第四話:伝わってないから
「あなたがフィル・ガーデンさんですね。僕がパーティリーダーのセイル・ガードンです。よろしくお願いします」
綺麗なライトグリーンの髪の剣士の青年が笑顔で右手を差し出した。
後ろで後三人、パーティメンバーらしき人がこちらを興味深そうに伺っている。
アギさんは思ったよりも早くパーティを紹介してくれた。ちょうど迷宮探索に向かうパーティがあったらしい。
心中で感謝しながら、相手に負けじと笑顔でその手を受け取る。
「初めまして、セイルさん。フィル・ガーデンです。今日はよろしくお願いします」
数ある種族の中でもトップクラスに特徴的な耳がセイルさんの髪の隙間から飛び出していた。
ハーフエルフ。半人半妖の種族である。
分類としては、有機生命種よりの元素精霊種に分けられる。
純粋な元素精霊種は物質としての肉体を持たない。
人界に物理的な肉体を持って顕現するエレメンタルはそれ程居ないことを考えると、元素精霊種という区分に置いては、街で最もよく目にするポピュラーな種族と言えるだろう。
眉目秀麗でも知られており、ハーフエルフがパーティにいると言えば皆羨ましがるという、一種のアイドル的立ち位置の種族でもあった。
その身に宿した才能、力もエレメンタルらしく魔術的な素養に優れ、そのほとんどが元素魔術師か精霊魔術師になるとされている。特に風や水に強い適性を持っている事が特徴だ。
セイルさんの目は笑顔の奥で、まるで品定めでもするかのように僕を見据えていた。
探求者としての危機管理。見ず知らずの者に対する、在って然るべき『警戒』
エレメンタルの意思疎通の肝は『魔力』だ。彼らは魔力を読み取り意志を伺う。ハーフエルフはほぼ半分ヴィータなのでそれほどでもないが、正真正銘の純血の元素精霊種にとって交流とは魔力の交感を指す。そして、魔力が弱ければ弱い程弱者と認定される。
言葉でのコミニュケーションも不可能ではないが、それはベストの選択ではない。
続いて、セイルさんの後ろにいるメンバーに目を向けた。
目も覚めるようなライトブルーの腰まで伸ばされた波打つ髪を持つ女の子。
ぱっちりした目が僕の事をジロジロと伺っている。
元素精霊種。最も基本的な水精霊。側にいるだけで空気中のゴミが落とされ、清廉になったようにすら感じるその感覚は、僕が今まであったことがある水精霊と同種のものだ。
見た目の年齢は僕よりちょっと下だが、実年齢は恐らく僕の倍や三倍ではないだろう。
元素精霊種は基本的に他種族とは交わらない特徴がある。彼らが組むのは大抵、同じ元素精霊種を相手にした時だけだ。
セイルさんがリーダーを務めるパーティは元素精霊種のパーティだった。
アギさんがはらはらしながら見守る中、僕は腰を僅かに落として手を差し出す。少しでも受け入れてもらうために。
魂から僅かな魔力を無理やり絞り出し、手の平に集める。
術式とも言えない、ただの魔力操作による光が僕の手の平の縁を光で彩っていた。
彼女らが僕の事を読み取れるように。
他種族には他種族の仕組みがある。
ならば僕は相手を分類分けし、それに合わせるのみ。
元素精霊種は他種とは交わらない特徴があるが、それは決して他種を嫌っているわけではない。
彼女らは自分の興味ある者以外に感情を抱かない。ただそれだけだ。
そして、だからこそ、第一印象で少しでも印象付けしないと次に繋がらない。
「僕の名前はフィル・ガーデンです。よろしく」
「フィル……」
少女は僅かに目を見開くと恐る恐る僕の手の指先を摘んだ。
接触した指先から僕のそれを遥かに超える魔力を感じる。
何かを訴えるかのような深い海の底のような目で僕を見てきた。魔力の波が僕の中にゆっくりと流れ込んでくる。海のように深く底知れない魔力。
「…………」
そう、これが彼女らの意思疎通。コミニュケーション。
数秒間魔力を流すと、何も言わないまま満足したように少女が指を離した。言いたいことを言い終えたと言わんばかりに一歩後ろに下がる。
いやいやいやいや、わからないから。
僕は元素精霊種じゃないのだ。もっとも、もう少しだけ魔力があったら魔物使いのスキルを使って理解できたはずなのだが。
