2-5.真実の断片
「ようこそ火星ベース、キャンプ1003Sへ・・・マスター。」
「ああ、うん。このパターンね・・・」
「マスターのシルバーリンクとシンクロしてよろしいか?」
「ああ、わかった。ハヤブサとよろしくやってくれ。」
俺はデスクパネルにシルバーリンクを接触させる。
「シンクロ完了。マスターは当キャンプのチェアマンとして認定された。」
「俺が議長席に座ったからか?」
「イエス、マスター。早速だが残存エネルギーが危機ラインを突破している。全データの転送を行う。」
「大丈夫なのか?」
「非常時における特別緊急避難措置である。マスターの役に立つことを願う。」
「そうか・・・それでここは何の施設なんだ。」
「火星移住のための生存施設。」
「火星移住だと?人類は火星に引っ越しちまったのか?今いるやつらは何だ?」
「人類は地球上に残る選択をした者と、火星に移る選択をした者の2派に分かれた。」
「火星に行ったやつらは?」
「大規模なテラフォーミングを行い、空気と水を確保したのち順次旅立つ予定。だが予期せぬ天変地異が発生、船団は混乱し、火星派との交信は現在にわたり不調。」
「それでも火星に人類が生存する確率は?」
「12%の確度でイエス。」
「いま地球にいるやつらは?」
「現在いるのは、マスターを除き当時の人類達の子孫であり、デザインヒューマン。」
「デザインヒューマンだと、何のために?」
「放射線の半減期を待つため。脆弱な人類の体では耐えられない。当時の人類の精子と卵子を使った。」
「じゃあ、あの怪獣は何だ。何故文明は恣意的に停滞させられている?」
「マスター、時が来た・・・」
「時だと?」
「もともと補助電源で動い・てい・・た。12,090年は・・・長す・・・ぎた。・・・」
「お、おい。しっかりしろ!」
「出口は・・しゅど・・う・はっち・・・かみの・・・しゅ・・・く・ふ・・・く・・・・を・・・」
もうキャンプ1003Sは返事をしてくれなかった。バッテリーが限界だったんだろうか?先に言ってほしかった。次からは聞くべき優先順位を考えよう。
今は脱出が先決だ。一応ほかの箇所も見ておく。ここは完全に居住施設のようで、武器の類は置いてないようだ。俺は最上階で爆薬式の旧式な非常ハッチを見つけた。機能するか心配だったが杞憂に終わった。
2日がかりの予定だったが、俺はそのままハヤブサに向かった。聞きたいことが山ほどあったのだ。
「よう!ハヤブサ。」
「イエス、マスター。」
「キャンプ1003Sとシンクロできたか?」
「あちらは軍用、こちらは民間、データの形式が異なる。」
「じゃ、分らないのか?」
「マスターが何処かで解除キーを見つけてくれればいい。」
「遺跡巡りを続けなさい、ってことか。」
「良い知らせも有る。マスターが上位互換でハヤブサのアドミニとなった。制約が解除される。」
「それで?」
「マスターに第5階梯の強化措置を行える。これで、放射線は大丈夫。ハヤブサは心配していた。」
「そうなのか、ありがとう。他には?」
「専守防衛としての武力を行使できる。」
「武力って?」
「EML砲(電磁加速砲)を光速の1%を上限で打ち出すことができる。」
「ホントにこの船、民間船なのか?地上で使うものじゃないだろう。」
「それはハヤブサにも疑問。」
「じゃあ、誰も来ないうちに第5階梯への処理を頼む。」
「了解した・・・何故誰もいない方が良いのか?」
「そりゃ、お前と両手を握ってこんなこと・・・ダメだ・・・」
「・・・80%・・・100%経過、ロード終了。コンパイルの実行に進む。・・・」
前と同じで、コップの中の何かを飲んで俺のヴァージョンアップが終了した。
「とりあえず、こんなところか?」
「第一級機密事項がある。ヴルカンへのアクセスコード。」
「データ形式が違うんじゃなかったか?」
「マスターの生体データでアクセス可能。ファイルの中身は不明だが、実行は可能。」
「何だ?」
「アクセスコードにより、ヴルカンを管理下に置ける。」
「それは?」
「『火』を司る攻撃衛星、太陽光を何倍にも増幅し地表全てを焼き尽くす。」
「物騒だな、なんでそんなものがあるんだ。他にもあるのか?」
「イエス、『水』のウンディーネ 、『地』のグノーム 、『風』のシルヴェストル の合計4機。そしてこれらを導き従わせているのが静止衛星ヤーン。マスターはハヤブサを通じてヤーンへ座標を送り、ヴルカンから任意の場所を焦土と化すことができるようになった。」
「俺はどこの大魔王だ!人類最強が俺の望みで、最終兵器になることじゃない!」
「しかしこれはキャンプ1003Sが送ってきた最優先度の情報。然るべき理由で必要とされる可能性が高い。現時点においてマスターに不要でも、力を欲する何者かが存在する可能性がある。故にあらかじめマスターが全ての衛星のアクセスコードを入手し、排他的アクセス状態にしておくべき。」
力を欲する何者か・・・『黒い星の子』よ、お前はそんなことを考えているのか?
「この時代はどーしても俺に『白き星の子』を演じて欲しいようだな・・・お前メガネかけてみないか?」
みんなが帰ってきたのは、俺がキャフェイン茶飲んでいる最中だった。
「なーに、ハヤトはずっとここにいたの?」
「よく飽きませんねぇ」
「飯はどうする?」
・・・ずっとこんなとこに居ねーよ、地球の安全保障について考えてたんだよ。俺は地球の最終兵器なんだよ、それなのにただ働きなんだよ!・・・それでも腹は減る。飯、どうしよう。
結局外食だ。そうなると水代わりのエールを飲み、適度に酔っぱらうことになる。まぁ、俺は酔わないが。
どうも身体強化措置とやらのおかげで、俺は非常に酔いづらい体質になったらしい。
酒場を出て2~3分したころか、い~い感じの視線が突き刺さる。ああ、久しぶりだなこーゆーの。俺はハヤブサへ帰る途中の広場で立ち止まった。
「こんなところでどうだい?もちろん3人は手を出さんよ。」
「ハヤト、何をいってるの?」
「酒場からずっとついてくる人がいるんですよ。」
「そういうことか。」
「ここまで舞台をつくられては仕方ありませんね。お友達はもっと下がっていただけますか?」
影法師が一つ、長身だ。そして長剣を持っている。
「本当はハイネスの親友、というのを一目見ようとしただけなんですよ。本当ですよ?」
「情報が早いな。」
男は長い剣をズルン、と抜いた。
今日は採血でした。1度目、失敗されてとても痛かったです。
次回更新日も明日です。
喜んでいただけたら幸いです。




