第十八話:妹です
「らーかーらー、フィル、れったいに変よ!」
呂律の回らない声で意味のない事を訴えるセーラの姿は遠目からみても至近から見ても立派な酔っぱらいだった。
隣ではその後ジョッキを二回おかわりしたガルドがさすがに許容を超えたのか完全にダウンしている。それでもリバースする気配がなかったのはさすがだろう。僕だったら一杯目で意識を失い、仰向けに転がったままリバースして窒息していたに違いない。
しかし、彼らの探求の予定は大丈夫なんだろうか……いや、まぁ僕が薦めたのも一因ではあるんだけど。
セーラ達のような僧侶の使用する状態異常回復の魔法は酔いこそ覚ませてくれるが、消耗した体力までは回復してくれない。だから、たまに酔いは回復させたが、飲み過ぎで体力を消耗して素面で倒れる哀れな僧侶の姿を見ることができる。
完全に正気を失くし、真っ赤な顔でぎゃーぎゃー喚いているセーラは大分目立つ。纏う燐光は通常よりも遥かに不規則な明滅を見せていて、それがまた目立つ。
しかも何を言っているのかわからないからたちが悪い。
僕は閉口しながらも、セーラとガルドが完全に参加したことで追加注文したおつまみに手を付けた。
「きいてるの? ふぃーるー!」
「……ああ、聞いてるよ」
本当だ。聞いてはいる。
聞いてはいるけど全然何を言っているのか理解できてない。
話していてわかったのは、彼女が僕に対して並々ならぬ感情を抱いているという事だけだった。そして、それは残念な事に恋心とかそういう甘酸っぱいものではないだろう。
僕は、セーラが近づいてきた際にちらりと見えた、丁寧に腰に下げられていた頭蓋骨のキーホルダーを思ってため息をついた。
もしかしたら僕は与える相手を間違えたのかもしれない。
それを僕がセーラに処方したのはもう二週間以上前の事だ。まだそんな玩具に左右されているようでは、探求者としての格が知れる。
まぁ、それもまた悪くないのかもしれない。探求者の格なんてもともとそう高くない。僕がもしセーラのような囁く光霊だったならば、恐らく探求者になんてならなかっただろう。もっと異なる道で高みを目指せる。どっかの聖人に仕えるとかね。
もちろん、それをセーラに押し付けるつもりはない。セーラの人生はセーラのものだ。僕の人生が僕のものであるのと同じように。
ただそれが解っていてさえ、止まらないやる瀬無さは僕の抱く業だと言えるだろう。
「らんでー、あんたがー、SSSで、私が、Cなのよー!」
セーラが真っ赤に熟れた表情でタンブラーを呷った。完全に眼が座っている。
スピリット用の強い酒だ。それは一般的なヴィータの飲む酒と同様に液体状で、その度数は仮にも気体だったエクト・スモークより遥かに高い。
もし僕が彼女に薦めた結果、彼女がそれを飲んでいると仮定すると、後で訴えられたら恐らく僕が負ける。それくらい強い酒だ。幸いなことに、僕は何も示唆せず、セーラが勝手に頼んで勝手に酔っ払っているだけなので僕が訴えられる事はないはずだ。
しかし、これは酷い。
何が酷いって、ここまで酔っ払っているのに着衣の乱れが何もない。色気が足りない。
後衛とは言え、探求者が着こむ衣装は第一に頑丈さを求められている。
騎士や戦士などの前衛ではない、後衛の探求者が好む装備として、もっとも有名なのが『旅衣』シリーズだろう。系統はローブだが、特殊な布で作られており、鎧ほどの防御力はないが、魔術師職の装備できる装備としては、それなりの防御力を誇るコストパフォーマンスに優れた品だ。
