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彼女と友達になるまでのあれこれ。

作者: TOKIA

ジャンルは恋愛としてありますが多分そこまで恋愛色は強くないかな、と思います。


「な……何で青海先輩がこんなとこに……」


 月島はカウンターに商品を置いた状態のまま硬直した。


「なんでと言われても。、俺、ここでバイトしてるから。ほら、これエプロン、名札、制服」


 この子、何をそんなに驚いてんの? 俺が本屋でバイトしてたらそんなに意外?

 こう見えても勤続二年は経つんだけど。


「最悪や……」

「人の顔見て最悪とか酷いね、おまえ」


 頭を抱える月島。めっちゃ挙動不審。


「あっ」


 俺が不思議に思っていると、我に返った月島がカウンターに置いていたそれを凄い速度で後ろに引っ込めた。

 いや、今更隠しても遅いから。

 見えた表紙は今日発売されたライトノベル。最近アニメ化だのゲーム化だのと何かと話題の作品でうちの店でもポスターとかPVとか販促物を使って、フェイスをたっぷり使って平積み展開している。俺自身は読んだ事ないけど、そういうのに詳しい友人がいて、やたらと勧めてくるからそのうち読んでみようかと思ってたんだけど。


「それ、買うの?」

「え? な、なにが」

「だから、それ。『騎士王物語』の新刊」

「き、きしおう? 青海先輩が何言うてるか私にはようわかりません」


 澄まし顔なのに、すんごいあからさまに目を逸らされた。そのまま俺から離れるように後退っていく。


「うん、まあ……どっちでもいいんだけど他に並んでるお客さんもいるから後ろ向きに歩くのはやめてくれな?」

「……そんなん言うて私が何持ってるか見る気やろ」

「いやいや、見ないって」


 見なくても分かってるし。生憎とそこまで暇じゃないし興味もない。仕事中なんだよね、こっちは。


「何をそんなに隠したいのか知らないけど、レジ前でウロウロされたら邪魔だから何も買わないならどいてね」


 言ってる内容はさておいて営業スマイルは忘れずに。


「……言われんでも退きます」


 一瞬ムッとした様子だったけど月島は素直に退いてくれた。実際邪魔だと思ったんだろう。

 次の接客に移っていると、月島が少し離れたところでまたウロウロさ迷っているのが視界の端に映った。


 要するにあれか。件のライトノベルが欲しいけど、買うのを誰かに見られるのが嫌、と。

 俺にはよくわからない感覚だけど、なかなか難儀だな。月島ってあんな子だったんだ。

 まだ会って間もないしイメージもくそもないけど。





 ###





 月島漣は同じ学校の後輩だ。

 彼女がうちに編入してきたのが一月程前。その後ちょっとした縁があって校内で会えば挨拶や軽い会話くらいは交わす間柄になった。

 縁っていうか月島と俺の妹が同じクラスの友達ってだけだけど。

 ただ、まあ兄としても、かなり妙な性格の持ち主であると言わざるを得ない妹は、必然と言うべきか友達が少ない。皆無だ。少なくとも俺は今の学園に入ってからあいつのリアル友人の話は聞いた事がない。重度のネットジャンキーでその分、ネット内での知人友人その他交遊関係は広いらしいけど、そんなもんは何の自慢にもならない。


 ともあれ、そんな残念シスターに友達が出来たと聞いたならば、その友達とやらと接触してみたくなるのが兄の性だろう。

 ちなみに注釈しておくけど俺は妹と仲が悪い。ましてやシスコンでは断じてない。顔を合わせば毒を吐き合う仲だ。


 そんな訳で、単なる興味本意と怖いもの見たさから第一次接近遭遇(月島がうちに遊びに来た時にお茶を持っていっただけ。妹には侮蔑の視線を向けられた)を果たした俺は月島と『知り合い』と呼べる関係になったのだった。友達ではない。まだ距離感を図りかねて、探り合いのようなやりとりが多い。


