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Tamer's Mythology  作者: 槻影
第一部:Tamer's Mythology

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32/121

第三十一話:年をとったってことかな

 開始の合図と同時に、抜刀した。


 構えは正眼。最も隙のない、侍クラスで言う『水雲の構え』と呼ばれる侍の構えである。

 相対するは、同じ構えを取る、僕よりも頭一つ分大きい青年だった。


 細身だがその全身は無駄のない筋肉で覆われ、一見容姿だけなら優男にも見えるその風貌からは、纏う空気もあって、一切の弱々しさを感じられない。額には深い傷跡のような三日月形の印がある。

 オールバックに整えられた髪型はよりその印--A級有機生命種『斬鬼』である証を示していた。有機生命種としては珍しい鬼であり、そして全体的にランクの低いものが多い有機生命種としては上位の存在だ。もちろん、僕とは比べるべくもない。


 着流しに足元を隠す袴は足運びを隠す意味も含まれており、その全身からは鬼気迫るオーラがまるでレイスの邪気のように、この広い第三闘技場を侵食している。半径五十一メートルもある円形の空間が狭く感じられた。

 鬼の眼が僕の一挙一動を見逃すまいと睥睨する。

 僕はそれを無表情で迎え撃つ。正眼に構えた一番軽い模造刀がじわじわとひ弱な腕の筋肉に疲労を蓄積させた。


 國道(くにみち)


 グラエルグラベール王立学院の五年生。

 剣を扱うクラスに極めて高い親和性のある種族『斬鬼(ブレード・ウォーカー)』であり、侍の学科のトップランカーでもある僕の先輩だ。


 高い筋力と耐久力、恵まれた肉体を持つ生来の戦闘者。かといって別に凶暴な性があるわけではなく、普段は性格もよく後輩に慕われ、教官の覚えもいい好青年だった。能力も性格もよく、顔も二枚目だなんて、持つものは全てを持っている典型といえる。


 一般的に高い速度を持つ侍の剣速の平均を遥かに上回る神速の太刀。加えて斬鬼の種族スキルであり、パッシブスキルである『速斬』は斬撃の速度を遥かに上昇させるという単純であるが故に強力な性能を持つ。剣を使う上でこの種族以上の適性を持つ存在は、知識には自信のある見習い魔物使いの僕でも知らない。


 目に見えぬ程の速度で振るわれるそれは、受けることも躱すことも困難な死神の一撃だ。

 他者の戦闘能力は基本的に身体の大きさに比例する。一見細身のその肉体から繰り広げられる不可視の斬撃は極めて異例であり、初見ならば例え上位の存在であってもその一撃を避けるのは困難だろう。僕は絶対に戦場で出会いたく無いぞ!


 先輩の額に汗が垂れる。

 構え、相対するだけで感じる凄まじいプレッシャーは、まだ一度も刃を交わしていないにも拘らずその戦いが始まっている事を周囲に如実に伝えている。

 教官も観衆も誰一人として物音一つ立てない。


 体調は絶好調だった。

 一週間前から丹念に調整した僕の肉体は、國道先輩と比較するとひ弱ながら、既に完全にエンジンがかかっている。

 戦場で初見ならば一刀で切り伏せられただろう。だが、此処は戦場ではなくこれはただの授業だ。加えて僕は先輩の友人であり、先輩の実技は腐るほど観察している。そしてそれは逆に先輩にしてみても同じ。僕の技は全て知っているはずで、それが先輩の刃を鈍らせている。

 緊張で筋肉が強張っている。何も考えずに本能に従い刃を振り下ろせばいいのに、今までの経験、知識が邪魔をしている。


 精神では僕が遥かに勝っていた。


 明鏡止水

 落ち着き沈みきった精神はまるでセントレア湖の湖底のように澄み切り、一点の汚れも、恐れも、緊張もない。

 その証拠に先輩よりも遥かに弱い僕の顔には汗一つ流れていない。


 動揺が剣先を鈍らせる。構えが甘い。足運びも、隠しているにも拘らず筋肉の蠕動から明確に読み取れる。剣速はスキルと筋力の差で負けているが、構えはただの知識と経験だ。経験年数では負けているが、覚悟で負けているつもりはない。僕は全てを識る覚悟でここ三ヶ月間、侍の講義を受け続けたのだ。