アムも装備していたし、セーラも装備している。幾つか種類があり、グレードに応じて素材や色は変わるが基本的なデザインは決まっており、身体の線が分かるその装いは特にスタイルの良い探求者に高い評判を得ているらしい。
別に悪くはない。悪くないけど、こう、手で触れても硬い生地しか触れられないので僕は全く不満です。はい。
口やかましく叫びまくっているが、セーラのとろんと眠そうに瞬かれる瞳にはその口調程の気勢が見られない。
「はいはい。ちゃんと食べ物も食べないと――凄い速度で酔っ払うよ」
「んむ……ありがと……」
ひな鳥に餌でも与える気分で、セーラに食べ物を与えていく。その度に僕の中のセーラの情報が微に入り細を穿つものになってくる。
飼うつもりもない野生のスピリットに餌を与えるのは罪悪だが、セーラは野生のスピリットではないので問題ないはずだ。
次から次へと餌を与えているうちに、何故か幸せな気分になっていく。セーラの崩れた相好が僕にとっての愉悦だ。
僕は魔物使い。餌付けはお手の物である。それが日常生活で役に立ったことはもちろん、ほとんどない。
「そうだな……セーラ。探求者ランクを上げるいい方法を教えてあげよう」
「ん……うー……」
目を白黒するセーラ。
もうほとんど僕の言葉も頭に入っていないだろう。明日になれば忘れてしまうはずだ。
僕はピーマンの肉詰めをセーラの口に運びながら、明確な答えを出してやった。
「依頼を受ける事だよ。自分のランクよりも遥か上の依頼を。それだけであっという間にランクはあげられるだろう」
もちろん、代償は自身の命だからあまりおすすめはしない。
アシュリーの成長は僕にとって想定外の代物だったが、それを持ってしても、今まで命の危機に瀕した機会は両の手の指で足らない。黒鉄の墓標の探索だって、一歩間違えれば死んでいてもおかしくなかった。
しかし、死地にこそ栄光の臭いが濃いのもまた確かだ。
僕には経験がある。だから、見極めができるがセーラにはまだ無理だ。
かくん、とセーラの頭が大きく揺れる。完全に意識を失ったか、ふらふらと危なっかしく揺れ動く頭は、どこかグラエル王国で待っているはずの僕のスレイブを思い出させた。
やれやれ、まだ昼間だというのに、このテーブルは情けないね。
同伴者が全員ダウンしてしまったため、一人さびしく手酌でグラスに酒を注ぐ。午後からはまた図書館に行こうと思っているので、酒量はある程度調整していた。ついでに同伴者が潰れたのでしらけてテンションが下がっている。僕はまだ冷静だ。
僕はまだ冷静だ。
「……何をやってるのですか……」
その時、呆れたような声が聴覚を刺激した。
重い頭をなんとか動かし、顔を上げる。
そこには、僕がここ数日、アムの次に焦がれた顔があった。
微妙に霞む眼をこすり、笑顔を作りなおして視線を向ける。
「……やぁ、エティ。久しぶり」
「……久しぶりなのです」
どこかバツの悪そうな表情で答えるエティの後ろには、酔いつぶれたガルドとセーラが所属するクランのマスター……ランドさんまで居た。
SS級の探求者が二名。そして、その後ろに覗く顔ぶれもそうそうたるもので、僕は直接コンタクトこそ取ったことはないものの、顔も名前も知っている。
多分向こうはこっちの事を知らないだろうけど。
一流クランの長、ナンバーツー。
冒険者ギルドレイブンシティ支部のマスターに副マスター。SS級、S級に区分される探求者の中の第一線。そしてこの街の町長など、政治の中心。
そこには、この街においての上位層が集まっていた。
