第七話:思ったよりも強い
モデル・クリーナーが支配しているD級迷宮『黒鉄の墓標』は、鬱蒼と茂る鉄の森の深部にあった。
鋼鉄で構築された植物に、赤茶けた金属の葉が降り積もる大地。それは明らかに自然に作られた『それ』ではない。
僕は、長時間の揺れにげんなりしながら風の船を降りると、その異様の光景に息を飲んだ。書物では既に知っていたが、自分の眼で見るのは初めてだった。
そして再びげんなりした。
ただ移動しただけなのに、僕の体力は既に限界だった。
だが、他のメンバーが全然何ともなさそうなのに僕だけが文句を言うわけにはいかず、スタミナを回復するために飴を口に放り込む。
アムと一緒に『機神の祭壇』に潜った時にも食べていたものだ。気休め程度だが無いよりは全然マシで、頭を振って疲労を振り払う。
身体が鉛のように重かった。
「フィル……落し物」
「あ、ありがとう」
回復薬を取り出した時に誤って落としたのか。
スイからばらばらな小物を受け取った。道具袋の中身をぶちまけるなんて探求者としては痛恨のミスだ。
数と中身を改めながら丁寧に袋にしまい、紐で口を縛った。
「さぁ、ここからが本番だ……」
セイルが真剣な眼で宣言した。
その表情にも仕草にも疲労は微塵も見えない。いや、まだ何もしてないんだからそりゃそうなんだけどさ……
当然ながら、セイルよりも遥かに若く見える双子もスイも万全の状態だった。
僕が一般人扱いされる理由もなんとなく分かるってもんだ。これでも鍛えてるんだけどなあ。
地面に落ちている光沢のある銅色の葉を一枚、拾い上げる。
幅二十センチ程ある肉厚の大きな葉はずしりと重い。躓いたら足を痛めてしまいそうだ。
非常に精巧な構造物だった。扁平の大きな葉っぱはまるで本物の植物が金属化したかのように滑らかに伸び、美しい造詣を成している。
ただし、それは見たことがない形をしていた。葉の形、葉脈の模様。茎の伸び方に至るまで。
「お兄さん、そろそろ出発するよ? 何してるの?」
「いや……何でもないよ……」
葉を鼻に近づけ、匂いを嗅ぐ。
銅の葉
金属の葉を生み出す森。
黒鉄の墓標は金属で構築された奇妙な森の中にある。
事前の情報にあった通り、それは間違いなく銅だった。
植物型の機械種が生み出す鉱物の葉
とても興味深い。
腰から分解ペンを抜き出し、スイッチを入れる。
光の刃で葉に傷をつけた。モデル・アントの甲殻すら容易く貫く刃にただの金属片が耐え切れるわけもなく、僅かな時間で銅の葉が真っ二つになる。
切断面は非常に滑らかで、中身までしっかりと金属で構成されていた。一枚の銅の板を削って作ったかのように。
唇を舐める。
「お兄さん?」
「ああ……今行くよ」
僕は真っ二つに切った葉を放り捨て、僕を待っていたブリュムの側に行った。
既に探索は始まっている。迷宮の外とは言え、ここは既にモデル・クリーナーの縄張り範囲だ。
葉が積もった道はひどく歩きにくい。本物の植物の葉とは違って、銅とは言え金属の葉は硬い。気をつけなければ怪我をしてしまいそうだった。
金属特有の刺激臭が強く鼻を擽る。
「お兄さん……険しい顔、してるよ?」
「……いや、そんな事ないよ」
足の裏を通じて感じる冷たく硬い感触が、僕に世界を実感させる。
僕の命なんて軽く滅ぼしてしまうであろう無情な世界を。
「ふーん、お兄さん、真面目にしてたほうが格好良いよ?」
「……惚れた?」
「あははははは、後少しかな……」
そうか。あと少しか。
願わくばその少しが来る前に僕が消えてしまわん事を。
空を見上げると、鬱蒼と茂る銅の樹の枝に『生えた』銅の葉が大きく揺れていた。
「お兄さん、私、思うんだ」
唐突に前を歩いていたブリュムが僕を振り返る。
「復讐なんて何も産まないって言うけど、それで前に進めるならその意味はあるよね」
ん? 何の話だ?