 何度か話した印象や情報を俺なりに分析すると―――月島は、よく言えば冷静で落ち着いている。悪く言えば冷たくて無関心で無感動。クールというか斜に構えていて、やや警戒心が強い。要するに思春期特有の病気。

 話し掛ければ答えるが必要以上の事は言わない。無口という程でもないけど。誰に対しても一線引いていて、友人未満の相手にはその傾向が顕著になる。

 これは当たり前と言えば当たり前だけど、誰とでもすぐに仲良くなって人の懐に入っていけるような人種もいるから、そう考えると月島は付き合い辛い部類に入るんだろう。



 と、思ってたんだけど。





 ###





 その後も普段通り仕事をこなす俺の行動を気にしているのがバレバレな動きで月島は一向に出ていく気配を見せず、客足が止まり同僚が先に帰ってカウンターに店員が俺一人になっても月島はまだ店内をウロウロしていた。

 店内に腰を降ろせる場所はないから月島は向こう数時間立ちっぱなしだ。さすがにイラついた様子の彼女に俺はカウンターから声をかけた。


「あのさ。一つ言っとくと、俺、今日ラストまでのシフトだから俺が帰るの待ってるんだとしたら無駄だから」

「人が気付いとる事を今頃になってわざわざ言うとか、どういう神経しとるんですか……。もう蛍の光流れとるやん……」

「何も買わずに夕方から今の今まで居座るのも結構どうかしてると思う。営業妨害してる訳じゃないから放置してたけど正直引いた」

「……まるで呼吸でもするように、さらっと酷い事言いますね。性格悪いってよう言われません?」

「言われる。自分でもそうだな、と思わなくもない」

「そこは否定しときましょうよ」

「否定しても事実は変わんないし。っていうか、人に性格悪いとか平気で言うヤツも大概性格悪いんじゃないかと俺は思う」

「んな……っ」


 軽く反論してみると月島は顔を真っ赤にして言葉を詰まらせた。

 あー、やばい。今日、初めて気付いたけど、この子思ってたより相当面白いっぽい。リアクションが俺好み。愉快って意味で。こういう弄り甲斐のあるヤツは大好きだ。


「まあ、月島の性格の良し悪しはどうでもいいけどな」

「どうでもええんやったら、その事でいちいち人を攻撃せんといてください……」

「攻撃なんかしてない。思った事を言っただけだから」

「って、おい」


 月島は女子にあるまじき渋い顔でツッコミを入れた。お互いに遠慮がなくなってきてるのはいいのか悪いのか。


「先輩、実はめっちゃ腹黒いですね」

「そう? 相手によって自分を使い分けてるだけだけど。やってる事は月島と変わんないんじゃない」

「……………」


 睨まれたジト目の中には渋味に苦味と探るような色が混じっていた。


「まあ、それはいいや」

「先輩、腹黒くてズケズケ物言うくせにあっさり引くから、こっちはめっちゃモヤモヤする」

「そんなこと知るか」

「ほんまに最悪や、この人……」

「もう最悪で結構。それより、いい加減買うのか買わないのかはっきりして欲しいんだけど。買うなら、さっさとして。買わないなら、お帰りはあちら。早くレジ閉めちゃいたいんだよ」

