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9.乗り越えられなかった現実

 アルフィンとヤルザンの二人が来てからは早かった。

アルフィンが私を抱えたまま剣を持って斬りかかり、ヤルザンは私とアルフィンに向けられる攻撃を全て強力で正確な魔法で無効化したのだ。

二桁はいると思われたロルルの部下はアルフィンに全て斬り倒され、残ったのはロルル一人。


「……やはり強いですね」

「アンタたちが弱いだけよぉ」


 形勢逆転。ロルルが呟くとヤルザンがウフフと笑う。

自分の軽率な行動の結果ではあるが、一時は死も覚悟したというのに、アルフィンとヤルザンのおかげで、それはあっという間に成っていた。

しかしロルルは最初の余裕こそ失ってはいたが、諦めてはいないようだ。

口の端を上げて嫌な笑みを作り、私たちを見まわした。


「そうですか。では、ご期待に沿うとしましょう」


 静かにそう告げた瞬間、ロルルの持つ魔力が急激に膨れ上がった。

彼の足元に赤色の魔法陣が描かれ、そこからあふれる力はどこか嫌な気配を持っていた。

そして、その魔法陣に見覚えのあった私の顔が青ざめる。


「―――ヤルザン! 防護方陣最大!!!」


 慌てて私がそう叫ぶと、アルフィンはヤルザンの背後へと跳び移り、ヤルザンは防護方陣――防御魔法の中で一番強いと言われる魔法――を張った。

その瞬間、私たちの目の前が真っ白になり強大な爆発音が響く。

防護魔法越しにもわかるその熱量に、ヤルザンの額に汗がにじむ。


「……これ…はっ!」


 木の杖を両の手で強く握り、両足で踏ん張るヤルザンの顔が驚愕に染まる。

そのヤルザンの様子に、アルフィンは私を抱える手に力を込め、剣を構えなおした。

白い光と共に襲ってくるその熱は納まるどころか、ますます強くなっていく。


「………っ!」


 ヤルザンの顔が辛そうに歪む。

彼はこの国一番の魔術師ではあるが、それでもロルルの放ったモノを防ぐのは辛いようである。

私はアルフィンに腕から降ろしてもらうと、ヤルザンの側へ…木の杖を握る両手の上に私の手を添えた。

体勢はそのままに、目だけでちらりと私を見るヤルザン。


「操作は任せるわ。なるべく少しずつ注ぐから!」


 私はそう言って、手元に意識を集中し、ヤルザンへと己の魔力を少しずつ注ぐ。

正直、私の魔力(ちから)は強くて大きい。回復魔法や防御支援魔法への適性が一切なく、使えるのは幻視魔法と攻撃魔法のみ。だからこそ、自分自身でもその力を持て余している私は手加減ができず、使えばロルルのこの魔法に対抗はできるだろうが、その代わりに国が滅びてしまうだろう。

なので、ヤルザンの魔力制御(きようさ)に賭けるしかない。

魔力が暴走しないように、ゆっくりと慎重に、ヤルザンへと魔力を注ぐのだ。


 王宮魔術師筆頭という位は伊達ではないようで、ヤルザンは私の魔力を暴走させることなく防護方陣の強化の為に使っている。先程までの張りつめた表情ではなく、余裕が出てきたのか笑みが浮かんでいる。

