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2-9.リヨン入り

 リロイの港町からリヨンの街までは辻馬車がでている。敬虔なるヤーンの使徒の巡礼のためである。一行は、必要以上に目立たぬよう辻馬車に同乗した。もっとも目立たない、という点では初めから失敗していた。ロングソードや槍、弓などを持っていたのは彼らだけであったから。


 リロイからリヨンまで1日で行くことはできない。小用のため小さな村々に停まることとは別に、中間地点にあるカロンの村で一夜を明かす必要がある。辺境では比較的大きなカロンの村であったが、これは恰好の現金収入のチャンスである。もっとも質素を旨とするヤーン神教徒相手では、なかなか上手くゆかぬようではあった。


 日が暮れる前になんとかカロンの村に馬車はついた。日がのびているとはいえ、夜街道を走るのは危険―――を通り越して馬鹿―――である。そんな時は馬を歩かせ、のんびりゆくほかない。


 さいわい一行も無事カロンにつき、宿も4人部屋がとれた。まずはひと段落である。というのは、この街道は知る人ぞ知る「美味しい」街道であった。というのも、往来するのはもっぱらヤーン神教徒の馬車であり、基本的に彼らは武器を身に着けない。そして、金を出せといわれたら出してしまうようなお人よしばかりなのだ。

 これでは盗賊達が放ってはおかない。もちろん事情をよく知る地方の執政官などは、日に何度も兵達を演習がてら派遣するのである。しかし、これは今のところイタチごっこに終わってしまっていて、何ら抜本的な解決には至っていない。


 こんな田舎の村で、食事が終わり日が暮れればもうすることなど無いも同然である。何しろローソクの明かりが全てなのだ。せいぜい寝床の上で馬鹿話をするのが関の山である。そんな辺境であれば、一番鶏と同時に起きるのは当たり前で、小さい子供達もたくましく水汲みや山菜摘みをしている。明るい時間が貴重なのだ。

 朝の忙しい時を終え、朝食が終わると彼らは冒険者の周りに集まってきた。ヤーン神教徒のありがたい話ではなく、胸躍る冒険譚を聞きたいのである。もともと娯楽の少ない村ではある、そこに異国の話や見知らぬ街の情報をもたらしてくれるのは常に旅人であった。馬車の出るわずかな間、願いは聞きとどけけられた。

 

 北へ向かう船を襲う長さ100メトルもある大きな化物(彼らはクラーケンと名付けたが)の話や、古代の『ソラを往くフネ』にいる守護者の話など、彼らは目をクリクリさせて聞いていた。彼らの大半は、この村で一生を終えるのである。今日聞いた話は彼らの子供へ、そしてその子へと伝えられていくのだろう。


「リヨン行き、馬車が出まーす!リヨン行き、馬車が出まーす!」


 彼らの楽しみの時間は終わった。しかしかれらは冒険者パーティー『つばさ』の名を再び聞くことになる。そして彼らの話は全て本当であったと、その話を自分達は直接聞いたのだと胸を張ることになるのだった。

 

「やっぱり子供相手だと、舌がよく回るんじゃない?」

「そうですね・・・あの尊敬のまなざしがたまりませんね。」

「自分のことを思い出すな・・・が、過度の憧れを抱かせてはならん。」

「そーだよな、冒険者なんて何もできない半端ものだよな。」


(((お前が言うな!)))


 カロンの村を出てから1時間も経ったであろうか、フレイがハヤトに聞いてきた。

「ハヤトさん・・・」

「うん、5分くらい前からついてきてるな。」


「何だと思います?」

「行商人じゃないのは確かだろうな・・・」


「なに、何の話?」

「ついて来る者達がいるようだな。」


「まず聞いておきたいんだが、ヤーン神教徒というのは盗賊に逆らわず金品を差出すが危害は加えられない。

これは本当か?」

「本当よ、お金も全部盗られるんじゃなくて交通費ぐらいは返してくれるらしいわ。」

「ああ、僕もその話聞いたことがあります。」

「自分達が邪魔者か。」


「それであれば、俺達は途中下車してやり過ごせばいいと思うが。」

「わ~、ハヤトがまともなこと言った。」

「ん~、それもありかもしれませんね。」

「自分達は冒険者であり、正義の味方でも騎士団でもない。それが無難か。」


 ニーは御者に4人が途中下車する旨申し出た。ただし、馬車は止めずに速度も落とさぬようお願いした。そして大きな左カーブにさしかかった時、レイメイ、フレイ、ニー、ハヤトの順に飛び降りた。乗客は驚いていた様子であったが、特に騒ぎにはならなかったようだ。