 が、先輩のコンディションは悪くない。いや、今まで見てきたそれと比べても絶好調と言えるかも知れない。事前準備もしていないのに、状況が、戦意が、先輩のコンディションをこれまでにないレベルで高めている。


 生来の侍の姿に、僕は体内のクロックを上げる。

 自身の心臓の音に合わせて、徐々に無意識の海から『速さ』を組み上げる。

 鼓動が徐々に速度をあげて鐘を鳴らす。


 後の先。


 唇の端を舐め、先輩の眼光を挑戦で迎え撃った。

 彼我の剣速に絶望的な隔たりがある状態では、僕には受けに回るしか方法は残されていない。

 そして、それは学科は苦手ではあっても馬鹿ではない國道先輩もよく知っている事だった。

 だから僕は攻撃を待つしかない。攻撃してもらうしかない。


「國道先輩、かもーん」


「ッ!」


 僕の挑戦。

 裂帛の気合と同時に、國道先輩が刀を振るった。


 ありがとうございます。


 手元がぶれ、その刃先は僕の視覚から消え去る。神速の刀技は僕の眼にはとても捉えられないが、知識が経験が、挙動が、意識が、視線が、僕の知っている國道先輩の癖が、その刀の襲来する位置を示していた。


 一撃目を受け流す。


 凄まじく重いその斬撃を、刀身を滑らせ力を流す。金属同士が交わりあう嫌な音に鉄の匂い。接すると同時に視界に現れた刀身が火花と同時に再び消える。

 

「はッ!!」


 身の運び。腕の揺れ。視線の位置。

 完全に見えない先輩の刃。それに合わせて刀を振るう。幾度も交わり合う刀同士から発生した鋭利な音が静かな闘技場内に響き渡る。


 疾い。疾すぎる。理解していたがその速度はまさに絶技と呼ぶにふさわしい。

 考える暇もない程の神速の斬撃は刀の申し子と呼ぶに相応しく、そして絶望的なまでの才能差を感じさせる。

 まるで舞うかのように刃を振るうその挙動は極めて洗練されており、観客が息を呑む音が聞こえる。


 僕はそれを全神経を集中させ、ひたすらに受け流す。受け流しているだけなのに、疲労が凄まじい速度で全身の筋肉に蓄積していく。

 足、腰、腕、体幹に至るまで全身を使わねば、その斬撃は一撃たりとも防げないだろう。


 剣と剣が交わる瞬間に生じる隙も、神速の剣技を掻い潜り打ち込む程の速度のない僕には無意味だ。


「はッ! はッ! はッ!」


 刀の動きが変わる。

 振り下ろしから振り上げ、突き、なぎ払いまで含めた四方八方から振りかかる刃の嵐に。

 一般的には振り下ろしが最も高い剣速を誇っているとされるが、スキルと種族の基礎値がそれを覆す。僕の眼にはその刀身が、最速の振り下ろしはおろか、動作の遅いはずの逆袈裟に至るまで全く見えなかった。


