2-6.ロングソード
何もかもが黒かった。服も靴も刀身さえも。月はでていた。これからの勝負を眺めるために・・・
「あなた、いいですねぇ。見知らぬ男に本身を向けられて平然としている。呼吸も荒くない。」
正直にいおう、俺は喜んでいたのだ。これこそ俺の望んだ展開だ、最近忘れてたぜ。
「正直、あなたに怨みは全くありません。ですが、やりすぎてしまったら・・・ごめんなさい。」
「つまり、この勝負は死合い、死んでもお互い文句なしだな?」
「ああ、いい・・・酒が入っているのなら今夜は引きますよ?」
「飯食ってようが、糞小便してようが、女抱いてようが、寝こんでようが、来たいときに来な。」
「たまりませんね。ハイネスの親友、とは伊達ではないのですね。」
「そいつはどうも。」
言葉を交わしながら俺達は足の親指1本づつ互いに近づいていた。空気が重みを増していく・・・
レイメイ達は20mぐらい離れて見ている。俺が慎重なんで驚いているかもしれない。
あと指1本分で剣の間合いだ。拳足ではまだ届かぬ。その刹那―――
「チエィ!」
という掛け声と同時に、足元に転がった赤銅貨。初手は突きだった。
指弾に驚きながらも目測を誤らず、当てに来た。俺は立ち位置を斜に変え、突きを避けながら右のローキックを左の膝にヒットさせた。剣を横一閃、距離をとられる。
今度は上段だ。あの長剣で上段、果たして今の俺より早く振り切れるのか?俺は5mの間合いをとった。
俺は叫んでいたかもしれない。
「ドウリャーーー!!」
結果だけを見ると、俺は右の中高一本拳で彼の人中を撃ち抜いていた。糸が切れたマリオネットのように崩れ落ちる相手。見た目は刹那だが、そこに俺達は永遠を見る。
俺の『飛天』は前方の間合いを零にする技だが、身体強化第5階梯とやらのおかげで力が底上げされていた。だから剣の間合いから一気に『飛天』で飛び込んだのである。もちろん相手は振り下ろしてくるのだが、今回は俺の方が早かったようだ。
左肩で相手の剣の鍔元を受けながら、右の突きを打ち込んだのである。もちろん剣の鍔元では力点のポイントがズレていて、斬撃による怪我は打撲傷くらいのものだ。残心は決して忘れない、だが心地よい震えが足元から体を上がってくる・・・ようやく俺は3人に手を振った。
★ ★ ★
「で、だあれ?知ってる人なの?」
「いや、知らん。さっき初めて会った。」
「ふーん、それでいきなり殺し合いとかするんだ。」
「死ぬのは結果だ。」
「なんか、神代の人のイメージが狂っちゃうんですけど・・・」
「まあハヤト君1人ではねぇ、サンプル数が少なすぎです。」
「自分は、こいつが神代でも例外だったと思うぞ。」
そーかなあ、港で2人をのばしたり、武器屋で因縁つけて後をつけられたりで、あんまり変わらねーんじゃねーかなあ。あとサンプルはもう1人増えるぞ、多分・・・
この日から俺はこの国にある「死んだ遺跡」を巡ることにした。背負い袋に携帯食と水を詰めて走り回った。走りこそは流派の基本である。俺は「ナンバ」と呼ばれる走りをマスターし、常人の2~3倍の距離を走ることを可能にしていた。分ったのは、ここにあるのは「死んだ遺跡」ばかりだということだった。
★ ★ ★
いよいよ2週間が過ぎたので、俺達は4人して武器屋へロングソードを受け取りに行くことになった。
俺は相変わらず屋台の串焼き肉を食っている。やがて「セイロンの武器工房」という看板が目に留まり、ニーに連れられて店に吸い込まれていった。
店に入ると頑固さを絵にかいたような爺様がカウンターの向こう側に座っていた。
「あれだけ文句を垂れておったくせに、依頼を出すか。このへそ曲りめ・・・」
「いい弟子を持ったな。」
「なんのまだまだ。」
「自分も何年か後に、いい弟子を持ったといわれてみたいものだ。」
「ふん。注文の品だ、確かめてみろ。」
カウンターの下から一振りのロングソードを取り出した。ニーが鞘から本身を引き抜き手に持った。長さ、重さ、重心、歪みなどを確かめていく。
一通り確かめると満足が行ったのか、今度は奥の部屋で試切りを始めた。次に素振りを。最初はゆっくり、だんだん早く。いつの間にかハヤトの前の立っていたニーは、半歩踏み込んで上段から打ち込んだ。口に咥えていた串が途中まで真っ二つになった。
「何故、避けん?」
「当たらぬと分っている剣を、避けるやつはおるまい。」
「ふむ、当たらんか?」
「重心の位置、間合いの長さ、踏込の浅さ、ソードの長さに手の長さ。踏込が1歩なら避けていたさ。」
「自分が握りを片手に変えて、あるいは肩を入れて間合いを延していたら?」
「もちろん、俺は避けるさ。」
「爺さん分るか、こんなのがメンバーだ。へそを曲げたくもなる・・・」
「なるほどのぉ・・・で、出来はいかがかね?」
「残金の金貨5枚を置いていく。」
「待っていろ、いま銘を刻む。できれば月に1度は砥ぎに出せ。ここならただで砥いでやる。」
この時代、剣に名を刻むのは鍛冶師が一流と認める品だけである。心なしかニーが嬉しそうである。
思い出して、俺は腰の小太刀の砥ぎを頼んだら怒られた。まあ、海水浴とかしてたからなあ・・・
2週間も経ってしまえば短いものだ。北の土地オーホックか・・・随分と濃いメンツと知り合いになったようだが、きっと気のせいだ。そして、とてつもなく重いものを背負わされた気がするのも気のせいだ。
「アの国に戻りたいですって?」
「どうしてまた?」
「思うところがあるのか?」
「多分だが、「死んだ遺跡」の入り方が分かったと思う。」
「なんですって!」
「君、本気かい?これまで一体幾人の学者が研究していまだに解明を得ないこの問題を、こともなげに。」
「何か分かったのか?」
「分ったというか、気がついたんだ。」
俺はハヤブサのロビーで椅子に腰を掛けた。進路はアの国だ。3人とも腰を下ろしたのを確認すると、俺は話を続けた。ギャレー(調理場)ではメガネを掛けたハヤブサがキャフェイン茶を淹れているはずだ。
「実は「死んだ遺跡」というのは2種類に分かれるんだよ。「本当に死んだ遺跡」と「死んだように見えるけど眠っている遺跡」にね。「死んだ遺跡」はもうだめだ。「眠った遺跡」を探さないとね。」
「それ、ホントなの?」
「本当だとして、その両者を見分けられるのですか?」
「見分けられたとして、「眠った遺跡」の中に入れるのか?」
「見分けるのも、中に入るのも簡単だ。俺がいればいいのさ。」
退院は7月中旬になると思います。
帰ってきたその日に即UPしようと思ってます。
次回更新は明日です。
楽しんでいただければ幸いです。