今日がオフでなかったら僕も某かの行動をとらねばならなかっただろう。今後の円滑な探求のために。
まぁ、今日はお休みだから何かするつもりはないけど。
ランドさんと一緒にいるという事は、エティも大規模討伐依頼に関する集まりに参加してきたのだろう。機械種の群れを相手に、彼女程のメカニックを遊ばせておく手はない。
エティがこの街を訪れた一端は『灰王の零落』にあった事はもともと分かっていたことだ。大規模討伐依頼発生時に上位の探求者を他の街から呼び寄せるのは別におかしい事ではない。
なんたって――ともすれば街の命がかかっているのだから
「ランドさんも……久しぶり」
別に避けていたわけではないが、探求者の活動の場は大体街の外だから同じ街に住んでいても出会わない時は徹底的に出会わない。ランドさんに会うのも十日ぶりくらいだ。
明けの戦鎚のクランマスターは、若干引きつった表情でガルドを指さした。
「あ、ああ……で、そこのうちの副マスターは――」
「ああ。ちょっと飲み過ぎちゃったみたいで……」
「そ、そうか……いや、まぁ……うん……」
ランドさんの視線がガルドと、僕の隣でくらくらしているセーラに交互に移り、情けない表情になった。
「いくらなんでもこんな朝っぱらから?」「セーラまで? いや、でも……」と、口元でブツブツつぶやいていたが、すぐにこちらの視線に気づいたのか、清々しいまでの勢いで頭を下げられる。
「なんか色々と……申し訳ない」
「……え? あ、うん」
どちらかと言うと僕の方が申し訳ない。
まぁ、彼らが飲み始めたのは僕の意志ではなく、彼らの意志とは言え……僕が飲んでいなかったら彼らも飲まなかったわけで……
しかし、ただの会議に出ていただけのはずなのにランドさんもエティも随分と重装備だ。
武器を持っているのは探求者として当然の配慮だとしても、重さ数十キロは下らない鎧を着込んでいるのはいくらなんでもやり過ぎだと思う。よく疲れないものだ。僕はその体力が凄く羨ましいよ。
エティもエティで、さすがに魔術師職なので鎧こそ着てないものの、その兵装はランドさんが着ている全身鎧に負けずとも劣らぬものだった。
探求者の上位層の装備のほぼ全てにはありとあらゆる害から身を守るために無数の付与魔法がかけられている。重量軽減は基本として、衝撃耐性、属性耐性、自己修復から宙を踏み歩くための空歩と呼ばれる付与など、物理現象に干渉するものまで、その種類も質も様々だ。
一個だけでも幅が広がるそれらの効果は強力だが、しかしデメリットもあり、付与魔法のついた装備の類は、装備者の魔力を吸って起動するものなのである。
装備者の意志で起動するのならば負担は起動時だけで済むが、防具類に掛けられたエンチャントは大抵常時起動なので、装備者は少しずつ魔力を吸われていく事になる。故に、如何に探求者と言っても、戦闘を想定しない日常生活で完全装備をすることはまずありえない。
上位層にとっては僅かな魔力かもしれないが、身体に対しては馬鹿にならないストレスになる。
だから僕は、半ば唖然としてエティの身を包む『機神』を眺めていた。
一体、彼らは会議室で何と戦っていたのだろうか?
探求者ってのは物々しくていけないね。僕なんて探求中も普段着だってのに……
「仕事は終わったの?」
「……はぁ。仕事というより、まだ打ち合わせの段階なのですよ……」
大きくため息を付くエティには珍しく疲れが見えた。
やれやれ、そんなんじゃ肝心の討伐時にベストを尽くせないよ?