だから僕は仕方なく言った。
「スイ・ニードニードって言うのか。よろしくね」
スイがさも満足したかのように頷く。いやいや、伝わらない。伝わっていないから。
「……スイの言葉が判るのか。やりますね」
セイルさんが予想外のものでも見たかのように目を丸くする。
いやいや、伝わらない。伝わってないから。
そんな見直したみたいな目で見ないで欲しい。
事前にアギさんに名前を聞いていただけである。自己紹介したのだろうというのは、ただの当てずっぽだ。
だから僕はさらにはったりをかます。
「僕の事、好きだって」
スイがびっくりしたように僅かに目を見開く。
ゆっくりと口を開いて出てきたのは、アリスよりもよほど流暢なマキュリ語だった。
「……そんな事……『言って』ない」
そりゃそうだね。言ってないね。
言葉では一言も出してないね。
「あはははは、魔力で意思疎通なんてただの人間の僕にできるわけがないじゃん。できれば言葉で話してもらえるかな? 『勘違い』しちゃうから」
「……変わった人だ」
セイルさんが眉を顰める。
変わった人? この社会の中ではスイの方がよほど変わっている。
といっても、エレメンタルの基準ではこれが一般的なのも事実。
ならば僕はそれを受け入れよう。
万物全てはなるようになる。
交感できないのは残念だが、それこそが僕に課された運命。
「僕も魔力交流できればよかったんだけどね」
元素精霊種との交流手法の総称をそう呼ぶ。
エレメンタルとの異文化コミニュケーションの難易度は他の種族の比ではない。
幻想精霊種の方が難しいと言う人も少なくないが、僕は断然、元素精霊種の方が難しいと思う。
「大丈夫……伝わった」
スイが慰めともどうとでも取れる言葉を吐いた。
コミニュケーションとはキャッチボールだ。今やってるのはただボールをぶつけているだけだ。
僕はスイが放ってくれたボールを受け止められていない。
是非とも一字一句マキュリ語で口に出して欲しいものだ。なんなら別の言語でもいい。音に出せ。
後ついでに僕の魔力から何を読み取ったのか教えて欲しい。
「大丈夫、フィルさん。気に入られたみたいだよ」
「……そうですか」
それならば十全。
僕の努力も報われたというものだ。
続いて、隣でその様子を面白そうに見ている少年と少女に視線を移す。
写身のようにそっくりの容姿を持つ二人だ。
少年が薄水色の長衣、少女が薄緑色の長衣。
勿論、男女の違いはあるもののその雰囲気はそのまま性別を転換させたかのように相似している印象を与えた。
勿論元素精霊種についても勉強している僕にはその正体がすぐに分かった。
久しぶりに見たその姿に、思わず口の中で呟いた。
呟いてしまった。
「二重群霊」
それは極小さな声だった。
同時にミスを悟る。会う人会う人反射的にプロファイリングしてしまうのは僕の悪い癖だ。
人は自らがプロファイリングされている事に気づいて、いい気分でいられるものではない。
双子の精霊がその言葉を耳ざとく聞きつけ、ステレオでセイルさんに訴えた。
「「リーダー。この人、絶対に一般人じゃないよ! 聞いていた話と違う!」」
美しい声だった。まさに鈴の音を鳴らすという表現も過言ではないくらいに。
僕は思わず聞き入る。その容姿、見た目からは考えられない程の天使の声。
元素精霊種。風と水の双子精霊。その名はとても有名だ。
この世界に顕現時から二人で一組。片方が水を清め、もう片方が風で宥める。閑静な森林の奥深くに出現すると言われる自然精霊でもある。
まぁ、街中でも少ないが見ない事もない。特にエルフやハーフエルフと非常に相性がいいので、度々精霊魔術師のエルフがスレイブとして契約しているのを見ることができる。
てか一般人なんて誰も言ってねえ。
「……フィルさんは一般人ですよ」
アギさんがフォローするように言う。
どういう交渉の仕方をして連れてきたのか。全然フォローになっていないからね。
「「いやいやいやいや、有機生命種なのに僕達の事を知っているなんて!」」
いや、ちょっと待て。
