5.データと感情
本日2回目の投稿です。
ちょっとした説明回?です。
「プリンセス・フェアリー‐身分違いの恋‐」には攻略キャラクターが隠しキャラクターを含めて8人いる。
その8人それぞれの好感度の程度によりルートは分岐し、結末が決まる。
そしてこのゲームの難しいところは、各攻略キャラクターの誰かの好感度がマックスであっても、一定の条件を満たしてしまえば各攻略対象へのルートへは行かずに、トゥルー・ノーマル・バッドへと分岐してしまう部分にあるといえる。
近衛騎士のセルファン・ラ・メルセルドと私の従者のガル・オーラは通常の攻略対象であり、コルトン・ラ・セルドは隠しキャラクターの中のひとりである。
そう、コルトン・ラ・セルドも攻略対象のひとりであり、ややこしくなるのでガルとアンナには告げなかったが、私が突入していると思われるこのノーマルエンド――全滅エンドの全滅にはもちろん彼も含まれるのだ。
コルトンの死因はこの私――リチェリア・ミル・ジ・レイアーナに殺される、というものである。
それというのもこの全滅エンド。
このエンドへの突入条件はいくつかあり、そのすべてに隠しキャラが大きくかかわっているのだ。
そのひとつに「コルトンに試練を手伝わせずに好感度をMAXにする」というものがある。
彼は隠しな攻略対象ではあるが、そのゲーム中では存在を隠されてはいない。
むしろこれでもかと言うほど……乙女ゲーによくある友人アドバイスキャラクターの位置付けのようにちょこちょこ出てくるのだ。
なので、友人としての初期好感度も高い彼の好感度は気をつけなくてはすぐにMAXまで上がってしまう。
攻略対象としてはとても攻略しやすそうに思えるが、そこは一応隠しと呼ばれる攻略対象であり、罠なのだ。
そう、彼は好感度をMAXにするだけでは攻略できないのだ。
彼を攻略対象に昇格させるための条件――王になるための試練を手伝ってもらう、というものを満たさなくては、たとえ好感度が上限であっても彼は攻略できない。
それどころか攻略条件を満たさずに好感度をMAXにしてしまうとそれだけで――たとえ他のキャラクターとのグッドエンド条件を満たしていたとしても、強制的にノーマル――全滅エンドへ突入するという鬼畜仕様なのである。
ちなみに彼のグッドエンドへ行くためには、試練を手伝ってもらうだけではなく、さらにいくつかの細かい条件があるのはお約束、というものであろうか。
☆ ☆ ☆
「気づいていたのか」
困り顔で首を傾げ、コルトンは私にそう言った。
もちろん前世の記憶がなければ気付けなかった事であるが、それを告げる訳にもいかないので誤魔化そうと決め、胸を張ってから答える。
「もちろんよ! 私を誰だと思っているの?」
「…そうだね。リチェは僕の事なら何でも知っているものね」
困った顔で笑って、いつも通りに私の愛称を呼ぶ。
そんなにあっさりと納得できちゃうことなのかと思ったが、それは顔に出さない。
あまりにもいつも通りの反応に泣きそうになったが、それも彼には見せない。
「さすがに、好きだからと言って、私に殺される為に私を襲って人を殺すような気持ちはわからないわよ?」
気にはなるけどわからないのよねと、何でもない事のように言えただろうか。
虚勢でも張らねば耐えられない。
「そうだね。それでいいと思うよ」
痛みをこらえるように苦い顔で笑ってコルトンはそう言った。
なぜそんな手段を選んだのかと彼の口から聞きたかったが、彼は私には何も言う気がないらしいと理解する。
もちろん前世の記憶で理由も動機も知ってはいる。
知ってはいるが、それでも割り切れないものなのだ。だから、とても悲しい。
「リチェ、僕が言えた義理でもないけどそんな顔しないで。ね?」
私は感情を隠すことに失敗したようで、コルトンが私をなだめるような声を出す。
その顔は、私が下を向いている為に見えない。見れない。
それが前世と現世の違い。
ゲームではただのデータであっても、現実では喜怒哀楽が多大に乗ってしまう感情の世界なのだ。
「そうだ。リチェ、早く神殿へ行った方がいいよ」
思い出したようにコルトンが言った。
突然何をと思って彼を見れば、彼は優しい顔で私を見ていた。
視線は合うが、彼の視線からは何も読み取れない。
「僕の役目は君を殺す事だったけれど、この騒ぎの目的はそれだけではないからね」
その言葉で私は思い出し、少しだけ焦る。
そうだった。彼の事も大切であるが、今はそれだけにかまってはいられない。
私は気合で自分の感情を飲み込むと、顔を上げた。
セルファン、ガル、コルトンの3人は死ぬはずの事件を越えたが生きている。
大丈夫。彼らと生き延びることができたのだ。
前世のゲームでは回避しようがなかった事でも、現世の今はちゃんと回避できたのだ。
他の攻略対象たちだって生き延びることはできる!
私はガルとアンナに指示を出し、彼らの静止も聞かずにそのまま部屋から駆け出した。
※12月24日 誤字を修正しました。
コルトン視点を書いた方がわかりやすいかなと思いつつ、コルトン視点で書くとまだるっこしいかもだからサクサク次に進むべきかなとも思ってしまい、次をどうするかで、ちょっとだけ悩んでます。