プロローグ
本日、冷たい雨が朝から降り 歯科大学病院の待合所も いつもより かなり 空いていて 患者さんも次々と呼ばれて、治療室の中に入って行く。
急患係の歯科医師 織田龍次 が マスクとグローブを取りに ドクター控え室に 来た。
織田はドクターになって五年目、所属する保存治療科では 中堅の下ぐらいでは あるが、彼の性格や行動から
他の医局の教授ですら、一目おく存在であった。
Dr.控え室には、すでに 同期の 佐藤が ソファーでくつろいでおり、お互い 伸びをしながら
佐藤 「今日は、暇そうだな。楽できるぜ!」
織田 「だな!急患の順番きめるか。いつものやつで」
と 佐藤がカルテ棚のスペースから ウノを取り出し、配りはじめた。
そこに、医局長の黒川がやってきて
「龍次!!16番ユニット出番だ!たのんだぞ!」
走って去っていった。
佐藤 「じゃ、急患は俺が やっとくから 昼飯は 何にする?医局に運んどくよ。」
織田 「悪いな。カレーでいいや!」
マスクしながら、答えてグローブに息を吹き込み歩き始めた。
今日のカレーは暖かいうちに食うぜ!と思いながら 16番と書いてある治療台にきた。
そこには、研修医二年目 女医の後藤が 半べそで カルテを つかんで 固まっていた。
織田 「あれ~ 患者さん誰かと思ったら佐々木さんじゃない~ どーしたの!」
佐々木 「虫歯の虫が 動いて 耳の中で ブンブン 鳴ってるじゃ~ 早く治療してくれ~」
「女の先生じゃダメだ!」
織田 「どの歯から虫が出てきたか、覚えてる?」
佐々木 「右の下の一番奥の歯じゃ!早くしろ!」
織田 「OK~ ちょっと まっててね。この辺りかな~ チクッとするよ。」
「あと、薬であらってお終い これで、様子みようよ」
佐々木 「もう 治った!!帰る。」
織田 「明日は耳鼻科に行くんだよ~」
佐々木がいなくなり
後藤 「織田先生、ありがとうございました。佐々木さんに、どんな治療したんですか?」
織田 「何もしてないよ。爪でハグキをおしただけ!」
「佐々木さん、歯 全部抜いて 1本も残ってないから」
後藤 「……」
織田 「この前は、鼻に虫が!って言ってたな。大体、三か月に1回くるから~あの人」
「じゃ、急患の方に戻るから なんかあったら 呼んでね」
グローブをはずしながら、レベル1かと思い、今年の春は 大量発生する予感がした。