せっかくその身に秘めたポテンシャルもいざというときに出せなければ無意味だ。
言わなくてもSS級探求者ならとっくにわかっているだろうけど……
だから僕は、せめて一言だけ応援の言葉を述べた。グラスで唇を湿らせて。
「まぁ、頑張りなよ」
「……そういうフィルは何をやっているのですか?」
「今日はオフなんだ」
「やれやれ……呑気なのですよ……」
そういうエティの表情はどこか羨ましそうだった。
休める時に休む。
それもまた一つの資質だ。
ずっと気を入れていたら疲れきってしまう。特に僕は基礎能力がないので、疲弊も早い。
どんな時にでもリラックスできる能力は僕が持つ能力の中で有数に役に立つ。
初めの内はやや固かったエティの表情が会話をする内に少しずつ緩んでいく。
緊張していたのか? 最近会わなかったのもあるのかもしれない。最後に見たのは、彼女が魔力欠乏でぶっ倒れていた頃だ。
見た所、後遺症もないようで、僕は少しだけ安心した。
魔力欠乏による意識喪失は、脳機能に障害が出る可能性がある。だから、意識を失うほどに魔力を使いきってはいけない。
表情が弛緩した瞬間を狙って、エティの視線をしっかりと視線で捉えた。
呼吸がわかる。薄い、しかし確かな存在感を持った胸が緩やかに呼吸を繰り返す。収縮を繰り返す。
「もう身体は大丈夫なの?」
「あ……はい……そんなにやわじゃないのです」
一瞬戸惑うように詰まったが、すぐに満面の笑みでエティが応えた。
そりゃそうだよね。君、僕よりよほど強いしね。
何にせよ、元気なのが一番だ。僕も釣られて頬が緩んだ。
ふらふらしているセーラと、突っ伏しているガルドのせいで空き席は一つしかない。近くのテーブルから椅子を引っ張って持ってきた。
ランドさんとエティの前に。
「まぁ座りなよ。もう会議は終わったんだろ?」
「いや……まぁ、会議は終わったけど、一応クランメンバーの最終調整などもあってね……」
明けの戦鎚はこの街では上位の規模のクランだ。
上位ということは、その構成メンバーも実力者揃いであるという事。
今回の討伐依頼、『灰王の零落』の下限はB級以上の探求者となっているが、それを満たすメンバーも多いのだろう。
いや、クラン全体で討伐に当たる可能性もある。その場合、特例で依頼の条件であるBランク以上の探求者という制限は撤廃される。
自らのクランのC級以下の未熟な探求者が参加するとなると、さらにすべきことは多いはずだ。
「最終調整か……何するの?」
「パーティの振り分けや連携の確認、後はモデル・アントの機械種の対応方法の確認や事前の準備、やることは山のようにあるさ」
過保護なことだ。
口ぶりからするとやはりクラン全員で挑むのか。
だが確かに、SS級のランドさんならばともかく、攻撃力の高い機械種を相手にするとなると、ランクの低いメンバーへのフォローはあればあるだけいい。僕達にはアリスと違って――命は一つしかないからね。
「まぁ、そういうことなら、引き止めるわけにはいかないね……エティは?」
「えっと……」
エティがちらりと後ろに視線を投げる。
その先にいたのは、エティと同じくらいの身長の青年だった。
会ったことはないが見たことはある。
世界各地を旅する探求者の肝の一つ。それは、まず新たな街を訪れたら第一に調べるべきものだ。
年齢は恐らく僕よりも上だがプライマリーヒューマン換算で三十にはなっていないだろう。柔和な双眸に似合わぬ鋭い目つきに、左目に付けられた片眼鏡がその落ち着いた態度に拍車をかけている。
レイブンシティの冒険者ギルド。その、副ギルドマスター。
マクネス・ヘンゼルトン
機械種の蔓延る街の探求者達を統べる者。
有名人にはそれなりの代償が発生する。彼の身の上を調査するのはそれ程困難な話ではない。
翻って、僕の顔はまだこの地であまり知られていない。
マクネスさんは面白いものでも見る表情で僕とエティの様子を見ていたが、やがてエティの方に的を絞った。
「エトランジュ……彼は?」
「あ……えっと……」
珍しく言葉少ななエティの代わりに、僕は椅子から立ち上がった。
回った酔いのせいで一瞬足元がふらつくがなんとか立て直す。
第一印象で呑んだくれはあまり良くないが、仕方ない。オフなのだから本来ならば挨拶もしない所だが、こうなった以上きっちりやらせてもらおう。
「初めまして、僕の名前はフィル・ガーデンです」