「ぬうぅ」


 唸られても困る。


「月島のせいで俺の就業時間が刻一刻と増えていってるの分かってる?」

「店員のくせになんて事言うんですか」

「だって、もう閉店時間過ぎてるし。他に誰もいないし。残業代とか出ないし」


 労働基準法は守らないと色々言われるんだよ。

 蛍の光もいつの間にか終わっていた。


「わ、分かりました……買いますよ。買えばええんでしょう」

「だったら最初から買えよ、もう。めんどくさいな」

「もう、この店二度と来ません」

「別にいいけど、この辺他に本屋ないぞ」

「………そうやった。あかん、もう嫌や」


 月島がカウンターに突っ伏して項垂れてる間にレジを操作する。ピッ、とスキャナが音を立てた。


「こちら一点で609円になります」

「あ、はい」


 財布から札が一枚出てきて渡される。


「万札とか……もう、ホントめんどくさい……」

「……ええから、早よして下さい」


 そろそろスルーする事を覚えたらしい。

 乗ってこないもんは仕方ないので普通に仕事をする。


「あ、会員カード持ってる?」

「持ってないです。今日初めて来たんで」

「今作るか? うちのカード結構ポイント特典あるけど」

「でも時間掛かるでしょう? 今度でええです」

「五分もあれば出来るから作っとけって。今回の分もポイント入るから」

「え、でも……」

「もう、ここまできたら五分や十分遅くなっても変わんないし俺の事は気にしなくていいよ」


 それよりはお得意様を増やしたい。基本的には職務に忠実なんだよ、俺。


「そう、ですか?」

「うん」

「……じゃあ」

「おっけ。じゃあこれに名前と住所と電話番号書いて」


 新規会員、ゲットだぜ!





 ###





 閉店作業を終わらせた後、事務所で残業してる店長に挨拶をして店を出ると、普段より四十分程遅い時間になっていた。


「お疲れ様です、先輩」

「あ? 月島? 何やってんの?」

「夜道を女一人で帰るのは危ないんで先輩に送ってもらおうかと思って待ってました」

「えー、やだよ。別に一人で帰れるだろ」

「……ある意味、期待を裏切らへん返答をどうもありがとうございます」

「じゃあいいじゃん。お疲れー」

「で、ほんまに帰ろうとするし」

「そりゃ帰るよ。仕事終わったし、明日も学校だし」


 さっさと帰って、飯食って、風呂入って、寝る。何人たりとも邪魔はさせない。


「だから帰らんといて下さい」


 カバンを掴まれた。振り払うのは簡単だけど、それはなんとなく躊躇われた。俺だって何も血も涙もない冷血漢って訳じゃない。

 渋々月島の方に向き直った。


「はぁ……家、どっちよ?」

「送ってくれるんですか?」

「方向と距離次第によっては吝かではない」

「……遠かったら放って帰る気ですね」

「そりゃそうだろ。俺が無駄な時間と労力を使っておまえを送り届けてやる義理はどこにもない。今だって猛烈に帰りたい」

「言うてる事はその通りやと思いますけど、それはさすがにどうなんでしょう……」

「特に問題ないと思うけど」

「意地でも送ってもらいたくなってきました」

「だから家どっちだって聞いてんでしょーが」


 近場なら送ってやるっつってんのにわかんないやつだな。


「あっちの方向に歩いて十分くらいです」


 あっち、と言って月島が指したのは俺の家がある方向だった。なんだ、近いじゃん。


「幸運だったな。それなら送ってやろう」

「なんでそんな偉そうなんですか」

「これが俺の素なの」

「先輩の素は鬼みたいですね」

「何? やっぱり送るのやめようか?」

「いえ、すいません口が滑りました」

「……ま、いいけど。さっさと行くぞ」

「あ、待って下さい」


 不満そうな月島に構わず歩き出す。と、すぐに後ろから足音が聞こえて、間もなくそれは隣に並んだ。









「先輩。コーヒー飲みませんか。奢りますよ」


 自販機の前を通りがかった時、月島がそんなことを言い出した。


「いらん」

「……少しは後輩の厚意を汲んでやろうとか思わへんのですか」

「あんまり。つか何急に。気持ち悪い」

「ちょっ……言うに事欠いて気持ち悪いって」

「いや、だってなあ」


 たかが缶コーヒー一本でも月島に奢ってもらうような理由が思いつかないし。理由もないのに奢ってもらうなんて、それこそ気持ち悪いだろ。タダより高いもんはないんだよ。


「何か裏とかありそうじゃん」

「そんなんないですよ。先輩じゃないですけど私には人に意味もなく奢ったりするような趣味はないですし、かといって策謀を張り巡らす趣味もないです。ただ今日は先輩に良くしてもろたんで、そのお礼です」

