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ワンライ投稿作品

見えざる三角形

作者: yokosa

【第41回フリーワンライ】

お題:

三角のアイ


フリーワンライ企画概要

http://privatter.net/p/271257

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負

「え?」

 詰問したのは彼の側からだったが、思わぬ返答に間の抜けた声を上げたのもまた、彼の側だった。

 彼女は今、なんと言ったか。

『私たち今、付き合ってるはずよね』

 確かにそう聞こえた。間違いない。その関係を望んだ相手は、何度となく想像した言葉を口にした。

 間抜けな越えをどう解釈したのか、彼女は同じ言葉を繰り返してきた。

「私たち今、付き合ってるはずよね」


 始まりは違和感だった。

 単なるクラスメイト――あるいは、もう少し突っ込んで仲の良い友人とまで言ってしまって良いかも知れない――そんな彼女との微妙な距離。その距離感が、あからさまにおかしいと感じた。

 人間とは人の間と書くが、人の間には見えざる線を誰もが保っていると言う。それをプライベート・スペースと呼ぶ。人の間に引かれた見えざる線の内側と外側で、人間関係の距離を測るのだ。当然、内側、懐に近ければ近いほど緊密な関係となる。

 彼の感覚では、彼女はほんの昨日までは見えざる線の境界線上ぎりぎりの位置にいたはずだ。友達以上、恋人未満なカンケイ。

 しかし、今日は違う。明らかに近い。近すぎる。間合いの内側にまで踏み込まれている。

 昨日は例の委員会の用事で形式的なやりとりをしただけだ。……そのはずだ。そんなカンケイにまで踏み込んだ覚えはない。

 桜の季節を過ぎてほぼ一ヶ月が過ぎた。それは即ち、クラス替えを機に、意中の彼女に接近するため同じ委員に立候補してから一ヶ月が過ぎたということと同義である。

 たった一ヶ月だが、彼女の人となりを知るには充分な時間だった。漫然と過ごしたのではなく観察した一ヶ月だったのだから。

 四月のクラス転換だったからこそわかったのだが、彼女は人間関係の進展如何である種の躁状態になるようだ。その経験から判ずるに、彼女の接近は躁によるものである。

 断言出来る。彼女は何者かと一日で急接近を果たした。その反動で今日、彼との距離を見誤って、常になく接近しているのだと。

 彼女と関係を築いた不埒者は一体何者であるのか、何よりも優先して調べる必要がある。

 彼女の校友を当たった。

 クラスメイトを調べた。

 品行方正で教師の覚えのめでたい優等生であるところの彼女だけに、教員室にも念入りに出入りした。

 結果、彼女との関係を疑うに足る人物がただ一人だけ浮かび上がった。


 客観的検証による麗しの彼女簒奪者ただの一人。

 彼自身である。


 勿論、そんなはずはない。あるはずもない。第一、彼自身に覚えがないのだから、あり得るはずもない。

 客観的視点から犯人を特定出来ないのであれば、最終的には彼女自身に問い質すより他はない。

 つまり、

「君は誰かと付き合っているのか。それは誰なんだ」

 と。

 単刀直入も甚だしい。文字通りの抜き身の刀だ。抜き身の刃でバッサリ。勿論、彼女ではなく自分自身への自傷という意味で。袈裟斬りにされて――いや、して、か? 自傷なのだから――胸から失血死するだろう、近いうちに。

 そうして返ってきた答え。

『私たち今、付き合ってるはずよね』

 まったく、完全に、完璧に。

 その台詞は予想外であった。

 自分に覚えがないのに、そんなことを言われても、混乱困惑するばかりで嬉しいはずがないではないか。

 この行き違いの原因は一体なんなのか。

 彼女のその可憐な唇から漏れる言葉として最上級に喜ぶべきものであるのに。

 それがもたらすのは混沌以外の何者でもなかった。

 彼の精神を奥底から揺さぶる混沌だった。

 彼の記憶にはないが、彼女の特別な相手は、彼女の言によると彼であると言う。これほどの矛盾があろうか。

 勿論、彼の希望通りに、彼女の言葉通りに、彼が彼女の特別な存在であることが最良ではある。だが、そんな事実はないのだ。厳に。悲しい事実ではあるが。

 そこで矛盾だ。

 彼自身に覚えはないのに、彼が彼女の特別な相手であると言う。これを矛盾と言わずしてなんとするのか。

 この如何ともしがたい齟齬。

 矛盾を解消する解はどこにあるのか――

 思考の迷路に彼の意識が沈み込んだ時、それは即ち、表層にある彼の人格は意識の深層に落ち込んだことと同義であった。

 物質として存在する肉体に生じた意識の空白。

 その間隙に付け込んで、意識の表層に浮かび上がってくるものがあった。

 彼であって彼でない者。

「そう、そうだった。

 ごめん、今日はどこへ行こうか?」



『見えざる三角形』了

 特にわかりやすい伏線もなく、このオチはあんまりなのではないか。「ノックスの十戒」が戒めるところの禁を破っているように思える。

 ミステリーじゃないんだから、ノックスだろうとヴァンダインだろうと関係ねーよ!

 とはいえ酷いのは事実である。何しろしこたまチャンポンしていたので。アルコールに浸した灰色の脳細胞がタイプした話より、酔っ払いのヨタ話の方がよほど面白いというのはまことに由々しき自体である。

 本質的にほら話であることは否めないが、重要なのはそうと意図して書かれたかどうかだ。理性によるペンで勝たねばならない(誰にだよ)。

 三者 いるから「三角関係」なのに、内容的に実質二者で図示すると「I」になっててお題のアイとかけてあるとかそういうわかりにくいトンチとかね。

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