「くぅッ!」


 単純な斬撃から動きが変わったため、動作の負担が爆発的に上がる。

 四方八方上下左右から襲いかかるそれを防ぐには自ずと全身を激しく動かさねばならない。じりじりと後退りながら一撃一撃を確実に捌くためにさらなる意識を傾ける。

 相手の模造刀は僕よりも三倍は重い。耐久力もそれに準じている。手元の刀が、侍の授業を受けるために購入した模造刀が、刃を交えるたびに悲鳴を上げる。


 その純粋な刀の妙技に、恐怖よりも先に、探求者として今すぐ世に出ても一流の域に達せるであろう、その技をこの身で体験できた事に対する喜びを感じる。


 決して僕では届きえないその領域にいる國道先輩に深い尊敬を感じる。


 息が上がる。スタミナはもうとっくに切れているはずだが、頭の中はむしろ澄みきり、全身が高揚している。一刀一刀を交える度に心臓が大きく脈打つ。

 試合後は手も足も震えて満足に歩けないだろう。だが、それでいい。

 生命を燃やせ。闘志を燃やせ。僕は決して守りのために刃を磨いたわけじゃない。


 疲労を無視し、不可視の刃を全力で打ち上げた。

 國道先輩の刃が翻り、その速度があれば攻撃に転じた僕の隙をつく事も可能なのに、僕の刀を迎え撃つ。

 刀同士が激しい音を立ててぶつかり合う。


 ……ありがとうございます。


「……勝負あり!」


 数瞬の沈黙。

 侍の講義の教官、『千の白刃』の異名を持つ侍である零次教官の声が響き渡った。


 息を飲む。

 國道先輩の刃先が僕の首筋に数センチの位置につきつけられていた。


「ありがとうございました」


 翻って、僕の模造刀にはもはや刃がなかった。鍔から十センチ程の所から先は折れ、なくなった刃の残滓が先輩の体幹をさしている。

 最後の一撃でまともに芯に伝わった力が疲労していた金属に最後の止めをさしたのだ。三ヶ月を共にした刃が地面に冷たく転がっていた。


「ああ……負けたなぁ……」


 勿論勝てるとは思ってなかったが、ここまで完膚なきまでに負けてしまうともうどうしようもない。


「ありがとうございました」


 先輩の声と同時に、緊張が解け、身体が崩れ落ちた。冷たい闘技場の床の感触が頬を伝わる。

 足元からじわじわと侵食される悪寒。倒れたにも拘らず、痛み一つ感じない朦朧とした意識。

 慌ててこちらに駆け寄る足音だけが聞こえた。

 力が入らない。

 消えそうになる意識の中、必死になって暗示を与えて自分の鼓動を落とす。

 骨に罅が入ったのか、腕の芯から沸き上がる鈍い痛みがじくじくと神経を痛めつける。


「ダメだ……やっぱりダメだ……」


 朧気な視界の中、ただ僕の眼前には床だけがあった。涎が地面に垂れる。

 全身がバラバラになりそうな感覚の中、呟く事に集中した。


 侍はダメだ。

 ……違う、侍はダメじゃない。プライマリーヒューマンがダメなのだ。

 ……違う、プライマリーヒューマンじゃない。

 ダメなのは……僕だ。


 抱き起こされる。全身が火で燃え上がっているかのように熱い。

