうですか・・・」


 一週間ぶりに会うレイメイも憔悴のかげが見える。自分だけ独りぼっちというのもこたえているだろう。

 

 リヨンなんて街は生まれて初めて来たんだ、知り合いなんかいるものか!というか、この世界自体が初めてだ。俺は天のどこかにいる誰かを呪った。他の3人も俺と同じような目をしてやがる。おい冒険者、交友関係が少なすぎるぞ!


「誰もおらぬか?ならば仕方ないな・・・」

「お待ちください、分隊長サニー様!」

 レイメイが声を張り上げた。なんだか嫌な予感がする・・・


「いかがいたした?」

「はい。実はそこにいるハヤトこそ、志高きヤーンのしもべにして聖女カミーユ様のご友人です!」


「なにっ!」

「なんとっ!」

「なんですと!」

 サニーさんとスコットさん、そして牢番さんがハモった。レイメイめ、余計なことを・・・


「それは真であるか、ハヤトと申すものよ。この地にてヤーンを偽るは大罪であると知っておるな?」

 知らねーよ、そんなこと。仕方ない芝居にのるか、レイメイはもういっぱいいっぱいのようだしな。


「はっ。実は私ヤーンの導きにより、カミーユ様とえにしを結びし者にございます。」

「それは本当であろうな、偽りであった場合は今の罪よりも重くなるものと覚悟せよ。」


「誓って偽りではございません。ただ一言、『白き星の子』が難儀しているとお伝えください。」

「『白き星の子』だと?」


「はい、私の洗礼名でございます。」

「うーむ、そうまで申すからには・・・聖女様にお伝えしないわけにはまいらぬか・・・」


「なにとぞ宜しくお願いいたします。」

「今は例大祭の時期故、聖女様もリヨンに参られておる・・・今日の件、確かに伝えよう。」


 俺は静かに頭を下げ、聖句ルーンを口にした。いつも神殿で聞いているやつである。このあと俺達は元の石牢に戻り、結果を待つことになった。


「ハヤトさん、上手でしたねぇ。」

「うむ。旅の一座でやっていけるのではないか?軽業も得意そうだしな。」

 俺の流派を軽業扱いしたのは、2,000年の歴史の中でもこいつが初めてだろう。軽く殺意がわく。


「そーいうのはレイメイに言ってやれ。あいつがいっぱいいっぱいのようだったから、付き合ったんだ。」

「そういえば、そんな感じでしたね。」

「まあ、こちらは3人でいるのに向こうは1人だからな。」


「だいたい俺はカミーユに借りをつくるつもりはなかったんだ。」

「何故です?」

「解放されるのだぞ?」


 あいつの取り立てはスケールが違うんだよ!世界を救えとか、人の世を見守れとか、悪魔に囁かれた者と闘えとか・・・そんなのばっかりだ。それこそヤーンにでも頼んでほしい。


 それから3日後の夕刻、あふれんばかりの微笑をうかべて彼女はやってきた。

「迎えが遅くなり、大変不自由をさせてしまいました。許してください、ハヤトよ。」


 それまでの待遇が一変して(それまでも決してひどい待遇ではなかったが)4人は石牢から出され、それぞれの荷物を返してもらった。水袋だけは捨てさせてもらったが・・・


サニーやスコットなど、まるでアイドルを見るファンの目だ。頼んだらサインがもらえるのだろうか?

ともあれ、俺達は10日間世話になったねぐらを後にした。


「ありがとうカミーユ、迷惑をかけてしまいました。一瞥いちべつ以来ですね。」

「あなたが礼を言うことなどないのです、ハヤトよ。迷惑をかけているのはこちらなのですから。」

 確信犯かよ・・・カミーユと、呼び捨てたらお供の目の怖いこと。俺を射殺いころさんばかりである。


「仲間がまいっていてね、助かったよ。」

 レイメイの肩がビクッと震えた。


「それでこの馬車は、どこに向かっているんだろうか?」

「その質問は2度目ですね。ヤーンの神殿へ向かっております、私はヤーンの巫女であるが故。」


貴女あなたは何処までご存じなのだろうか?若きヤーンの巫女よ。」

「お話は神殿に着いてからで・・・今はおくつろぎ下さい。」


 おそらくカミーユ専用であろう、毛足の長い絨毯やクッションが豊富にある馬車だった。それは教徒からの頂きものなのであろう、さまざまな名前が刻まれていた。


 街の繁華街を過ぎ、通りを抜けた小高い丘の上にその神殿はあった。観る者すべてを圧倒させる、世界神ヤーンの神殿であった。外から見てもカミーユのものと分るのであろう、何の誰何もなしに門が開いて馬車が吸い込まれていく。


「みなさま、ヤーン神教総本山大神殿にようこそいらっしゃいました。」


 若きヤーンの巫女は、そう言うとニッコリ微笑んでみせた。

次回更新予定日は明日です。

喜んでいただけましたら幸いです。

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