「俺が何かしたっけ」

「特別な事は何もありませんでしたけど。今日は色々と話す機会もあったんで、お近付きの印というかなんというか」

「ふーん。まあ、そこまで言うなら」

「ありがとうございます……って、何で私がお礼言うてるんや……」

「これ、おまえの俺に対するお礼なんだろ? 別におかしくないと思うけど」

「そらそうなんですけど……何か釈然とせえへん」


 何かむにむに言いながらコーヒーを二本買って月島が戻ってきた。俺のはブラックで、月島のはカフェオレだった。


「そういやさ、ちょっと気になってたことがあるんだけど」

「何ですか?」

 

 プルタブを開けながら訊ねる。


「今日おまえ店で何か挙動不審だったじゃん。あれってなんなの?」

「……確かに自分でも怪しかったと思いますけど、そんなストレートに言わんといて下さいよ」

「それ以外に言いようがない。万引き犯でももうちょっと堂々としてる」

「私、そんなに挙動不審やったんや……」


 がっくりと肩を落として月島は落ち込んだ。まあ、あの状態を思い返せば自己嫌悪に陥っても不思議じゃないとは思う。


「あの本買うの、そんなに人に見られたくなかったのか」

「……やっぱり分かりますか?」

「他に理由があるなら逆に教えてほしいくらいだけど」 

「ですよね」


 はあ、と諦めた様に溜息をついて苦笑する。こういう顔も初めて見る。月島は、昨日まで―――というか今日会うまで持っていた印象よりもずっと表情豊かだ。やっぱり人間ちゃんと話してみないと分からないことは結構多いよな。


「何か事情でもあんの?」

「いえ、そこまで重かったり深かったりする様な話はないですけど」

「ふーん、まあ、どっちでもいいんだけど」

「え。これ、このまま話聞いてもらう流れとちゃうんですか」

「なんだよ。話したいのか話したくないのか、どっちだよ」

「ここまできたら話さんと逆に気持ち悪いです。それに毒を食らわば皿までとも言いますし」

「ちょ、俺、毒?」

「薬か毒かやったら絶対毒ですよ、先輩は」


 絶対と来ましたか……。別にいいけどさ。別にさ。でも俺だって何言われても気にしないわけじゃないんだぜ。









 そんな訳で公園でベンチに座って話を聞く事になった。どうでもいいけど、何かベタなシチュエーションだ。


「先輩も知っての通り私、先月転校してきたんですけど」

「うん」

「前の学校でちょっと色々ありまして」

「って言われても、色々って何?」

「そこ、あんまり突っ込まれたくないからボカしとるのに遠慮もへったくれもないですね……」

「分かってて聞いてるんだよ」

「でしょうね」

「で?」


 先を促すと、言いにくそうにしながらも、ゆっくりと続ける。ここまできて月島もあんまり隠す気もなかったんだろう。


「ライトノベルとかアニメとかって、ちょっとオタクみたいなイメージあるでしょう」

「え? そうか? 別に普通だろ」

「私の周りの人が皆先輩みたいな反応やったら楽やったんですけど……まあ、前の学校で仲良かった子がそういうのあかん子でして」

「あー……いるな、そういうヤツ。もうなんとなく展開が読めた」


 いつだったか聞いた話によると月島が前に行ってた学校って有名女子大の付属校でガチガチの進学校だったらしいから、確かにそういう媒体に免疫のない人間が多そうだ。


「はい。後はもうお察しの通りやと思います。あ、でも別にそれが原因で引越ししたんとちゃいますよ」

「なるほど」

「その時に私も上手く話を合わせといたらよかったんですけど、自分の好きな本を悪く言われてつい熱くなって」

「おまえ、結構バカだな」

「……言わんといてください。後悔しとるんですから」


 要するにオタクを毛嫌いしてる友達に趣味がバレて、その後絶交まではいかなくても気まずくなっちゃって……みたいな事があった訳か。その事をずっと気にしてて、だから、こっちに来てからはそういう趣味が知り合いに見つからないようにしてた、と。で、今回、俺に即行バレてるんだから迂闊にも程があるけど。そもそも隠すようなもんでもないし。


