掌編 毛色はそれぞれ
その日は珍しく、クマさんとレスターを率いて森にて食料集めにいそしんでいた。
それぞれ個々の食材を求めて散らばっていたのだが、ふっと木の間からレスターの頭がのぞいたのが気になって、思わず声をかけた。
「レスターのその髪、この森では悪目立ちするわよね」
あまりにも、木の実を採っている姿が似合わないレスターを見て、そんな言葉をいってしまった。いくら騎士様といえど、ただ飯食いは許さない。
彼はクマさんと一緒になってよく食べるから、食糧集めは義務だ。普段は家を極力出ないように気を付けていたのだが、そろそろ食料も底をつきそうだったから、急きょ二人を外に連れ出した。
家の近くだったらさほど問題ないだろうと、渋るレスターを説き伏せた。
クマさんは手慣れたように、黙々と木の実を採っている。私は何気なく言ってしまった言葉だったのだけれど、自分でも多少感じていたのか、わんちゃんに吠えられてしまった。
「うるさいっ!俺だって副隊長みたいな髪色がよかったんだ」
きっと騎士として野外で動く時などは目立ってしょうがないのだろう。ほんの少しだけ可哀想だと感じてしまった。
クマさんはそんなレスターの言葉を聞いて、驚いた様に目を丸くした。
「そうか?ブラウンなんて珍しくなくて、つまらないと思うぞ?
それに、レスターみたいなきれいなハニ―ブラウンは滅多にみないし、羨ましく感じる時があるな」
「うわぁ。副隊長に褒められるのなんて光栄です」
これからは大切にしようと囁いているという事は、今までは大切にしていなかったという事か?
レスターの髪はふわふわとした猫っ毛だ。彼は細かい所でいちいち五月蠅いから、大事にしなければ直ぐ禿げてしまいそうなのに…。大体クマさんが反応しているのは、ハニーという部分ではないかと懸念する。
もしもそうだとしたら、これだけ喜んでいるレスターが不憫過ぎる。
「可哀そうに…」
「なんだ、その同情するような眼差しは」
訝しげに見るレスターをこれ以上いじめてはかわいそうだと、話を変えてあげる事にする。本当に禿げた時は、思いっきり笑い飛ばしてやろう。
「確かに、ちょっと此処まで綺麗な色だと羨ましいですよね?
私なんてこんな色ですし」
肩まである髪の毛をついっと掴む。そんな私の言葉を聞いて慰めようとしてくれたのか、クマさんは私の頭を一撫でし、言葉を発した。
「シュティラの髪は、君に似合っていて可愛いぞ?
綺麗なキャラメルブラウンだな」
私の髪を見ながら僅かに目を細めたクマさんに、思わず笑みを漏らしてしまう。
「そうですか?有難うございます。でも、これは焦げたキャラメルって感じの色ですよね。―――嗚呼ってことは、クマさんにとっては羨ましいですか?」
「美味しそうだとは思うが、羨ましくはないな」
「えっ?髪を見る度にお腹が減ったら困るからですか?」
きっと羨ましがると思っていたのに、意外な言葉が返ってきて驚いた。甘いものが好きなクマさんのことだから、キャラメル色だなんて喜ぶと思ったのに。けれど、次の言葉を聞いて納得する。
「いや、俺の髪の長さでは、それを見る事はできないからな」
それならば、シュティラの髪を見て触れている方が面白いとクマさんは言う。
思い返してみればクマさんは良く私の頭を撫でて、手触りのいい髪だと褒めてくれる。彼に頭を撫でられるのは不快ではないため特に拒否していなかったが、そんなことを考えていたとは初めて知った。
この髪を見ながらお腹を減らしていたのかと思うと、怒りよりも呆れを感じる。
たぶんクマさんの中で、私という存在自体が食べ物と直結しているのではないだろうか。まぁ、この髪色を褒められたという事で、なんだかんだで喜んでしまう自分が居るのだが。
「確かにそうですね。じゃあ、代わりに今日はプリンでも用意しましょうか」
「おっ、それは嬉しいな」
頬をほころばしたクマさんに、少し多めにプリンを作ってあげようと心に決める。
そうと決まれば、早く食料を集めてしまわなければと、二人作業する手を速めた。
「……結局、バカップルかよ」
風が強く吹いたため、横にいたレスターが私たちの会話を聞いて、そんな事を囁いていたとは知らずにいた。