 4人が草むらの中でじっとしていると、しばらくしてから1台の幌馬車が辻馬車の後を追いかけていった。


「これでよかろう、彼らの運命はヤーンのみぞ知る、だ。」

「そうね。」

「そうですね。」

「うむ。」


 幸い彼らは冒険者であり、辻馬車の旅とはいえ1日分の水と食料は背負い袋に入れていた。休みどころの村まで歩いて次の馬車を待てばいい。4人はとぼとぼと街道を歩きだした。90分ほども歩いたころだろうか、風が変わるとレイメイとハヤトはすぐ気がついた。

 

「ハヤト、この臭い!」

「ああ、血の臭いだ。」

 レイメイは毒を使うだけあり、臭いには敏感であった。5分も歩くと街道の先に倒れた辻馬車が見えた。


「あれは私達の乗っていた辻馬車なのかしら?」

「おそらく。」

「そう考えるのが妥当だろう。」

「裏目に出たか・・・」


 馬車に近づくに従って血臭がひどくなっていく。


「うわぁ、これは皆殺しなのかしら・・・」

「女、子供まで容赦なしですね、馬だけ連れて行ったか・・・」

「ハヤト、何を考えている?」

「別に何も・・・これが、ヤーンが彼らに与えた運命なんだろう。」


 次の村まで歩いて辺境伯―――ここがリヨン領かリロイ領か分らなかった。―――に鳩を飛ばしてもらわねば。といっても賊の手がかりは何もなく、うっかりするとあらかじめ辻馬車から降りていた自分達が疑われかねない、と感じていた。


 60分ほど歩いたろうか、ようやく次の村についた。村人に案内され、村長のところへ向かう。小さい村で、村人全員で200~300人といったところか。村長にわけを話し、リヨン伯へ鳩を飛ばしてもらう。どうやらカロン村からこちら側はリヨン領であるらしい。小さな村としては大事件であった。

 4人達はお迎えが来るまで、これからのことを話し合った。最悪の場合、4人が賊の仲間扱いされる可能性が高いこと。賊の手がかりが何もないこと。言い訳をするとますます怪しく思われること。見事に明るい材料が何もない。そんなことを話していると、街道から村に入ってくる馬車の音が聞こえてきた。もう1台は現場に行き、調査と遺体の回収だ。疫病防止のため、遺体は必ず焼くことになっている。


「自分はリヨン辺境伯より20名の兵を預かる兵隊長、スコットである。通報者は誰か?」

「はっ、自分は冒険者パーティー『つばさ』のリーダー、ニーであります。」


「うむ、誠にご苦労。ついては細かく報告を聞こうか。」

「はっ、実は・・・」

 ニーがこれまでの出来事を説明していった。


「なるほどニーとやら、お主の話は分かった。確かに筋は通っている。しかし賊の仲間であるという疑いも捨てきれぬ。」

「何故でございましょう?賊の仲間なれば、ほかの仲間と一緒に姿をくらましましょう?」


「例えば取り分をめぐり仲間割れをした、ということも考えられる。この場合、身の証は立てられまい。」

「それは、確かに・・・」


「しかし、その方の言い分にも道理がある。私にはこれ以上判断できん。従って4名ともわれらと共にリヨンまで同行願おう。そこで自分の上役にあたるお方の判断を仰ぐものとする。それで、宜しいな?」

「分りました・・・」

 

 なかなか道理は弁えてるな、反面頑固で融通がきかんが。世界の王をこんなところで拘束するんじゃねー、

といえたらどんだけすっきりするだろう。ボタン一つでリヨンなんか地上から消えて無くなるぞ。

いかんな、このやさぐれた心はハヤブサのポニーテイル姿で癒してもらわねば・・・


 俺達は兵20名の率いる鉄格子付きの軍用馬車で、めでたくリヨン入りを果たしたのだった。

次回更新日は明日です。

喜んでいただければ幸いです。

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