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アリアルトの森で  作者: 麻戸 槊來
遭遇編
6/65

掌編 アリアルト騎士団

後付け上等!という気持ちで読んでいただけると、嬉しいです。


アリアルト王国が誇る『アリアルト騎士団』は、建国時には現在をはるかに上回る人数の騎士を有し、隣国にも恐れられていたという。しかし、今から数百年前。大きな争いに巻き込まれ多くの国民を失った。それから徐々に、国自体も収縮傾向にあり、旧アリアルト語で『帝王』を意味する国名も、名前負けしていると笑いの種にされることも少なくない。


大きな戦いに巻き込まれたアリアルト王国だが、いまだ独立国として存続しているのにはひとりの英雄の影がある。かつて大戦で敵国に引けを取りながらも、益より国民の命を優先した英雄『アルベロ』だ。

一隊の隊長でしかなかった彼だが、国の誇りばかりを重んじる騎士団の団長を始めとする上層部に刃向い。なにより人命を優先したことにより、捕虜とされそうになった多くの国民が救われ、彼の部下たちも無駄な血を流さずに済んだ。


この判断と彼の戦略、そして驚異的な指導力がきっかけでその後もいくつもの戦いを勝利へ導き。果ては、この国が他国へ吸収などされず存続できたのも、彼がいてこそだと語り継がれている。


そんな彼を称え、騎士団と呼べるほどの人数がいなくなり縮小した現在も、国の盾であり剣である彼らはアリアルト騎士団と名乗り。それをまとめる存在を、団長ではなく『隊長』と呼んでいる。




「そうなんですか。前々から疑問だったんですよねぇ」


街の大半の子どもなら知っていると言われ友人にも呆れられ、正直気になっていたのだ。


小さな頃に旅を続けていたことも関係しているのか、私の知識はどうも偏っている節がある。

さすがに国の英雄である『アルベロ隊長』の名前などは知っていたけれど、現在の騎士団と結びつける知識は皆無に等しかった。


「そこまで真面目に聞いてもらえると、説明のし甲斐がある」


「クマさんは、意外と騎士団について詳しいんですね……そんな顔しているのに」


「容姿が関係あるのか?」


つい呟いてしまった言葉は運悪く、クマさんの良い耳には聞こえてしまったようだ。どこか不思議そうに、小首をかしげて見つめられた。


確かに、ちょっとクマさんの熱意が伝わりすぎてうざ……そこまで、詳しく聞きたかったわけではないのになぁとは、思ったが。

幼馴染や街の子どもたちの反応を見ると、男の子や子どもであれば皆憧れ、慕っているのだろう。ましてや、さほど興味のなかった私でもすごいと感じる英雄ともなれば、このクマさんが好意的なのも致し方がないのかもしれない。



いくら己の知識が、こんな英雄など興味もなさそうなクマさんより劣るもので恥ずかしかったと言えども、先の言葉はあまりに失礼だったかと後悔する。…だけど、素直じゃない口は止まらない。


「うっ……せっかく教えてくれたのに、悪いとは思いますけど!だって、明らかに人捕まえて齧り付いている方が似合いそうな姿しているのに、英雄を崇拝しているような様子だからっ」


「俺は、人様のものを奪ったことはないし、ましてや人様を喰らおうと考えたことすらない」


崇拝云々は横に置いても、どれだけ俺は君に飢えて見えるんだと肩を落としてみせた。

フォローになっていなかったと焦る私を置いて、クマさんはどんどん自分の思考へ沈んでいるようだった。


「まぁ、何度となくシュティラの手料理という好意のご相伴にあずかり、目覚めるとまず思い出してしまうくらいには胃袋を掌握されている気はするが……」


ぶつぶつ呟いていることは初耳で、そこまで手料理に期待を掛けられていたのかと思うと若干複雑な感情を抱く。そんな風に言われてしまえば、もう少し手をかけた方が良かったかと焦りは募る。


「何故だ…シュティラの発言を否定しようとすればする程、飯のことを考えている自分に気付く」


「ほら、言ったじゃないですか」


冷や汗すら浮かべる勢いの私だったけれど、ある瞬間にクマさんが顔を上げたのをこれ幸いと言葉を返した。クマさんへ焼き菓子を差し出すと、一つお礼を言って口にしている。


今日は、蜂蜜とレモンのミニケーキにしてみた。

食べるまでは甘い香りの方が勝っているように思えて不安だったけれど、口にした途端広がるさわやかなレモンの風味を感じた。


「今日はさっぱりした感じにしたくて、長時間つけていないレモンを上にのせてみたんです。蜂蜜好きのクマさんには、すっぱかったですか?」


「いや。生地が充分甘いから、ちょうど良くておいしい」


言葉に嘘はなかったようで、クマさんは嬉しそうに目元を和らげている。

蜂蜜で漬け込んだレモンは確かに酸味があるけれど、その分新鮮な果実のうまみがあって好きなのだ。それを気に入ってもらえたとなれば自身もうれしい。皮の苦みがアクセントになって、甘いはずのそれもどんどん食べてしまえそうな焼き菓子だ。噛むたびに、生地に練り込んだ蜂蜜のレモン漬けが、口を満たしていく。


「一度少し助けたくらいで、これだけの物を食べられるなど、どう考えても俺の方が得をしているな」


「自分が食べるついでですし。

 食材を余らせずに済んで助かっているので、気にしないでください」


一人分をいざ作ろうとすると意外と大変なのだ。


確かに、森に住んでいるクマさんの栄養面を考慮するのも、冷めても美味しい料理を選ぶという手間はある。けれど、それはお礼にかこつけて勝手にお節介を焼いているだけだし。本当に面倒だと思ったら、すぐにもやめていいとクマさんは言ってくれている。


「こんなに良くしてもらって、君には頭が上がらないな……」


焼き菓子を食べながら何か言われた気がしたけれど、クマさんの呟いた言葉を私が知ることはなかった。



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