二日目
1
AM7:40
――――無人島生活二日目―――――
この島に来て二度目の朝を迎えた。
今日は慎二が島を探索する日なのだが、少し心もとない。
「おい、弁当ってこれだけかよ?!」
俺は弁当に、とバナナを2本とヤシの実を一つ差し出してやったのだが、慎二は不満を漏らしている。
「仕方が無いだろ、食料は限られてるんだし」
「あーあ、肉食いてぇな…」
慎二は体育会系の様な見た目でも分かるが、肉が好きらしい。
「そんな贅沢は言ってられないぞ」
「分かってるさ。じゃ、行ってくるよ」
と俺に言い残して慎二は洞穴を後にした。
2
AM8:23
「悠樹が来たのはこのジャングルか」
慎二が最初に来たのは昨日俺が来たジャングルだ。
「全く…これじゃロクに進めないじゃないか」
何かとブツブツ呟きながらも慎二は足に絡まる植物のツタを引き千切りながら進んで行った。
俺の二倍近くは時間がかかったが、昨日俺が辿り着いた果物の密集地へと到着した。
慎二はそこに生えていた野生のキウイを数個食べて多少腹を満たした後に、進行を再開した。
20分ほどしただろうか。昨日俺が到着した草原地帯ではなく、小さな湖に着いた。
「ここは…昨日悠樹が来た所では無いな」
丁度その時、湖からカモが数羽飛んでいった。
「鳥肉が食えたらいいのにな」
と慎二は思っていた。確かにこのまま果物だけでは動物性のタンパク質が足りなくなり、島から抜け出す事はおろか、動く事もままならなくなってしまう。
そんな事を考えながら、慎二はしばらくの間湖を探索し始めた。
3
AM8:56
「…ん?変な臭いがするな」
洞穴で薪をくべていた俺は異様な臭いに気が付いた。
洞穴内を調べてみると、昨日慎二が拾い上げていたワカメから異臭を放っている事に気が付いた。
「なるほど、生ものだから直ぐに腐るのか」
仕方なく俺はワカメを海に戻してやった。
「物を腐らせない様にするにはどうすればいいかな」
暫く考えた末、焚き火の時に出来る煙を使って物を燻して燻製にし、長持ちさせる方法を思いついた。
しかし、燻製にする方法が無い。
「燻製器を作るしかないか」
俺は外に出て、木の下に落ちている沢山の木の棒の中から頑丈な棒を5本拾い、洞穴で作業を開始した。 1時間ほどして、ようやく燻製器が完成した。
四本の棒をジャングルで採取してきた丈夫な植物のツタで固く結んで土台を作り、その上にもう一本棒を横に付ける。その棒の中心に燻製にしたい食べ物を結んだ植物のツタをぶらさげる。その状態で焚き火の煙にさらす事で燻製を作るのだ。
「他に何か作れないかな」
俺は他に役立つものを作れないか思いをめぐらしていた。
時計の針は既に昼の00:23を指していた。
4
PM00:28
その頃、慎二は弁当――とはいうもののバナナ2本とヤシの実一つだけなのだが―――を食べていた。
少しは腹が満たされただろうか。慎二はさらに歩みを進めた。
15分ほど進んだところで、今度は広い砂浜に辿り着いた。
どうやら太陽の位置からして、島の南端まで来たようだ。
「にしても広い海だな…貝とかいるかもな」
砂浜に近づいていくが、思ったよりも波が高く、頭から被ってしまった。
やれやれ。昨日と同じ事をやっちまった。
今日こそ海水は呑みこまなかったものの、乾かした後に塩が服にこびりついて多少着心地が悪い。
潮の冷たさに顔をしかめながらも、アサリを7個とハマグリを4つ拾い上げてバックパックに突っ込んでおいた。
その時、視界の隅で何かがうごめいているのを見た。
人間だ。
ここからでは良く見えないが、恐らく女性だろう。
しかし、目に見えて警戒心を出しているのがわかる。2~3歩歩く度にしきりにキョロキョロと辺りを見渡している。
今接触するのはマズい、と慎二は思ったのだろう。女性に気づかれる事なく、こっそりと浜辺を出た。
太陽は早くも沈み始めていた。
5
PM4:42
慎二が戻って来た。
「何だ、異様に帰りが早いじゃないか」
「あぁ…生存者がいた」
さすがにこの言葉は効いた。俺は言葉も出せずに固まっていた。
「本当か?」
「本当だ」
いないと思っていた生存者がいたのだ。突然の知らせに言葉が出なかった。
「どんな奴だ?」
「遠くから見ただけだが女性の様だった。警戒心が強くて接触する事は敵わなかったんだけどな」
「そうか。そいつは何処にいるんだ?」
俺は慎二からその女性がいるところを教わった。
場所を教わった後、慎二はあることに気が付いた。
「あれ?悠樹、それはなんだ?」
慎二は今日作った燻製器を指差した。
「ん?ああ、物を腐らせないようにしようと思ってね」
そこで俺は今日その他に作った物を慎二に見せた。
岩と岩を叩きつけて、その破片をナイフ代わりにしたり、木の棒にその鋭い破片をつけて魚を突くためのモリを作った。
「これなら魚も突けるな」
この光景を見てさすがに慎二も声が出ないようではあったが、はっきりと喜びの色がその目に映っていた。
早速俺は作ったナイフでハマグリとアサリを開き、海水で作り上げた少し辛めの塩をふりかけて焚き火の火で焼いて二人でおいしくいただいた。
「とりあえず明日、俺が生存者に会って話してみるよ。」
貝を食い終わり、俺は明日の予定を話した。
しばらくの間、二人は黙っていた。話題が見つからないのだ。
と、唐突に慎二が口を開いた。
「ふむ…そろそろ寝るかな」
慎二が言った所で確かにもう時間は寝る時間だった事に気が付いた。
「そうだな、もう寝るか」
と言った時点で既に慎二は眠りについていた。
さて俺ももう寝るか、と一人呟き、俺も眠りについた。
無人島生活は二日目を終えた。