そこに一言モノ申す。確かに僕は一般人ではないが、それは違う。
「いや、君達は有名だよ。元素精霊種の中では十指に入るね」
元素精霊種の図鑑を開けば、どんなに薄い図鑑だったとしても間違いなく載っている代表的な種族だ。
エルフと四大精霊の次くらいに載っている。僕が図鑑を作ったとしても前半百ページ以内にその種族を記すことだろう。
僕が例え一般人だったとしても知っていたはずだ。
双子は少し考えて、僕を囲んで左右から見上げた。
二人の背は、大して背が高くない僕と比べても頭一・五個分小さかった。
「「お兄さん、エレメンタルを何種類知ってるの?」」
そんなの知らん。
僕は挨拶だけで少し気だるげになってしまった身体を叱咤し、両手に僅かな魔力を集約させる。
「あはは、数えたことなんてないよ。でも君たちの事は知ってる」
二人は僕の差し出した手を触れて、驚いたように声を上げた。
「わ……凄く、弱い」
「弱いね!」
「お兄さん、本気出しなよ!」
「こんなんじゃ火球も出せないよ!」
失礼な奴らだった。
僕だってできるならやってる。
僕は窘めるように二人の手を握る。
「僕はそんなことをやる必要ないんだよ」
何故ならば、そのためにスレイブがいるんだからね。
二人は手を持ったまま顔を見合わせると、満面の笑顔でソプラノボイスを上げた。
「ブリュム!」
「トネール!」
唐突に投げつけられた単語。
既知だ。
アギさんから可能な限り全ての情報は聞いている。
女の子がブリュム。男の子がトネール。
だから元素精霊種の独特の速度にぎりぎりついていける。
既知を確認する。本人たちの口から。
「名字は?」
「「クリマ!!」」
双子は僕の手を取ったまま、その場でくるくる回る。
アギさんがあっけにとられたようにそれを見て、セイルさんがため息をついた。
リーダーとしてのご心労、お察し申し上げます。
でも、凄い楽しそうだよね。
「セイルさん、凄く面白い人だよ!」
「そして凄く弱い!」
失礼な事をとても嬉しそうに言う。
皆に弱い弱いと言われすぎて慣れてしまったが、僕が弱いんじゃない。
お前らが、強いんだ!
口には出さないけど。
「大丈夫、お兄さん! 僕達が守ってあげる!」
「ありがとう、心強いよ」
「『風』に乗った気分でいるといいよ!」
何が楽しいのか、ブリュムもトネールも無邪気な笑い声を上げている。
本当に心強い話だ。
若干偏りがあるように思えるが、僕が想定していた以上に『良い』メンバー。
というか、僕はここで元素精霊種と共にパーティを組めるとは思っていなかった。
元素精霊種は非常に気難しいのだ。見ず知らずの初対面ならば。
つなぎをつけてくれたアギさんには感謝してもし足りない。
その中で一番とっつきやすそうなセイルさんが困ったような笑顔で頬を掻いた。
「いや、うちのメンバーは皆気分屋でね……フィルさんを気に入らなかったら断ろうと思っていたんだけど、どうやらその心配はないようだ。アギさんの言った通りだね」
アギさん……本当にどういう説明の仕方したんだろう。
じろりとアギさんを見るが、平然と笑顔を返されると何も言えない。
僕の立場って一体……
とりあえず、ブリーフィングという事で食堂に集まってテーブルを囲んだ。アギさんは仕事があるので席を外している。
探求者は護衛依頼でもなければただの一般人を探求に同行させることを好まない。
特にその一般人が何もできないプライマリーヒューマンならば尚更だ。おまけに初対面ときてる。
セイルさんが口を開く前に、念のため、手を上げて聞いた。
「あの……本当に僕、連れて行ってもらっていいんですか?」
今更な話ではあるが、はっきりさせておいた方がいい。
戦場で見捨てられたら僕は簡単に死ぬのだ。まぁ、今はアリスがいるので僕が見捨てられたら逆にセイルさん達の身の上を心配しなくてはいけないが。
「ああ、構わないよ。僕達がパーティを組んでからずっとお世話になっている白銀の歯車のアギさんの頼みだし、それに今まで護衛依頼はやった事がなかったからね。丁度いいくらいさ」
爽やかな惚れ惚れするような笑みでセイルさんが答えた。