そしてしばらくそのまま私とヤルザンで防護方陣を保っていると、光は静かに収束していき、こちらを押しつぶそうとする熱はそのままどこかへ霧散していった。


「……さすがは陛下ね。これだけ上質な魔力は滅多にないわ、よ!」

「―――ヤルザン!」


 ロルルの攻撃魔法が完全に止むと同時にヤルザンは防護方陣を解き、その場に崩れ落ちる。

私はヤルザンを呼んで受け止めようとして失敗―――する前にヤルザンごとアルフィンによって支えられた。

見上げたアルフィンの顔に薄く髭が生えている事に気付き、少し顔が熱くなる。


「大丈夫かね」


 そんな私に気付くことなく、アルフィンはヤルザンと私へ問いかけた。

私はそれに頷くと慌ててアルフィンの支えから抜け出し、ヤルザンはそんな事よりロルルはどうなったのと擦れた声で言った。

その言葉にハッとしてロルルを見ると、彼は―――。



☆  ☆  ☆



 それから私たちは教会の前の死体を埋葬し、ヤルザンを含む生き残った魔術師たちの協力のもと、燃える教会の炎を消すことに成功した。

あんなに激しく燃えていたにも関わらず、教会の一番奥にある部屋は無事であったが、それは燃えていないという意味である。炎に強いその部屋は、その炎の生み出した熱までは防げなかったようで、部屋の中に逃げ込んだと思われる人々は全員死んでいたのである。


 その中に攻略対象のひとりであり、この騒ぎの中唯一出会えなかった男――シャーエン・リ・クリラルラスの死体もあった。

他の者には傷一つなく、その死因は炎の生み出した熱による脱水症か、密封空間にそれだけの人間が逃げ込んだことで空気がなくなり呼吸ができなくなったか、という理由らしい。

だが、シャーエン・リ・クリラルラス。彼だけは他の人々とは違い、その身体に無数の穴が開いており、その中のひとつが彼の心臓を傷つけていたらしく、それが致命傷だったのだろうとの事だった。

前世の記憶通りに、彼はロルルによって殺されたのだろう。

私は彼を助けることができなかった。遅かったのだ。


 そして、シャーエンを殺したであろうロルル。

私と同じ王家の血を引き、奇跡の神官(ひと)とも呼ばれた彼は、とても強かった。

彼は私たちへ最大級であろう攻撃魔法を放ち、それは城の分厚い壁を削り、その先にある城下町の一角を大きく押し潰していたのだ。貴族平民問わず、彼の魔法は多くの人間の命を奪い、だからこそ彼は許されなかった。

しかしその罪を問おうにも彼はすでに死んでいる。

そう、彼は彼の放った最大の魔法の熱に焼かれ、私とヤルザンが攻撃をしのぎ切ったその時にはすでに死んでいたのだ。


「……陛下」


 そんな事を考えながらぼんやりとしていると、ガルが私を呼んだ。

顔を上げてガルを見ると、気遣わしげな表情をしていて、それで私は今の状況を思い出した。

私は今、ロルルとコルトンの二人による謀反の後始末の結果を聞くために、玉座に座っている。

次々と騎士や兵士、大臣たちが入れ代わり立ち代わり、亡くなった者の名前やその状況、被害を受けた施設とその復旧にかかるだろう日数と費用の見積もり、ひとつひとつを私へと報告し、私はそれに時には頷き、時には代案を出していたのだ。

それが一段落着き、アンナの入れてくれた紅茶を一口飲んで休憩していたのである。


「……私は無力ね」


 王になるための試練を超え、自らを鍛え、信用できる臣下を得ることができた私は、それでも無力だったのだ。

試練とは何だったのだろうか。王とは何なのだろうか。


「私は―――」


 何で王になったのだろう。

そう言おうとしたその時、周囲の音の一切が消えた。


 何事かと思って周囲を見れば、従者のガルは気遣わしげに私を見たままの姿勢で、近衛騎士のセルファンと魔術師ヤルザンは私の座る玉座の左右に分かれて立ったままの状態で、公爵家当主のアルフィンと料理人のミルファルファは部屋の隅に置いてある椅子に座り、石になっていた。

驚き立ち上がるとどこかで聞いたような声が降ってきた。


≪――クリア失敗かぁ。惜しかったわね≫


 その声を発する者を探すが、カーテンの影から椅子の下、天井にも、誰もいない。

声はクスクスと愉快そうに笑い、それから私に告げた。


≪次はガンバッテネ!≫


 何をと口に出す前に視界は黒に埋め尽くされ、私は意識を失った。

ロルルは魔力の全てを使って主人公たちに攻撃を仕掛け、自分を守る魔力を残していなかった為に、自らの魔法に焼かれたのでした。

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