「……なるほど。私はマクネス・ヘンゼルトン。レイブンシティのギルドの副ギルドマスターをやってる。フィルさんも探求者なのかい?」
「はい。まぁ、この街には二十日前に来たばかりですけど……」
「ふむ……外から来たのか」
マグネスさんが品定めをするように僕の全身を見る。副ギルドマスターともなれば、目利きの眼は一級だ。
後ろでエティがどこか不安げな表情で袖元のボタンをいじっていた。
しかし、言われてみれば僅か二十日で本当に色々な事があったものだ。
ここにきてからたった二十日で何回死にそうな目にあったか……
まるで隠す様子もなく堂々と数十秒間、僕の全身を見定めていたが、やがて顔を上げた。
合格か不合格か。それは神のみぞ知る。
続けて面接のような、娘の彼氏にあった父親のような台詞を投げかけてくる。
「エトランジュとはどういう関係なんだ?」
「あ……それは――」
エティが何事か言いかける。
ここで答え方を間違えてはいけない。人生には分岐点があり、答え方次第では全く異なる道を歩むことになる。
僕はエティが余計なことを言う前に即答した。
「妹です」
「え!?」
「妹!? 機械魔術の担い手、エトランジュ・セントラルドールに兄がいるなんて初めて聞いたが……」
マクネスさん、エティ、どちらも目を丸くする。
まぁ、妹と言ってもただの妹ではない。ソウル・シスター……魂の妹だ。
目をそらし、グラスの中の酒を呷る。
僕はエティが余計な事を言う前に、口を挟む。
口調がやや憂鬱げになってしまうことは止められなかったが……
「……色々、事情があるんですよ……」
「……なるほど。まぁそういう事にしておこうか……」
その表情に納得の色は見えない。が、十分だ。他人に理解してもらおうとも思わない。
それは僕とエティだけが理解できれば十分な事だ。
マクネスさんから視線を外し、後ろのエティに向かって腕を大きく広げた。
「さ、エティ。おいで」
「……え!?」
エティの眼が一瞬大きく見開き、可哀想なものでも見るかのような眼に変わる。
僕は頭の中で、エティを後ろから突き飛ばすよう命令して、寝起きのアリスに強く拒否された。
悲しい事だった。僕に味方はいないのか。
へべれけに酔っ払ってつっぷしている巨乳のスピリットを見る。
僕の味方は君だけだ、セーラ。多分いないよりはいる方がマシなんだろう。多分、きっと、恐らくは。
「そうだ、フィル! 昨日私の家にアリスが――」
「ちょっと待った」
手の平を向け、何事か言いかけるエティを止める。
エティとアリスには確執がある。過去の事とは言え、人の心はそう簡単に解決されない。
背の低いエティと、それよりも数センチだけ背の高いマグネス・ヘンゼルトンを眺める。
頭頂に生えた小さな角にやや尖った眺めの耳。幻想精霊種の一画にして、メカニカル・ピグミーに匹敵する機械種の扱いに長けし者。
かつて妖魔の一種とされた『絡繰を操る悪魔』。
その特徴は同じく幻想精霊種をスレイブとしていた僕には一目見て分かるものだ。
グレムリンなのならば、機械魔術師のクラスを持っていないなんて事は考えられない。プラスで何かを持っている可能性があるとしても、最低でもそれは持っている。
メカニックの持つスキルは機械種に対して効果が抜群だ。彼らのスパナはかすっただけで一般的な機械種をバラバラにし、その電撃は硬質の金属でできた装甲を伝播しその存在核に致命的な傷を与える。
エティとマグネスさんならば、機械種がダース単位でかかってきても敗北はない。
なるほど、機械種蔓延る地における最強とは即ち機械魔術師に相違あるまい。
とてもあっている。ああ、とても、理屈にあっている。彼女たちは順調にいけば、この地で一生を強者として過ごす事ができるだろう。
「い、いきなり、な、何なのです……か?」
『灰王の零落』はその人生、日常の延長線上だ。
SSS級の大規模討伐。その極上の苦難、試練の中でもエティとマグネスさんは挑戦者ではなく、そしてきっと探求者ですらない。
だが、それは多分とても危険な事だ。
いきなり会話をせき止められたエティがおずおずと問いかけてくる。
僕はその海のように透き通ったその碧眼を見つめ、機械魔術師のクラスを持つ探求者としての彼女と、そして趣味の合う『魂の妹』としての彼女の前途を祈りただ一言だけ言った。
「僕、今日はオフなんだよね」
ファミレス涼しい。
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