1-1.プロローグ ~神隠し~
初めての長編小説です。
楽しんでいただければ幸いです。
疾ッ、と正拳が左のこめかみをかすめる。
ヒットしていたら連続技の餌食だろう・・・そんなことを頭の片隅で考えながら体を流し、一歩右足を踵から踏み込み右の肘を相手の水月に突き刺す。
後は流れのままに右の裏拳を顔面に叩き込み、仕留め技「硬気功正拳中段突き」の左を心臓目がけて打ち込むだけだ。そう、そのはずだった。
俺が正拳中段突きを繰り出した時、相手の背後からブワッと闇が広がった。
深夜といってもここ、横浜野毛山山頂が暗闇に閉ざされることはない。月明りで十分に明るい。少なくとも俺たちにとっては。
だがこの闇は明らかに異質で、月明を通さないようだ。イメージとしては相手の後ろから突然遮光カーテンのようなものが広がってきた、とでもいえばいいのだろうか?こいつは俺も相手もまとめてどうにかしたいのか、包みかかってくる。
バックステップで距離を取ろうとするが、このカーテンだか風呂敷だかしらないがまるで生きているかのように追ってくる。
俺の頭の中では最大レベルのアラームが鳴りやまない。ここまでヤバイと体が感じたのは親父と死合いをして以来だ。
結局俺は、俺の相手と共に風呂敷もどきに頭から包まれた。いや、頭から喰われた。
この瞬間西暦20XX年XX月、地上から2人の人間が姿を消した。だがそれは猥雑な日常に埋没し、あっという間に人々の記憶から消え去ってしまうこととなる。