黙ってこちらを見つめるブリュム。まるでこちらの言葉を待っているようだ。
先頭を歩いていたセイルも立ち止まってこちらを見ている。
まるで痛ましいものでも見るかのような眼で見られていた。
ん? ……復讐?
「復讐? 何の話?」
「……お兄さん、復讐するつもりなんでしょ?」
んんん?
僕がいつそんな事を言った?
いつそんな素振りを出した?
僕はどちらかというと復讐する側というよりはされる側だ。
首をかしげるが、全く思い当たる節がない。
いや、まて……
ブリュムの視線はひどく真剣で、冗談を言っている雰囲気ではない。
復讐……いや、違うな。
復習か。
何故今復習の話をするのか知らないが、なるほど、そちらのほうが文脈的にはあっている。
事前準備が予習だとすると、探索の後に行う振り返りが復習だと呼べるだろう。
確かに僕は復習するつもりだ。
何も産まないなんて誰が言ってるんだ。復習程に有意義なものもなかなかないよ?
過去を振り返らないというのはサボっていいという事ではないのだ。
「ああ、そうだね。勿論復習はするつもりだよ。僕は……探求者だからね」
「やっぱり……」
スイが沈んだ表情で呟く。
何がやっぱりだ。予習復習は大切だよ? 必須と言ってもいい。君達がもしそれをやらないというのならば教えて上げる必要があるだろう。
命がかかっているのだから……最善は尽くして当然だ。
「フィル……復讐するのはいい。ただ、無茶だけはしないで」
「あ、はい。……無茶なんてするつもりはないよ。ただ軽く流すだけだし」
「軽く……か。なるほど……」
深いことを言う、みたいに頷くセイル。
なんでこんなに温度感が違うんだろう。僕は未だかつて無い程にエレメンタルとの距離を感じていた。
これはよくない。僕の動揺は彼らにすぐに伝わる。
「さ、くだらない事気にせずにさっさと進もう」
「……フィル。一つ提案があるんだが、僕達に君の復讐を手伝わせてくれないかい?」
わざわざ無駄にテンションを上げて出した声を、セイルが遮った。
復習を……手伝う?
「いや、いらないよ。僕だけで十分だ。いや、僕一人でやってこそ意味がある」
「お兄さん、もう僕達は仲間だよ? それに、お兄さん一人じゃ死んじゃうよ?」
いやいやいやいやいや。
どんだけ貧弱なんだよ僕は。
さすがにちょっと復習するくらいでは死なないよ。というか、復習といっても僕の場合はイメージトレーニングと情報整理が主で、身体はほとんど動かさないのだ。
ちょっとトネールの頭の中のフィル像を覗いてみたくなった。
どうせ碌でもないんだろうが。
セイルもスイもトネールもブリュムも酷く真摯な眼で僕を見ている。そんなに復習が好きなのか?
まぁ、多角的な視点から行動を振り返るのもたまには悪くないかもしれない。意味がなかったのならば、後で一人でもう一度復習するだけの話だ。
それよりも、今はこのよくわからない空気が怖い。
僕は冗談でも言うような軽い口調で言った。
「まぁ……どうしても手伝いたいっていうんだったら別に構わないけどね……」
「どうしても手伝わせて欲しい」
「あ、はあ。ありがとう?」
即答で返ってきた予想外の答えに僕はもう何も言えなかった。
笑顔を信条とする僕はあまり固い雰囲気が好きではない。
「さ、今は復習よりも依頼だろ? そんな辛気臭い顔をしていたら勝てる者も勝てなくなるよ」
「……ああ、フィルの言う通りだ。皆、気を引き締めてかかるぞ! フィルの復讐のためにも!」
どんだけ復習が好きなんだよ。
だが、リーダーの言葉に他のメンバーも全面的に賛成のようだった。一体どうなってるんだ。
一定以上の間隔で無造作に立ち並ぶ銅の樹の森を進んでいくと、黒鉄の墓標が見えてきた。
とうに縄張りに入っているはずなのに、モデル・クリーナーが出現する気配はない。
迷宮には何種類かのカテゴリ分けが成されているが、黒鉄の墓標はその他の墳墓型の迷宮と同様に、地下に潜っていく地底型の迷宮だ。
ただし、出現する魔物は墳墓型の迷宮で一般的に発生する悪性霊体種ではなく、モデル・クリーナーと呼ばれる芋虫型の機械種である。
一般論でいうと、機械種の魔物はヴィータの模倣を取ることが多い。
機械種に初期設定された創造主に対する憧憬がそのような進化を促すという説があるが、当然それも定かではない。もしそれを知る者がいたとしたら、それは機械種の祖に他ならないだろう。
セイルは、地面に設置された鉄の扉、その取っ手を握り、軽々と持ち上げた。
地獄の釜が開くような音がして、扉が開く。
奈落のような濃い闇と冷気、金属の匂いが風に乗って流れてくる。
予想以上に『それ』らしい。
「さ、行こうか……フォーメーションは宿で話したとおりだ。僕がまず先に行く」
セイルが最後の確認をする中、僕は頭の中で呼びかけた。
アリス、起きてるか?
