2-4.鍛冶屋
殺気は無かった。だからといって油断したわけではないが、いきなり切りつけてくるような真似はすまい。
3人組は倉庫の陰からでてくると、おずおずと話し出した。
「冒険者パーティー『つばさ』のニー殿はおられるか?」
「俺がニーだが?」
「貴君、先ほど師匠の店で聞くに堪えない罵詈雑言を・・・」
「確かに俺だ。なまくらをなまくらといって何が悪い。」
「剣の良しあしは、切れ味だけで決まるものではなかろう。丈夫さを求める者もいれば、軽さを求める者もいる。何よりもあれらは商品であるのだ。その意味が分からぬ貴君とも思えぬが。」
「単価にみあった品質というやつか。それがふさわしい品質だと誰が保証する?」
「剣の良し悪しを見分けるのも冒険者の腕の内と思っていたが、違うのか?」
「確かにそうだ、それは認める。だが普通、どこの武器屋でもその店を代表する看板作品があるはずだ。まして鍛冶工房を備えた店であればなおのことな。何故、自慢の一品を飾らぬ?我々はそれを見て店の評価を行うのだ。それが無いは、この店に自慢の品が無いといっているも同義!」
ニーの言葉に今まで話をしていた男が、後ろの2人と話を始めた。
「では、何故名刀がこのあたり一帯の武器屋、鍛冶屋にないのかその訳を話そう。南からの客人に言っても詮無きことだが、今まで見ただけが北の、ハイネスの故郷の仕事と思われては困る。」
「・・・・・」
「それはこのあたりを治めるギブソン伯爵のせいなのだ。誤解のないようにいっておくが彼は向武の気性の良い男で、名刀・名槍ができたと聞くと見分にきて納得すると買い上げてゆくのだ。もちろん相応の値を付けてくれる。それだけならよい話なのだが、品をとりに来る役人は元の値の1/10しか支払わん。文句をいおうものなら営業免許を取り上げるぞ、と脅かされる始末。今では誰も真打をつくらぬ。」
「信じられぬ、ハイネスの膝元でそんな道理の通じぬことがおこっていたとは・・・」
「むかしから、無理が通れば道理は引っ込む。」
「しかし、職人ギルドはどうした。そんな無法、ギルドが黙ってはいまい。」
「一番最初にギルドに訴えたやつは次の日の朝、川に浮かんじまった。それ以来、ご覧のありさまさ。」
「・・・・・」
「俺達はただ弟子として、師匠の腕をあんななまくらしか打てねえ職人なんだと思われたくないんだ。」
「それでは俺がアンタ達に指名依頼を出そう。」
「指名依頼だと?」
「そうだ。元々は冒険者の言葉だが、特定の人間を信用して依頼を行うことだ。今回は金貨10枚に見合うロングソードの製作をお願いしたい。半金は今支払おう。製作日数は如何ほどだ?」
「通常は1週間だが、真打ともなれば2週間は・・・」
「分った。2週間後に伺おう。くれぐれも悟られぬように、いつもと同じような仕事調子でいるのだぞ?」
「わ、分った。だが、俺達に金貨を預けちまうのか?」
「師匠の汚名をすすぎに来る弟子達だからな。俺の体つきは今日さんざん見たろうから問題あるまい。」
「アンタのことを誤解していた、謝る。」
後ろの2人もそれに続いて謝った。
「では、2週間後に。」
★ ★ ★
「ニーにしては至極まっとうな話だったわね。」
「これで2週間後、何もできてなかったら笑ってしまいますけどねえ。」
「モグモグモグ」
さて、どうしようか。
「フレイ、気がついているよな?」
「ええ、伯爵さんトコのお使いじゃないですか?」
「ほっとくとニーの剣はできないか、召し上げられちまうかもなあ。俺はどうでもいいんだが。」
「お弟子さんの後をつけて来たんでしょうね。僕もどうでもいいんですが。」
気まずそうにニーがいった。
「今回は俺が依頼者になる。2週間何とかならんか?」
「金は要らん。ただし、今回のことは貸しにしておくぞ。」
そういうと俺は近くの家の屋根に飛び上がり、弟子達の消えて行った方を追いかけていった。
「ハヤト、どうするつもりだろ。」
「一番簡単なのは川に浮かべることですかねぇ、あの人の場合。」
「うおぃ、全然冗談に聞こえないぞ。」
ハヤトが戻ってこないので、3人はあらかじめ決めておいた「銀の鈴」という店にいた。ひとしきり食べて飲んだ後、ようやくハヤトが戻ってきた。
「悪い、だいぶ遅れた。」
「しょうがないよ、ハヤトは仕事をしてきたんだから。」
「そうですね、仕事の内容はあえて聞きませんがお疲れ様です。」
「お、お疲れだったなハヤト、葡萄酒だったな。ここは俺の驕りだ。」
その晩は月が隠れるまで飲んで、ハヤブサに戻った。この時代、月が隠れると本当に暗くなった。街灯のローソクがあるのだが、これがよく盗まれる。そうでなくても夜の8時ごろにはもう真っ暗であった。
夏でもこれであり、冬ならもっと早い時間に暗くなる。「月夜の晩ばかりじゃねえぞ!」という脅し文句は十分に現実的なものであった。
さて、翌日から2週間は基本的には暇である。俺はギルドにいって遺跡の情報を仕入れてきた。今度は手荒く歓迎されることなく―――それどころかハイネスの親友、ということになっていた―――上手くいった。
ただ、こちらの遺跡は全て死に遺跡なのだ。耳よりの情報はない。どうせ暇つぶしだ、近場の遺跡に行ってみよう。こうして俺は鍛錬もかねて遺跡の山へと向かった。だがここで見た遺跡は今までのフネとは違っていた。なんというか南極とかのキャンプベースに似ている気がする。しかし味気ないドアは一緒だ、蹴っても叩いてもどうにもならない。
しかし何の拍子か俺のシルバーリンクがドアのパネルに触れたのだ。その途端、何かの駆動音が聞こえ
目の前のパネルが開いた。何も考えずに俺は中に入った。すぐドアは閉まってしっまった。
『当艦はスリープモード待機中。照明等は稼働しません。人力による移動をお願いします。』
「キャプテンルームへ案内してくれ。」
と同時に廊下に光のパネルが現れた。これは経験済みだ。案内してくれるんだろう。
3階ほど上にいくと、1つの部屋の前で光の廊下が終わっていた。仕方なくその部屋へ入る。ドアのパネルにシルバーリンクを接触させる。そこは会議室のようで多くの椅子と机が前方を向いていた。俺は少し考え、司会者的な立場に見える座席に腰を下ろした。
次回更新も明日です。
喜んでいただければ幸いです。