「どんな話かと思ったらすげーしょーもないなー」

「またばっさり……そんなん分かってますよ。しょうもない事を私が引きずっとるだけです」

「で、この話のオチは?」

「何を期待しとるんですか。別にこれ面白い話ちゃうし」

「ええ? 関西人のくせに」

「関西人やからってひとくくりにせんといて下さい。いい迷惑です」


 何か嫌な思い出でもあるのか本気で迷惑そうにして、月島は話を切る。


「とにかく、昔、そういう事があったんです」

「まあ、一応話は理解した」 

「そんなに気にする様な事とちゃうのは自分でも分かっとるんですけど」

「うん。何をそこまで気にしてるのかさっぱり分からん」

「……いや、でも、そこまではっきり言われるのも微妙です」

「俺はもうこういう人間だから諦めて。改める気もないし」

「それは改めた方が……て言うても無理なんやろうけど」


 よくわかっていらっしゃる。月島には今日一日で俺の人となりが完全に露見したと言っていい。全く問題ないけど。その方が楽だし。


「何でおまえがあの妹と仲良くなれたのかは分かった気がする。あいつもかなり変わってるからな」

「あの子は確かに変わってますけど、その言い方やと私まで変わり者みたいやないですか」

「いや、おまえ相当変なヤツだぞ。自覚ないのかもしんないけど」

「……そんなん初めて言われました」

「あいつとは仲良くなるべくしてなったんだろうよ。個人的には面白くて仕方ない」

「言うときますけど、今先輩めっちゃ酷い事言うてますからね。ていうか、先輩もよっぽど変やから」

「俺はいいんだよ」

 

 俺は自覚あるし。その事で別に困ってもいないし。周りにもっと変なヤツ沢山いるし。それこそ『こいつ、頭おかしいんじゃねえの』ってたまに思うくらいのヤツが。妹とか。


「誰に迷惑かけてる訳でもなし、それも含めて個性だろ。人間、自然体が一番だよ」

「上手い事言うてまとめましたね。自分の事、堂々と棚上げして」

「だって、そういうもんじゃない?」

「そうかもしれませんけど」

「だから、まあ、つまり色々と気にしすぎるなよって事で」

「ん? ……もしかして今、励ましてくれました?」


 聞くなよ。思ってもそういうことはさ。

 俺は黙殺する。月島は驚いたように目を丸くして、次に小さく微笑んだ。


「意外でした」

「何が」

「先輩にそういう優しさがあった事が、です」

「おまえは俺を一体なんだと思ってんのかな?」

「『口も性格も悪い、友達のお兄さん』」


 そのまんまじゃん……当たってるだけに反論出来ないけど。


「でも『口も性格も悪いけど、時々ちょっとだけ優しい、面白い先輩』に格上げしときます」

「それは喜んだらいいのか? 怒ったらいいのか? どっち?」

「喜んどいて下さい」

「なんか素直に喜べん」


 褒められた気が全然しない。


「そんなん先輩がひねとるからですよ。そういうとこが性格悪いって言うとるんです」

「おまえも、そういうこと言うから素直に喜べないんだって分かれ」

「う……!」


 月島は痛いところを突かれた様にたじろぐ。


「そう、ですね、確かに……」

「いや、別に責めてるわけじゃないからな? あんまり気にされても困る」

「……はい、すいません」

「謝るなって。まあ、お互い様って事で」


 そう言って、飲み干したコーヒーの缶をくずかごに向かって放り投げた。


「ちっ、外した」

「行儀悪いなあ。ちゃんとほかしてきて下さいね」

「は? ほかしてって何?」

「関西の方言で『捨てる』って事です」

「へー。そういう意味なんだ」


 ベンチから立って、缶を捨て直す。


「これでいいだろ」

「はい」


 月島も俺に続いて立ち上がって自分の分の空き缶を捨てた。


「さて、そろそろ帰るか?」

「あ、はい。そうですね」


 二人連れ立って公園を出る。

 月島と、夜空の下を歩いて帰った。











 終

 

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