1-19.エムトにて
「ようこそ、エムトの街に!見たことない帆船だが、都の新型かい?」
「そんなところだ、接岸よそしく。」
「ああ、こっちに入ってくれ。」
ハヤブサを港に入れるとレイメイとフレイが荷物を運び出した。6日間だからな、なまものは微妙なところだ。ニーは商人ギルドにも加盟しているため、売買に問題は無いそうだ。ニーに聞いてみると、まさに今日の様な日を想定していたらしい。やはり、冒険者というか商売人か・・・
俺とニーは早速ギルドに向かい、受付カウンターに行くと
「1番鳩の依頼で、ランズベールの花を届けに来ました。この依頼はまだ有効ですか?」
ときりだした。
「もちろんですわ、Bランクパーティー『つばさ』のみなさま。鳩をだして10日で花が届くなんて!山越えは・・・ありえませんね、水の神ウンディーネ と風の神シルヴェストル の導きでしょう。」
「全くその通り、すべては世界神ヤーンのしろしめすところ・・・」
俺がそう答えると、ニーが目をむいていた。
「では、こちらの花束と依頼終了証書を・・・」
「ところがでございますね、お2人さま。今回は、依頼人が直接お会いしてお礼を申し述べたいと申しまして。もう、使いの鳩が届くころです。迎えの馬車をお待ち下さい。」
「どうするよ、ニー。俺はすごく嫌な予感しかしないんだが。」
「いいカンだ。実のところ俺も帰りたいと思ってる。」
「貴族か?」
「貴族だな。」
「俺は1人ならどんなところからでも帰れるつもりだが・・・アンタはどうだ?」
「大剣があればな、手斧では正直ちとキツイ。」
「生きて戻りたかったら俺の後ろを離れるなよ?あと、いまのうち水を飲んでおけ。」
「分った。飲食するなということだな?」
などといっているうちに2頭立ての重厚な馬車がやってきた。なんと中にはレイメイとフレイが乗っていた。
「荷物はどうした?」
「全部、この伯爵家がお買い上げ下さったわ。なんと金貨10枚!」
「伯爵家か・・・これからは一切飲み食いするなよ。」
「なんでよー、楽しみにしてきたのに。」
「ははあ、そういうことですか。」
「いざという時、ハヤトさん一人では僕らを庇いきれない・・・庇う気があればですが。」
「お花を渡して終わりじゃないの?」
「なら、屋敷にまで招待する理由は何だ?」
「狙いはハヤブサだろ、だから港からレイメイとフレイを遠ざけた。」
「そんな・・・私たちどうなっちゃうの?」
「冒険者なんだろ、しっかりしろ。」
どうやら馬車が屋敷に着いたようだ。しかし、下りてみればそこは裏口のようであった。馬車の前の石段に1人の男が立っていた。口ひげを蓄えた小太りな男であった。周りを衛兵が囲んでいる。
「この度は大儀であった。このキングスレイ=A=サーベント、礼をいうぞ。」
すると執事とおぼしき男が俺のそばに来たので、ランズベールの花をわたすとちゃんと金貨5枚をくれた。
「今回、私自ら冒険者などと会う気になったのは、依頼達成期間の短さゆえだ。 鳩をだして10日で花が届くなど・・・ありえんことだ。あるとすれば、それは極めて優秀な船を持っているということだ。港へやった男の話では、見たことのない純白の帆を持ち櫂を備えていなかったという・・・神器か?」
「だとしたら?」
「私が適正価格で買ってやろう。冒険者には過ぎた玩具だ。」
「買ってどうする?たった1隻では海軍もつくれんぞ?」
「今は1隻でよい、が、いつか10隻20隻となるだろう。その時こそ、わが家が歴史の表舞台に登場するときだ。」
「そして破滅を囁く悪魔になるか?キングスレイの男よ。」
「はっ!儂はうまくやるさ。」
「そこまで話すということは、もとより買い取る気などないな?」
「少しは頭が回るようだな。」
「だが今日、俺たちが来たことはギルドの人間が知っているぞ?」
「安心しろ、今日ここには誰も来なかった。そういうことになっておるよ。」
「むざむざ死んではやらん。キングスレイ、お前の首を土産にもらうぞ・・・」
「馬鹿め、できるものかよ。お前は無手ではないか、こちらは弓が狙っておるのだぞ?」
「弓を射たければ射るがいい。だが、確実に貴様の首はいただく。」
「馬鹿な戯言を・・・」
空気がギィン、と撓んだ。俺の右手には百円硬貨がある。この距離、外さない。何千回、何万回練習してきたコインを用いた指弾である。
前の男も、なぜか自分が死んでしまうイメージが頭に浮かんだようだ。
「まて、一斉に矢を射れば貴様も、後ろの仲間も死ぬぞ?」
「それがどうした。元よりそのつもりなんだろ、試してみろ。運が良ければ死なずに済むぞ?」
「射よ!射ころ・・・」
最後までいえずに男は死んだ。俺の初動は言葉より早かった。待ってやる義理はない。指弾を弾いた瞬間、俺の姿は人の目には消えたよううに見えたはずだ―――これは俺の流派に伝わる運足をオリジナルに改良したものを用いているせいだ―――で矢をよけ、剣を抜こうとしている4人の近衛を左右の指弾で打ち抜いた。
1人の近衛の騎士剣を奪うと、俺は一番手近にいた弓兵に向かった。俺は壁を駆け抜け弓兵を叩き切った。
そして奪った弓矢で、周りの弓兵を射つくしていく。
次に手近にいた弓兵に向い走っていくと、弓を捨て背中を向けたため騎士剣を投げつけ縫いとめた。そいつの騎士剣を奪い弓矢を奪って周りの弓兵を射つくしていく。さらに手近にいた弓兵に向い走っていく・・・この流れ作業を何度か繰り返していると
「止まらなければ、仲間の命はないぞ!」
という声が聞こえるが、もちろん無視する。他に気の利いた台詞はないのか・・・と思いつつ。
そのうち弓兵の数が減ったのか矢が尽きたのか、飛んでくる矢の数が目に見えて減ってきた。何しろ俺が向かうと背中を向けて逃げていくありさまで、いい的である。俺は敵対するなら容赦しない。背中からだろうが刈にいく。卑怯?なにそれ、おいしいの?
ようやく思い出したように馬車に戻ることにする―――矢の気配はしない―――1人の兵士がレイメイの手をねじりあげ、喉にナイフを突き付けていた。レイメイを殺すと自分も死んでしまうことを分っているのだろう。
「最近の騎士は女を人質にとるのか?」
「俺はまだ騎士じゃない!お前こそなんだ、出鱈目じゃないか!」
会話をしながら近づいていく。おっと、後ろから矢だ。騎士剣ではじく。
「なんで後ろからの矢をはじけるんだよ、なんで背中を向けたやつを切れるんだよ!」
この世界の戦場は、俺の知っているそれとは大きく違うらしい―――さあ、俺の距離だ―――左手の指弾で相手の手の甲を打ち、ナイフを落とさせる。後は右手に持った騎士剣で喉を貫く。これでしまいか?
「射られたやつはいるか?」
「フレイが1本、ニーが2本。私は・・・私はすぐに捕まっちゃったから・・・」
「毒矢だと厄介だな、聞いてこよう。ここの武器で応戦しろ。」
俺はその場に騎士剣と、弓矢を集めるとそういった。




