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7.もうひとりの

 そこは地獄だった。

空を紅く染め上げるほどの大きな炎に包まれた建物が轟々と音を立て、象徴ともいえる女神像が崩れ落ちる。

肉や土の焼ける臭いと一緒に、たくさんの悲鳴や嘆きがあった。

思わず足を止め、呆然とそれらを見ていると、怪我人を手当てしていた一人の男が私に気付いた。

その怪我人にひとこと何かを言うと、側にいた兵士にその怪我人を任せた。そして私の方へと近づいてくる。


「――よかった! ご無事だったのですね」


 声をかけてきた男は煤でかなり汚れてはいるが神官服を着ている――神官ロルル・レイン。

平民出ではあるが、世界でも少ない光魔法の使い手であり、その力の偉大さ――死んでいなければどれだけ大きな怪我をしていようが治せる――から、城に併設されている教会の神官へと引き立てられた男である。

光魔法という白いイメージからは遠く離れた黒い髪と目を持っていて、その事でたまに心無い者に陰口をたたかれているが、それが聞こえても本人は微笑むだけで何も言わない、とても強い人である。


「ええ。ガルとセルファンのおかげね。そんな事よりロルル、これはどういう事なの?」


 教会は未だ強く大きな炎に焼かれ、焼け焦げた灰が熱気と共に降っている。

そんな教会を見上げて十字をきり祈る者に炎の中から運び出されたと思われる焼け爛れた何人もの怪我人にそれを助けようとする兵士たち。

そして物言わぬ姿となって地にそのまま横たえ並べられ、申し訳程度に顔に布をかけられた――たくさんの死体。


 煤をつけ少し疲れた顔のロルルに説明しなさいと命令し、腕を組んで見上げる。

ロルルは少し考え、ここはまだ混乱しているから少し移動しましょうと提案してきた。

もちろん私はその提案を――受け入れない。

そして代わりにナイフを彼の首に突きつけた。


「リチェリア様!? これは一体――」

「黙りなさい ロルル・レイン。私は、これはどういう事なのか、と聞いたのよ」


 私の言葉と態度にロルルは困ったように頭をかき、そして私の手首をたたきナイフを落とした。

それと同時に私は後方へと跳び、ロルルから距離を取る。

ドレスの下に隠してある投げナイフを数本手に取り、いつでも投げられるように構えた。


「……困りました」


 そう言いながらロルルは叩き落したナイフを拾い上げ、困ったような顔で私を見た。

その濃い黒の目の奥では何を考えているのか、わからない。


「……貴女がここにいるという事は、コルトンは貴女を殺せずに死んだのですね」


 いつもならば安心できるその微笑みが、今は恐ろしい。

ロルルが私の方へ一歩踏み出し、私は一歩後ろへ下がる。

彼の表情は変わらず、その隙の無さに私は背中に汗をかいた。


「コルトンを殺し、私にコレを突きつけた、という事は全てを知っていて――わかっていてここに来たのでしょう? なのになぜ、逃げるのですか?」


 言いながら、拾った私のナイフをひらひらと私に見せつけて、違和感のない動作で私へ向けて投げた。

ナイフの刃は私の頬に赤い筋をひとつ付け、私の背中側にある壁にカンと当たってそのまま落ちる。

意外と近かったその音に、後ろへ引くのもあと2歩か3歩で限界と知った。


「それは当たり前よ。貴方の射程範囲でジッとしてたら……貴方は私を殺すでしょう?」


 恐怖を押し込めて、無理やり笑顔で言うと、ロルルの顔が一瞬かたまり、それから弾けるように声をあげて笑った。

そのまま私へと一歩近づいてきたので、私はもちろん一歩下がる。

彼の魔法――光魔法はとても強いものではあるが、その発動できる範囲は狭い。


「あはは、やはり貴女は面白い人ですね。好きでしたよ、そういう所」

「でした…という事は過去形なの? 今は嫌われてしまったのね、かなしいわ」


 彼の言葉におどける様に返すと、彼はほんの一瞬――瞬きするより短い間――だけ泣きそうな顔になったが、すぐにいつもの微笑みに戻った。


「もちろん今も好きですよ。でもその前に、貴女は私の敵ですからね」


 彼は神官ロルル・レイン。

「プリンセス・フェアリー‐身分違いの恋模様‐」の隠しキャラであり、このノーマルエンドの原因となったもうひとりの人物である。

※12月28日 肝心の言葉が抜けてたので追加しました。あぶないあぶない…

※12月30日 誤字修正しました

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