時間は夕方。まだアリスの活動時間には些か早い。
だが、頭の中にアリスの返事が響き渡った。
『はい』
いざという時は任せたぞ。
『はい 何もかも滅ぼしてご覧に入れましょう』
……その何もかもにセイル達は入ってないよね?
『……セイルは入ってない』
表情が見えないのに、僕にはわかった。
今、アリス、そっぽ向いた。
おい、お前。ふざけんなよ。
『手が滑らないように気をつける』
よし、分かった。アリスが手を滑らせたら、僕も手を滑らせてやる。
「フィル、早く行くよ?」
「ああ、ごめんごめん。ちょっと仲間と話してて……」
本当に大丈夫だろうな。
僕はまだ迷宮に突入してもいないのに凄く不安だった。
モデル・クリーナーに殺されるのもアリスに殺されるのも、殺される側からしたら同じようなものだ。
……愛が足りないのかなあ。
『最近ご主人様、冷たい……』
僕はアリスの訴えを無視することにした。
「そう……」
スイが何故か泣き出しそうな眼で僕に手を差し伸べた。
さっきまで散々避けてたのに、一体どうしたんだろう。
首を傾げながらも、スイの手を取る。繋いだ手と手から伝わってきた魔力に、その表情と合致した悲しく暗い印象を受けた。
迷宮の中は暗く冷たかった。
長く続く階段を下ること百二十五段。ようやく平地に出る。
入り口から入ってくる太陽光もここまでは差し込まない。
地下はレイスに取って夜の次に有利だ。特に墳墓という土地がいい。
墓の淀んだ魔力は悪性霊体種に高い力を与える。仮にも無機生命種の墓なので本来の墳墓程の補正はないが、ここなら昼でも七、八割の力は出せるだろう。墳墓という概念が重要なのだ。
頼むから手を滑らせてくれるなよ。そうなってしまえば、さすがの僕でもアリスを庇いきれない。
視界は真の闇に近く、本来、夜目の効かないプライマリーヒューマンの僕の行動できる閾値を超えた場所だったが、セイルの冒険者のクラススキルであり、パーティメンバーに暗闇を見通す眼を与える『光明』のスキルにより、進行するのに問題ない程度の視界を得ていた。
念のために一時的に夜眼を得られる目薬を持ってきていたが、どうやら出番はなさそうだ。僕の事前準備はいつもほぼ八、九割は杞憂で終わるのだ。
今回も杞憂であることを切に願う。
迷宮の中は静かだった。物音一つしない。人気のない迷宮という噂は真実なのだろう。
先頭を、状況の確認を行いながら進むセイルの静かな足音。
僕を挟んで殿を務めるトネールの小さな息遣いだけが僕の聴覚を擽る。
迷宮の中には無数の枝分かれした道を持つタイプもあるが、黒鉄の墓標はそういったタイプの迷宮ではない。
黒鉄の墓標にある道はたった一つだけ。竜ですら余裕を持って行動できるような幅広の一本道がひたすら続いている。
暗闇にさえ抵抗できれば、視界が広いため奇襲を受ける可能性は低い。数ある迷宮の中でも、出現する魔物はともかく、迷宮のフィールドとしての難易度は非常に低いと言える。
おまけに罠もないので、力ずくでも何とかなってしまう。迷宮と呼ぶよりはただの建造物と呼ぶほうが相応しい。
床もまっ平らな金属製なので、レイブンシティの街中並に歩きやすい。だからこそ、油断してはならない。
迷宮内の地図は既に頭に入っていたが、そんなのは思い出すまでもなく、この迷宮は距離さえあれど最深部まで一本道だった。階層は三階層。それぞれ一番奥に階段がある。
それなりの距離があるとは言え、風の船の魔法さえ使えば、最深部まで一時間とかからないだろう。
ふいに前を歩いていたセイルが立ち止まり、こちらに指を二本立てた。
二体確認のサインだ。同時に、自然な動作でセイルが腰の剣を抜く。それだけで斬れてしまいそうなぞっとする金属音が耳に残る。