 モザイクのかかったようにぶれる視界。抱き起こしてくれた、侍を志している僕の後輩の女の子の姿が見えた。


「大丈夫ですか!? 意識ありますか!? 先輩?」


「あ……あ」


 技で補える範囲を超えた力の差。努力では追いつけない根源的な差異。

 もとより僕には侍のクラスを受け入れられる器もない。それは授業を受ける前から分かっていた事だ。

 本職の侍、侍のクラスのスキルを使用されたらその差異はさらに広がる。

 そういう意味で僕ははっきりと実感していた。僕は今、僕の足で立てる範囲内で侍の境地にいる、と。


 前後左右から回復魔法をかけられ、全身の痛みがすっと引いてくる。

 誰かが水系の魔術をかけたのか、身体中がぐっしょりと濡れ、全身に蔓延していた熱が楽になった。

 後輩に手を握られ、それに引かれてふらふらと立ち上がった。

 広い。戦闘中には狭く感じられた闘技場の天井が遥か高くに見える。視界は涙で滲んでいた。


 爆発的な歓声が闘技場に膨れ上がった。


 僕とは反面、汗こそかいているものの、まだ余裕の表情ぴんぴんしている國道先輩が笑顔で握手を求めてくる。


「いや、強かったぞ、フィル。まだ三ヶ月とは思えない太刀筋だった」


「ありがとうございます」


 がっしりと握手をくみかわす。

 元々仲は悪くはなかったが、その表情は全力を出しきったように朗らかで気持ちのよい笑顔だった。


「本当ですよ! とっても格好よかったです! 國道さんの刀をほとんど受けきるなんて……私も修行しないと……」


 後輩がぴょんぴょん飛んで汗をかいてるのも気にせずに抱きついてくる。

 他の同じ講義の仲間も概ね、その視線は概ね好意的だ。

 國道先輩は侍のクラスを志す学生の中でもトップクラスの実力。結局受けることしかできなかったが、それに挑戦しただけで一目置かれるに相応しいのだろう。


 だが、所詮はそれだけだ。僕には万全な準備をしても所詮は受けることしかできない。

 本人は絶対に認めないだろうが、國道先輩は二回、僕に情けをかけていた。

 戦闘が始まる前と、戦闘が終わる直前。

 もし対等ならば、挑発に乗らず僕の疲労を待つべきだったし、僕の攻撃の隙を見逃すべきではなかった。

 それが……僕とその他の優秀な学生の差。


 僕はたった一人しかめっ面でこちらを見ている零次教官に向き直った。

 試験の評価を尋ねる。


「どうでした? 教官。僕の技は」


「……ああ、見事な刀技。まさに鬼神の如き技の冴え、刀の正道に則った淀みもない刃よの」


 滅多に人を褒めない零次教官の言葉に、周りが沸く。

 僕はただ教本に則って刀を振るっただけだ。何も特別なこともしていないし、もし教本の通りに刀を振るっただけで鬼神の如きと称されるのならば、それは教本の通りにさえ刀を振るえない他の侍志望者の怠惰としか言い様がない。

 そして重要な事だが、今回の試合は侍のスキルを使っていないからこそなんとか相対できたのであって、皆が正式に侍のクラスを取り、スキルが使えるようになれば、技術はあっても凡庸以下に成り下がる。


