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アリアルトの森で  作者: 麻戸 槊來
遭遇編
30/65

掌編 くまさんは乙女?

1話目で登場した不審者の正体と狙いが明らかになります。


クマさんの暮らしていた洞穴に入ると、何やら見た事のある物を見つけた。

あれ?これって私が以前に森で獣に向かって投げた薬の袋では?どうしてこんな所にあるのだろうか……?確かこれは獣に持っていかれてしまい、悔しい思いをした覚えがあるのに。


「クマさん、この薬袋って…」


私がそう声をかけた途端、クマさんは目に見えてびくりと体を震わせた。

最早、此処まで見事に反応されてしまえば、何か後ろめたいことがある事は嫌でも予想がつく。これではまるで、万引きした犯人に後ろから話しかけたような気分だ。


もしかしたら、たまたま森で拾った物を私に返そうとしてくれたのではないかと、甘い幻想を抱きそうになっていたのに…。そんな幻想は本人の素直すぎる反応によって打ち破られた。


「…確かこれは、数ヶ月前に森で動物に向かって投げた物のはずなのですが、どうして此処にあるんでしょうか?」


私と目を合わせず、きょどついている様はこちらが可哀そうになるほどだ。……けれど非常に残念だが。私はいい年した厳つい成人男性がそんな態度をとっていても、イラっとしかしない。


なかなか事情を話そうとしない彼に、仕方なく私から話しかける事にする。あの時はイルザと会った帰りで…。ふと、嫌な予想にいきついて、深くため息を吐く。そんな私の態度にすら怯えているのだから、この予想は当たっているとみて間違いないのかもしれない。



「―――クマさん。貴方あの時に私がお菓子を持っているのを知って、近寄ってきたのでしょう?」


「っどうして、そうなる!?」


「あれ?違うんですか?」


絶対あたりだと思ったのに。長く野宿なんてしているから、『甘いものが欠乏して思わずか弱そうな私から奪おうとした』っというのが、私の浮かんだ筋書きだった。

そうでもなければ、わざわざ獣を装って私に近づいてくる理由がなかったろうに。


「じゃあ、どうして私に声もかけず近寄ってきたんですか?」


「っそ、それは…」


急に黙り込んで気まずそうにしているクマさんに、首を傾げる。お菓子が目当てじゃなかったら、何が目当てだったのだろう?

そもそも、こんなにもクマさんが動揺している理由がわからない。普段の様子を見ていると、彼がむやみに音を立てて通りがかりの人間を脅そうとするとは思わないのだが。


「…俺はあのとき怪我をしていて、たまたま見かけた君なら薬を持っているのではないかと近寄ったんだ」


「?それならそうと、言ってくれればすぐ薬くらい渡したのに」


「……俺は、この顔のせいで初対面の女性に怯えられなかった事はない。おまけに、こんな森の奥でいきなり話しかけたら、事情を話し終わる前に山賊だと思われて逃げられるのが落ちだと思ったんだ」


「嗚呼…、すみません。強く否定できない私がいます」


何しろ、初めての出逢いが『私を助けてくれた』という状況であったのにも拘らず、その迫力に圧倒されてしまったぐらいだ。

まさかこんな森にまっとうな人間が住んでいるはずもなく、一目で『クマさん』と名付けてしまう容姿をしている彼を警戒せずに接することができるとは思えない。注意しておくが、私は薬師という仕事柄この場所が気に入っているだけで、決して変わり者なわけではない。


大体、これでも定期的に街には面倒だと思いながらも行っているので、そこまで、森の奥にある家に引きこもっているわけでもない。そんな言い訳めいたことを考えている私をしり目に、クマさんからはどこか哀愁が漂っている。


「……はぁー」


思いっきり息を吸い込んだ後に、お腹の底からため息を吐き出したクマさんを見て、古傷をえぐってしまったかと焦る。

そのあと、必死に慰めている私の横で「―――本当は久しぶりに逢った君を、近くで見たかったんだと」呟いていた事に、私は気付いていなかった。




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