音を隠す意味は皆無。
モデル・クリーナーの探知能力は極めて高い。
こちらが確認した時には既に相手もこちらを認識しているはずだ。
セイルが疾走した。床を蹴る音が迷宮内を反響する。
同時に、トネールがとんと軽い音を立てて床を蹴った。
その背から薄緑色の羽が顕現する。近距離の飛行を可能とする補助魔法だ。一小節すら呪文を唱えない完全な無詠唱。
これから悪戯でもするかのような、先ほどと変わらない邪気のない笑顔で言い捨てる。
「お兄さん、スイに守られてて? 死んじゃうよ?」
大したものだった。いつ死ぬかわからない戦場において、その表情には何の気負いもない。
セイルが最初の接敵を果たすのが数メートル遠くに見える。
モデル・クリーナーの顎とセイルの銀の刃が交差した。
火花が暗闇で一瞬散る。
今回の討伐対象である、D923四足動体モデル・クリーナーの姿がはっきりと眼に映った。
D923四足動体モデル・クリーナー
その姿は一言で言うと、四本の足が生えた芋虫である。
有機生命種のワームは蛇のワームと蟲のワームがあるが、D923四足動体モデル・クリーナーは蟲の方だ。本来のヴィータと異なる部分は四脚が生えている事だ。ヴィータのワームは脚がないし、今まで色々討伐してきたが、脚が生えたワームを見たことがない。
クリーナーの開いた顎、メタリックな巨大な牙とセイルの剣ががっちり噛みあう。機械種は力が強い傾向がある。
セイルとクリーナーの力は一瞬拮抗したが、すぐにクリーナーが優勢になる。が、セイルもそれを予測していたのか、力をうまくいなす。体勢こそ崩れなかったが、当然、そこには一瞬の隙が生じた。
四脚を奇怪に操り、その姿形からは全く想像できない俊敏な動作でもう一匹のクリーナーがセイルを横から襲う。
しかし、牙がその鎧に突き刺さる瞬間、横から生じた衝撃にクリーナーの身体が大きく叩きつけられた。
風撃
『撃』系の魔術は元素魔法のスキルツリーでも最弱に位置する基本的な攻撃魔法だ。威力は低いが詠唱もいらず、連続で使用でき魔力の消費も極めて小さい。
風の羽で空中を舞いつつ、トネールが連続で風撃の牽制を放っていた。
クリーナーの装甲はとても破れないものの、その衝撃はクリーナーの攻撃の手を止めるのに十分だ。セイルに向かって走ろうとするクリーナーに連続で風の衝撃を当て、その脚を妨害する。
威力の高い攻撃だけが元素魔法の価値ではないという事をよく知っている。基礎がしっかり身についている。
さすがエレメンタルだ。僕は少しだけトネールを見直した。
幾度も動きを潰され、焦れたクリーナーが標的をトネールに変える。
上空を舞っているとは言え、クリーナーの黒金で構築された四脚と駆動系は高い運動性能を誇る。
金属を穿つ重い音を立てて跳躍したクリーナーは、天井近くを滑空するトネールを正確に捉えていた。
トネールが目の前に迫った脅威に目を大きく見開く。だが、その表情には焦りはない。
その自信を裏付けるように、地上から放たれた一本の矢が、腹の下からクリーナーを貫く。
「『矢』で貫けるかー、『弾』はいらないねー」
ブリュムが陽気な声で判定する。
その四方八方には、無数の水の矢が浮かび、ブリュムの視線――碧眼に合わせて獲物に狙いを定めていた。
水矢
『矢』系のスキルは、元素魔法で共通で存在する下の中に位置する攻撃魔法だ。『撃』系より殺傷能力が高く、刺し貫くことに特化している。それだけ発動までの時間も長く消費魔力も高いが、複数展開できるという利便性と、視線の先を自動的に追尾するという特性から、下級から中級の探求者が好んで使う魔法だった。