 だが僕は、色々頭の中をめぐる言葉を出さずに、ただ黙って次の言葉を待った。


「故に、それ故に惜しい。フィル。貴様にもう少し、後もう少しだけ力があれば--」


「教官、僕はそんな言葉が聞きたいわけではありません」


 侍のクラスを受けいれるには最低限のステータスの基準を満たす必要がある。僕は元々筋力値の基準が満たせていない。どっちにしろ侍の器ではないのだ。

 不穏な空気に後輩が不安げな視線を僕に向ける。

 僕の無礼な言葉に、仁に厳しい事でも有名な零次教官は何も言わなかった。ただ哀れなものでも見るかのような視線を向けるのみだ。


「フィル・ガーデン。約束通り貴様は私に、侍に相応しき技の冴えを見せた。故に特別措置として、貴様に侍クラスの単位を与えよう」


「ありがとうございます」


 約束した話だ。

 もし優れた技と学識を見せることができたのならば、一年の間講義を受けなくてもS級の単位を与える、と。

 それは免許皆伝と同義だった。

 そして同時にそれは教官自身、僕にはこれ以上は侍の道を進めないと言っている事に等しい。

 その意味はもう既に覚悟をしていたはず僕の中に重くのしかかってくる。


 予想外のその言葉に、後輩が眼を見開く。


 集中する。迷っている暇も、落ち込んでいる暇もない。


 僕は頭の中で単位数を数える。

 グラエルグラベール王立学院は単位制だ。

 学年毎に最低限必須の単位数があり、その単位数に満たなければ留年するが、逆に次の学年の単位数を取ってしまえば飛び級できる。

 授業の受講は自由なので努力次第ではいくらでも先に行けた。


「え? 先輩、もう単位もらえるんですか? 三ヶ月で? 学科は?」


「もう学科のテストは受けたよ」


 学科は特に腕っ節は関係ないので楽勝だった。詰め込みには自信があるのだ。


「え? じゃあもう先輩こないんですか?」


「こないよ。まだまだ得るものはありそうだけど……もう僕にとっては必要ない」


「ええ!? 先輩まだ侍のクラス、とってないじゃないですか?」


「いや、そもそも筋力値が足りなさすぎて僕じゃ侍のクラスは取れないからね」


 折れた刀身を大切に鞘に修める。

 模造刀とは言え、三ヶ月共に過ごした刀だ。感傷もあった。


 僕の身体は欠陥品だ。いくら運動しても、何千何万回刃を振っても、これ以上筋力値が増えないのだ。

 筋力値1.3。それが今の現時点の僕の限界だった。

 だが、ならば、それならば、他の道を考えるまで。


 第一回目の講義の時から先輩先輩と子犬のようにまとわりついてきた後輩に折れた模造刀を渡す。


「え……これは?」


「あげるよ。こんなんでも免許皆伝だからね。折れちゃってるけどきっと君が立派な侍になる役に立つだろう」


 戦士の武具には経験が宿っている。

 斬撃の傾向、力の入れ方、向き。刀身についた細かな傷から柄に染み付いた握りの跡に至るまで。

 今はまだ弱くても、高い種族ランクを持つ後輩ならば、恐らく僕では到達できなかった領域にまで到達できるだろう。


「國道先輩も……ありがとうございました」


「ああ……フィルがいなくなるのは残念だが、それもまた定めか」


「あはは、まだもうちょっと学院には居ますけどね。まだ卒業には単位が後百二十五単位足りないので」


 まぁ、それでも恐らく一年あれば卒業できるだろう。

 時計を見ると、時間が差し迫っていた。こちらから頼んで準備してもらっているのだ。一秒たりとも遅刻するわけにはいかない。

 精神的疲労にふらつく身体を叱咤する。


「零次教官、ありがとうございました。また時間のある時に改めて伺います」


「ああ、たった三ヶ月でよくやったな。……これで後少しでも力があればーー」


 あーあーあーあーあーあー

 もうその台詞、聞きたくない。


「時間がないって、何かこれから用でもあるんですか?」


「ちょっとね……」


 シーズンが悪いのだ。

 僕は続けて『薬師』の単位を得るための最終試験を受けるべく、闘技場をかけだした。





*****





 眠りが深い僕は夢をほとんど見ない。

 だから、学生時代の頃の夢を見るのは本当に久しぶりだった。

 ベッドの上で天井を眺める。身体がだるかった。


「……年をとったってことかな」


 若かった。常に生き急いでいた。遮二無二に周囲の憐憫、嫉妬、尊敬をかき分け、期待を無視して何もかもを得ようと躍起になった。もし過去に戻れたとしても二度とあんな行動は取れないだろう。


 だが、逆に言うならば今しかできない事もある。


「元気かなあ……國道先輩……王国に戻ったら飲み会でも開こうか……」


 グラエルグラベール王立学院は八年制だ。僕は飛び級を三回して三年で卒業したので同級生と呼べるものがいない。というか國道先輩よりも僕の方が先に卒業したのである意味では僕の方が先輩と言えるのか?

 無事、侍のクラスになったとの話は聞いていたが探求者としての仕事もあったのですっかりご無沙汰だった。


「フィルさん? 夕食ができたよ?」


 扉の外からアネットさんの声が聞こえた。


 しまった……寝過ごしたな……


 その声に失態を悟る。

 最近では厨房は僕が握っていたのだが、アネットさんは油断をするとすぐに食事を作りたがるから困る。

 度胸も性格も悪くないのに、料理の腕だけはいまいちなアネットさんのただ一点のその弱点が僕には不満だった。


 ベッドからのっそりと起き上がる。


 ……仕方ない。スレイブでもないけど、たった一ヶ月で調理魔術師(コッカー)の単位を取得したこの僕が、フィル・ガーデンが、アネットさんに直々に料理の何たるかを教えてあげようじゃないか。

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嘆きの亡霊は引退したい。

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