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3.裏切りの理由 前

 息を大きくはき出し、深く吸って、顔を上げる。

目の前の扉の向こうからは剣と剣の激しくぶつかる音が聞こえる。

一発勝負。リセットはない。

そう思うと脂汗のようなものが浮かび、動悸が激しくなる。

失敗は許されない。が、落ち着かなくては成功はない。


 幼い頃から付けている守りの石の首飾りを服の上から握る。

布越しでもわかるくらいに、均一に丸く削られたその石をひとつふたつと数え、9個全てを数える頃には鼓動は落ち着きを取り戻し、浮かんでいた脂汗は引っ込んでいた。


――大丈夫、私はできる。大丈夫。


 そう自分に言い聞かせ、大きく息を吸い、そしてリチェリアは扉に手をかけた。



☆  ☆  ☆



 全身黒い装束の男と近衛騎士セルファン・ラ・メルセルドは幾度目になるかわからない回数、その剣を合わせ、斬りあっていた。

どちらにも傷はひとつとしてなく、様子見をしているのか、汗も浮いていない。

だからこそ、どちらの顔にも油断はなく、険しい顔で相手の隙を探して何度もぶつかる。


 幾度目かわからないそのぶつかり合いを重ねた後、男とセルファンは一定の距離を取る。

視線は油断なくお互いを監視し、今のままでは何も変わらないのはお互いにわかっていた。

おそらく次は何かしらお互いに動くであろう事がわかっていた。

だからこそ、セルファンは口を開いた。


「……貴方は何故、リチェリア様を害そうとするのですか?」


 しかし男はその言葉に反応を示さず、セルファンとの距離を測るように少しずつ動く。

その動きに何が目的なのかを察したセルファンは、いつでも対応できるように男に合わせて動きながら、それでも諦めずにもう一度、男に聞こえるように先ほどより大きな声で問いかけた。


「貴方は何故、リチェリア様を裏切ろうとするのですか!」


 その声に男は動き、セルファンへと切りかかった。

動揺した様子は見られないが、先ほどまでの斬り合いよりも強く重いその剣にセルファンは、ぐっと声をもらし、それでも視線は男からそらさない。

そしてその重い剣を跳ね除けると同時に大きく踏み込み、セルファンが男の足を外側からひっかけるように動かすが、男はそれをさらに踏み込むことで回避し、先ほどまでのお互いの位置を交換した二人は振り返ると同時に剣を交える。


「答えてください、コルトン殿!」


 男の使う剣技やその癖、そして剣を交えた感覚に、セルファンは確信をもって男の名を叫んだ。



☆  ☆  ☆



 コルトン、とセルファンに呼ばれた黒装束の男は、貴族であった。

名前はコルトン・ラ・セルド。

セルファンと同じくラの階位――子爵であるセルド家の跡取りで、趣味は園芸。

その豊富な植物に関する知識とどんな植物でも枯らさずに育て上げる技術に関してはこの国どころか世界中を探しても、コルトンの右に出るものはいないだろう。

そんな趣味を持つ彼は、セルファンの主でありこの国の女王となったばかりであるリチェリアの、数少ない友人――臣下はたくさんいるが友人と彼女が言い切る人物は少ない――のひとりであった。


 趣味の友人を危険なことに巻き込むことを良しとしなかったリチェリアの意思から試練に関わる事はなかったが、セルド家跡取りであるコルトンはセルファンと同じ剣の道場へ通っていた兄弟弟子としてよく剣を合わせていたし、リチェリアの趣味を同じとした友人であるからか彼女の口からはよく(コルトン)の名前を聞かされていた。

だからこそ、そんな主の友人である彼がなぜ、主であるリチェリアを裏切り、害そうとするのか。

セルファンには考えても考えてもわからず、自然と苦いものが声音に交じるのだ。


「コルトン殿!」


 セルファンがそう叫ぶと同時にコルトンはセルファンの剣を受け流し、その場へかがむ。

剣を持っていない方の手を懐へ入れて何かを取出し、それをセルファンの横腹へと突き出した。

その何かに気付いたセルファンは咄嗟に左手でかばいながら後ろへ飛び退き、致命傷を避けた。

致命傷は避けたが、左手首の骨は砕け、大きく切り裂かれたその傷からは血が流れる。

それでもセルファンは目に力を込めてコルトンをにらみつけ、コルトンも油断なく剣を2本、構えなおした。


「なぜ、何も言わないのか!」


 何も答えないコルトンに、それでも何か理由があるのだろうとセルファンが言葉をかける。

その様子にそれまでセルファンに斬りかかる以外には何の反応もしなかったコルトンの――黒い覆面で目元しか見えていないが、その眉の間に皺が寄った。


「コル――」

「セルファン」


 なおも続けようとするセルファンの言葉を遮り、コルトンはセルファンの名前を呼んだ。

構えと視線はそのままにセルファンは黙り、コルトンの続きの言葉を待つ。


「僕と君は敵同士。それ以上でもそれ以下でもない」


 欲しい答えではなかったが、その静かな声はまぎれもなくコルトンのものであった。

だからこそ、セルファンはその言葉を否定するように声を荒げる。


「なぜだ! 君は陛下の……リチェリア様の友人だろう!?」


 コルトンはそれには答えず、セルファンの左手の方から回り込むように攻め始めた。

回復魔法を使う余裕はなく応急処置もできない――ケガをした左手を使い受け流すことができないのだが、それでもなんとかひとつめの剣を体をひねって避け、右手に持った剣でふたつめの剣を受け流す。

新しい傷は作らずに済んだが、左手から流れる血は容赦なくセルファンの体力を削っていく。


 セルファンの額に脂汗が滲み、しかし痛みも減っていく体力も気合で乗り越えると彼は次は自分だとばかりにコルトンへと斬撃を放つ。

そのまま二人は無言で剣を交え続けた。



バトルシーンがなかなか書けなくて遅くなりました、ごめんなさい。

そして、続きます。

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