どうでもいいことだが、矢系の魔法を複数展開する事を指してマルチ・アローと呼ぶ。元素魔法の使い手にとって、どれだけの矢を展開できるかは術者の実力を測るいい材料となっている。
空中で体勢を崩したクリーナーに容赦なく矢がいかけられる。
その速度は音速までは行かなくとも、空中で身動きを取れないクリーナーに命中させるのには十分な速度を誇っていた。
硬い装甲に穴を開ける音が四方八方反響し、まるで銃撃のような轟音を撒き散らす。いや、事実それは並の銃撃よりも遥かに強力なのだろう。
さすがの疲労のない機械種でも核を貫かれたら動き続ける事はできない。D級という十分脅威に分類されるクリーナーはわずか数秒で廃棄にされ、重力に引っ張られて床に派手にぶち撒けられた。討伐証明を剥ぎ取るのが面倒くさそうだ。
得意げに僕を見るブリュムに、セイルが叫んだ。
「ブリュム、行ったぞ!」
「はーい。もう『矢』使っちゃったから任せるよ―?」
強力な元素魔法に攻撃の優先度を変えたのだろう。
セイルと力比べをしていたクリーナーが躊躇いない動作で対象を変え、ブリュムに向かって滑るように侵攻を開始した。
この場所に適応しているのか、その速度は音一つ立てていないにもかかわらず、セイルよりも僅かに疾い。
十メートル以上あった間がわずか刹那の瞬間に詰められ、ブリュムに肉薄する。そして、その僅か一メートル手前で動きが停止した。
「これで終わり」
それは、水の塊だった。
そう、塊と呼ぶに相応しい量の数十リットルの水が、全長二メートル近いクリーナーの身体を余すことなく包み込み、宙に貼り付けにしていた。
唐突に重力を無視して生み出されたそれの内部に閉じ込められ、ジタバタと四肢をばたつかせるクリーナーの姿は変な笑いを誘った。
ああ、おっかないなあ。魔物の方に同情してしまいそうだよ。
スイが手の平をクリーナーに向けたまま、詰まらなさそうに呟く。
「水重圧」
べコリと。
重い音がして、頑強な装甲が大きく凹んだ。
クリーナーが得も知れぬ奇妙な鳴き声を上げるが、それを打ち消すように全身に凹みができる。
僅か十数秒でクリーナーの身体は僅か一メートル弱にまで圧縮されていた。
重要器官までダメージが達したのか、クリーナーの稼働が停止する。
スイは何も言わずに、魔法を解除した。
クリーナーの死骸が虚しく転がり、剥離した金属片を散らす。
思ったよりも強い。
いや、強いというよりはうまい。
優秀なリーダーによる統率された陣形はまさしく一つのパーティのお手本だ。
セイルが黒鉄の墓標という迷宮に、足手まといを一人連れて挑めると判断した理由も分かる。
少なくとも、誰が見ても、たった一人アムを連れて機神の祭壇に特攻した僕よりも根拠のある判断だと言う事だろう。
それだけに惜しい。
セイルが短く息を吐き、戦闘で篭った熱を逃がしながら剣を鞘に収めた。
その様子は、整った相貌もあって英雄と呼ぶに相応しく精悍だった。
「どうだった? お兄さん」
「皆……凄いね。ここまであっさり倒せてしまうなんて予想外だよ」
手放しで褒めると、ブリュムが照れるように髪を梳いた。
このランクの迷宮に挑むパーティとしては陣形は高いレベルで完成されている。
メンバーが途中で欠けさえしなければ、年月が彼らを上級のパーティに育ててくれるはずだ。
安定した高い実力の中級パーティ。
実際にこの眼で見た戦闘スタイルは、僕が事前にイメージしていたものとそう離れていない。
つまり無難で安定しているということは逆に面白みがないという事でもある。
勿論こんな所じゃ言わないけどね。
僕もパーティメンバーとしてやるべきことをやることにしよう。
腰から分解ペンを抜いて、地面に広く散らばったクリーナーの部品に視線を向けた。




