掌編 罪悪感からくる悪夢
それは、薬師に背をけられた挙句、薬を投げつけられ後のことだ。嬉しくないことに、宮廷医師や薬師の読み通り、俺は怪我からくる発熱に苦しんでいた。
どうやら、ただ部屋にいる気持ちにもならず、街をぶらついていたのが悪かったのか。
周囲も自業自得だと呆れるばかりで、一人薬を飲んで眠ることしかできなかった。幸い、あの薬師からもらった薬を王宮薬師に見せると「効果が強い」と言っていたため、一晩で熱は下がりそうだと胸をなでおろす。
怪我をした上に熱まで出していれば、本当に自分が使えなさすぎて情けなくなってくる。
貰った薬を王宮薬師に見せたときに、やけに生き生きとした顔で「研究のために売ってもらえないかっ」と詰め寄られたが、すでに軽く熱が出てきていた俺は目の前でその薬を飲み干した。本当は一回では熱が下がらなかったとき用に残っていたのだが、熱を出した怪我人から薬を奪おうとする様に若干イラついて黙っていた。もしも、薬が余ったら渡してもいいと思っていたのだが……先ほどの言動と日ごろ飲まされている薬のまずさの復讐もかねて、今は黙っていることにした。
夜にはもっと熱が高くなり、うなされた俺は深く眠り込むことができずにいた。
そんな、うつらうつらと意識があるのかないのか分からない状態の時に、俺の横でうごめくものを感じ意識が浮上する。殺意や敵意は感じないが、ベッドに何かいるとなれば気分が悪い。猫か何かが紛れ込むわけがないのだがと思いつつも、正体を知るべくうっすら目を開けた。そこに広がるありえない光景に、俺は目を大きく見開いた。
―――そこには、腰に手を当てて肩を怒らせている薬師がいたのだ。
「うちの馬鹿クマを、苛めるな!」
しかし、明らかにサイズがおかしい。
手のひらサイズの薬師が、文句を言いながら俺の頬へ蹴りを入れてくる。さすがに小さくなりすぎだとも思ったが、不思議なことに俺はそれを粛々と受け止める。この小さい薬師がくりだす蹴りは、普段であれば何てことないはずなのに、熱に浮かされた体には無視しきれないもので再び眠りに落ちることができない。
そのまま、反論もせずにされるままになっていると、そのうち足だけにとどまらず手でも殴ってくるようになった。ぺちぺちと軽い音がするのにその感触は思いの他強く、病人である俺には結構堪える。しばらくは大人しく受け入れていたが、いつまでもやむことのない攻撃を何とか止めようと声をかける。
「やっ、やめろって……」
かすれた声は思いのほか弱弱しく、咳払いしてみるが喉がいがらっぽくうまく声が出せない。常であれば『馬鹿クマ』なんて無礼な表現は到底許さないのだが、それを訂正するだけの元気もなく。
ましてや誰を示しているのかなんて、言われずともわかってしまう。
「悪かっ、悪かったって!もう無茶はしないからっ」
そんな風に叫んだところで、俺は飛び起き目が覚めた。あの夢が現実のものにならないよう、早々のうちに隊長へ謝罪することを心に決めた。幸い、熱が下がってすぐに行動したのが功を奏したのか、あの悪夢が正夢となることはなかった。
一応、シュティラは『馬鹿クマ』とまでは言ったことがありません。