紛れもなくいい人だった。取っ付きにくい傾向のあるエレメンタルとは思えない。
スイもブリュムもトネールも特に異論はなさそうだ。
「もう一つ、ブリーフィングに僕も付いてていいんですか? 部外者に漏らしてはならない戦術とかあるのでは?」
「……フィルさんは用心深いね。構わないよ。僕達のコンビネーションは極めてオーソドックスだからね」
用心深くて損をすることはない。
が、セイルさんの言葉ももっともだ。
この布陣、この配員、そしてこの種族。
聞かなくてもどんな戦術を使っているのか、僕には手に取るように分かった。
ともあれ、了解をもらったのならば問題ないだろう。
他所の家に遊びに行った時のような、多少の居た堪れなさを感じながらも席に腰を下ろす。
セイルさんはゆっくりとパーティメンバーの顔を見渡すと、よく通る声で話し始めた。
迷宮探索前は準備こそがものをいう。
「それでは、ブリーフィングを開始する。今回の探索目標はD級迷宮、『黒鉄の墓標』に棲息するD923四足動体モデル・クリーナー、二十体だ。戦闘能力としてはC級の下位程度の力があるが、風にも水にも特に耐性はない。いつも通り元素魔術が通じるはずだ」
スイが分かっているのか、分かっていないのか真剣な眼でセイルさんの言葉を聞いている。
双子はつまらなさそうに足をぶらぶらさせて遊んでいた。
黒鉄の墓標、か。
アギさんがつなぎをつけてくれるといってから既に三日が経っていた。
もう一通りの迷宮については調査を終えている。その中でも黒鉄の墓標は実に興味深い迷宮だった。
「フォーメーションはいつも通り、僕が前衛、ブリュムとトルーネが遊撃で、スイが援護だ」
「僕は何をしようか?」
セイルさんが僕の問いに、あっけにとられたようにこちらを向く。
「フィルさんは……スイの後ろに隠れて身を守っててください」
「……いや、でもそれは余りにも……」
「じゃあお兄さん戦えるのー?」
「何ができるのー?」
双子の言葉が心に刺さる。容赦なさすぎ。
だが僕にだって、スレイブ抜きにだって、できることはあるのだ。
かなりの腕だと自負してる。自信満々に言ってやった。
「討伐した後の解体かな」
「……じゃあそれで。戦闘中はスイの後ろに隠れていてください。攻撃対象になると厄介なので絶対に目立つような行動は取らないように」
「……いえっさー」
……そう、リーダーはセイルさんだ。
僕はただの同行者。リーダーの指示には大人しく従おう。
続いて、セイルさんが流れるように討伐対象の情報確認に移る。
恐らく、それなりの期間、このメンバーのリーダーをやっているのだろう。内容はともかく、その様は非常にそつがない。
若干メンバーの態度に難があるが、それもあえて気にするほどのものでもない。もともとエレメンタルには気分屋が多く、そんなもんだろう。
僕のスレイブだったら思いっきり叱ってるだろうけど、パーティというのは基本的に上位下位の関係ではない。対等な関係だから、不和を生み出すような言動は慎むべきだった。
最後まで身振り手振りを交えながら、説明を終えて、セイルさんは一度、水を含んだ。
メンバーを見回して、質問する。
「まぁ、こんな所かな……何か質問は?」
ずっと一人パーティだったので、その感覚は久しぶりだった。
スレイブはパーティメンバーと言うよりは武器だ。だから僕は公式上はソロ探求者に区分されている。
誰も特に質問をする様子はない。
僕は初対面なので常日頃のセイルさんのパーティを知らないが、リーダーとしての信頼はあるのだろう。
パーティメンバーには特に不安も不満気な様子もなかった。悪くないパーティだ。
僕はまだ信頼できていないので手を上げて質問した。
「万が一何らかの原因で失敗した際の撤退時の陣形は?」
「……ああ、僕が足止めを務める。時間稼ぎをしている間にトネールが疾迅――もしくは、場合によってはその他の移動魔法を構成し、それが発動し次第、撤退する。スイは僕の補助、ブリュムは敵の撹乱だ。トネールの魔法が発動するまではトネールの護衛を再優先とする」
「敵が想定以上に強力でまともに時間が稼げなかった場合は?」
