表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アリアルトの森で  作者: 麻戸 槊來
遭遇編
9/65

掌編 ご親戚ですか?



「―――クマさん、知っていますか?ある地域では、珍しい柄をした熊に似た生き物がとても持て囃されているらしいですよ」


「………」


この娘は、いきなり何を言い出したのかと思いながら、俺は無言で彼女を見つめた。

彼女が言った生き物に思い当たる節がない訳ではないが、何を言いたいのかが分からないのだ。そもそもこの娘はこんな凶暴だと言われるナリをした俺に平気で近寄ってきて、餌付けだなどと言って楽しんでいる位なのだから変わっているとは思っていたのだが…。普通の人間はまず近寄って来ないのに、彼女といると調子が狂う。


「聞いていますか?…ちゃんと聞いてくれないと、お菓子あげませんよ?」


「……聞いている」


そうですか、お菓子が無駄にならなくて良かったですなどと言って笑う彼女は、きっと俺が返事を返さなかったら本気でお菓子をくれない気だったのだろう。

先ほどから黙ってこの甘い香りに耐えているというのに、彼女は本当に容赦する事を知らない。


「…それで、その生き物がどうしたんだ?」


さっきは突然の事で反応が遅くなったが、シュティラが何を言いたいのか気になる。こんな俺をクマさんなどと可愛らしい呼び方をするくらいだから、その生き物に会ってみたいとでも言い出すのだろうか?


「どうやら貴重種らしくて、すっごく持て囃されているそうです。でも、友人に見せてもらった絵だと意外と目つきが鋭いのが恐ろしくて、どうしてこれが人気なのか本当に不思議でした」


「…そうか」


俺の記憶が正しければ、女性と子供には特に人気のある生き物のはずなのに、彼女はそれを恐ろしいという。確かに、前々からあの生き物は目つきが鋭いとは思っていたのだが、俺とおなじ感性でこの若い娘さんは大丈夫なのかとお節介にも心配になる。


「どうやら笹を食べて生きているみたいなんですが、あんな硬い物を平気で食べるなんて、相当腕力も歯の強さもありますよね」


「……そうだな」


思い返してみれば、可愛いと言われる容姿には不釣り合いなほど爪も歯も鋭利に尖っていたなぁと例の生き物を思い浮かべる。


そんなことを考えている内にも、彼女は俺の背後にまわりごそごそと何事か動き出した。

何をするのかと止めようとしたら「…お菓子、いらないんですか?」と脅され、黙って彼女に背中を許す。背後に立たれるのは苦手な為、本気で勘弁して欲しいのだが…。背に腹は代えられない。


「大体、どうして自然界の緑豊かな所に住んでいるのに、白と黒のコントラストなんでしょうね?おまけに、おおクマネコなんて訳の分からない名前だし」


熊なのか、猫なのかはっきりして欲しいと憤る彼女に、とうとう俺は確信を深めていく。

やはり彼女が言っているのは、特定の国では熱狂的な人気のある生き物らしい。

『あの生き物の関連商品を売っただけで、莫大な金がはいる』と言うほど知名度も人気も高い存在に喧嘩を売るとは…流石だと変に感心してしまう。ただ、一応彼女の間違いを訂正しておいた方がいいだろうと、口を開く。


「…それはジャイアントパンダと呼ばれる事が多くて、ゆったりした動きが人気らしい。もしかしたら、本物を見たら君も考えを改めるかもしれないな」


「へぇ~クマさんは、お仲間ですし会った事があるんですか?」


「……いや、ない」


「なんだぁ~もし会った事があるなら、人気の秘訣を研究してクマさんの商品とか売り出したらどうかと思ったのに」


パンダと一緒にするなとか、この容姿で本当に売れると思うのかなど言いたい事は沢山あるが、まずは一つだけ取り立てて確認したい事がある。甘い香りに心を奪われて今まで黙ってなすがままになっていたが、横目に映った存在は流石に許容しかねる。


「―――どうして、さっきから俺の毛を梳いているんだ?

 あと、その手に持っている物は何なんだっ」


後ろを振り向くと、シュティラの手には赤いリボンが一つ握られていた。俺のほうにリボンを向けたまま固まっている姿から考えるに、どうやってもそれは俺に付けようとしているのだと分かる。…分かりたくはないが、分かってしまう。


「ええー?強面のクマさんでも、可愛くリボンをつけたら愛嬌が出て親しみやすくなるかもしれないと思って」


実験ですよ、実験。そう陽気に笑う彼女の笑顔は可愛らしいが、もしかしたら彼女の感性は少しおかしいのかもしれない。こんな容姿の俺が、リボンをつけただけで可愛くなる訳がないだろうっ!

普段から疑問に思う時もあったが、少し残念そうな顔をした彼女の考えていることを理解する日は来ないのではないかと、そっと一人ため息をついた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