「……僕が、例え死んでも時間を稼ぐよ。最悪僕と……フィルさん以外は精霊界へ戻る事で命だけは助かる」
それは十全な事だ。
長い探求者生活の間で洗練された陣形なのだろう。
元素精霊種はほぼ全種族が種族スキルとして精霊界と呼ばれる別の世界に帰還する『元霊回帰』のスキルを持つ。そこは元素精霊種の存在の故郷らしい。一度戻るとそうそうこの世界に戻ってくる事はできないらしいが、死ぬよりはマシに違いない。
セイルさんがその世界に帰れないのはきっと彼が半人半妖だからだ。この世界の生き物である有機生命種の血が混じってしまったその身、この世界で生まれたその身にとっては精霊界は故郷ではなく、スキルも使えない。
覚悟を決めているセイルさんの眼はとても綺麗だ。もともと、エルフは綺麗なんだけど。
僕は何もわかっていないけど、わかったような笑顔を作って言った。
「その時は僕がお供するよ。話し相手くらいいないとつまらないだろ?」
「……あ、ああ。その時はお願いするよ」
セイルさんが戸惑うように申し訳程度の笑みを浮かべた。
どこか憂鬱げなつぶやきが耳に入る。
「まあ……そんな機会永遠に来なければいいと思うけど」
「まったくだね。まあ……ただの冗談だよ」
ただ、いつか何らかの想定外が発生した際の事も考えておかなければならないというだけで。
事前に戦死した時の事などは考えすぎてもいけない。
意志が陰る。
「迷宮探索系のスキルは誰かが持ってる?」
「黒鉄の墓標は既に攻略済みの迷宮だし、罠などもない。必要ないよ。まぁ、僕が一応、『冒険者』のクラスを得ているから、一通りの事はできる」
冒険者
探求者の中で最も得る者が多いクラスである。
そこには基礎的な探求に必要な技能が詰まっている。地図制作、罠看破、パーティ生成能力にパーティメンバーの指揮能力、パーティ単位の付加魔法に取得経験値の設定・操作。決して強力ではないが、ほぼ全てのパラメータが微妙に上昇する補正もあり、探求を行う上で持っていて損はない。
各技能は言うまでもなく専門職には劣るが、それでもクラスの枠が空いているのであれば是非取得すべきクラスだった。
さらに情報を集める。
「群れは何人まで入れられる?」
「僕が作れるパーティは五人までだ。だから今回はフィルさんもメンバーに入れられるよ」
「メンバーに対する能力の補正は?」
「体力の増加が使える。……一応確認するけど、経験値や討伐対象の分配はなしでいいんだよね?」
「もちろん。僕はただ、迷宮を見たいから着いて行くだけだからね」
セイルさんが僕の言葉に、ほっとしたようにため息を付いた。
パーティとは探求者が探求を行う上での群れの事を指す。そして、同時にただの群れではない。
それはスキルによって管理された群れである。パーティというくくりはただの名義上のものではなく、実利を含んでいる。
冒険者のクラスを始めとして、パーティのメンバーのみを範囲とする補助スキルは意外と多い。
そして、パーティに含められる人数はリーダーの実力に依存している。大体の場合は四から六人である事が多く、故に一つのパーティはその程度の人数になっている事が多かった。
一人枠が空いていたのはラッキーだ。まぁ僕は別に強化付与なんていらないけどね。
多分、メンバーの枠が空いていた事もセイルさんが一般人(一般人じゃないけど)を連れて行っても構わないと思った一因なのだろう。
僕は頭の中のセイルさんのメモに情報を書き付けた。
最低限、必要なものは揃っていそうだ。僕が口を出せることは……あまりないし、彼らの決定に口を出すつもりもない。
後は、全てがうまくいくことを祈るのみだ。
テーブルの脇に立てかけてある無骨な柄の西洋剣――セイルさんの武器に視線をやった。
しかし、パーティとしてはまとまっているけど、後一つ欲しい所だ。魔法職が三人に両立が一人。枠も空いている事だし、後一人前線を構築できるメンバーが欲しい。
それで群れは盤石なものになるだろう。実力以上の敵にさえ挑まなければ。
もちろん、その一人が僕でない事は言うまでもないのだが。




