表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆転  作者: 暇人
1/1

第一話

人名に特に意味はありません。

逆転


1.


 男沢イチローくんは、首つりロープを社の梁に括りつけた。首をくくるというが、本当にくくってくびれ死ぬことなんだなと、ロープの感触を味わいつぶやいた。

イチローくんは、いわゆるイジメられっ子である。物心ついてからサエない日でなかった日のない日々で、クラスでの地位は相当、低い。男子からも女子からも哂われてしまいいつも罰当番、トイレ掃除などは一人でやり、女子からなんか罰ゲーム(イチローくんに話しかける役)の対象にされる彼は、そんな日々が十六歳の今日まで続いた。

イチローくんは成績はのび太並に悪く、スポーツもカラキシで、ケンカは笑えるほど弱かった。ただ漢文だけは得手でいつもテストで満点を取っていたが、周囲には漢文だけ得意などというやつは得てしてこういうものだと笑われていた。


そんなイチローくんにも好きな女子が一人いた。クラスメートの阿生明ちゃんだ。艶のあるストレートの黒髪が冴える、今をときめく女の子。他校の男子からも告られることしばしばのそんな彼女に、なぜか彼氏はいない。いないのがイチローくんの強みで、明ちゃんが彼の「お惣菜」にならなかった日は今日まで一日とてない。妄想はいよいよ募り、ますます驕ったイチローくんは、あるいは明ちゃんを肉奴隷として支配し、クリスマス、ヴァレンタインなどはエロゲの主人公もかくやというほどの暴君ぶりだった。

ここまでならマダ良かったのだが、彼には妄想と現実とをごっちゃにする悪い癖があって、ノートの端に「明ちゃんハァハァ(以下略)」など書きなぐっていた。それをクラスの垣谷に見られてしまったのだ。

「ああ、もうお終いだ……」

当然ノートはたらい回しにされ、イチローくんはクラスみなの大爆笑の的となった。噂を聞いた明ちゃんは恥ずかしそうにチラリとイチローくんを一目みて、無言で走り去っていった。さすがに彼もこれが限界だった。


「神様を呪ってやる」

神社の境内で首を括るのはこういう訳である。何かの物語で、人間はみな天国から何かひとつだけ持って生まれて来る、などと聞いたが、自分は悪運だけもって生まれたらしい。いや、妄想力だけだナ。何せ、(脳内で)明ちゃんのはばかりの世話までコントロールし、県内の高校と女子生徒を暴力と姦計で支配するイチローくんなのである。(本稿の品位を落とす為詳述は避ける)イジメのリーダー垣谷は馬鹿笑いして「コピーとるし。つかよこ取りすんのもキモい」とノートをイチローくんに投げるよう返してくれた。これはひどい。死ぬしかない。

「死ぬまでに一度でいいからリア充になりたかった」

ノートを百円ライターで火にくべる。メラメラ燃えていった。火事になるかも知れぬが、マァ良い。言い捨て、踏み台のミカン箱を蹴った。気管がひっくと詰まる。ああ、縄の生々しい感触とはこういうものかと思ったときである。

百雷をまとめて落としたかの如き、突然、閃光、あたりを照らしたのだ。




初めは、爆弾の至近弾が直撃したかと思った。実際、彼の体は縄かけた梁ごとぶっ飛ばされた。

ここは、裏山にある寂れた社である。訪れる者とてほとんどない廃社だ。せめて自分の腐って蛆でウジウジした死体でも見せつけて発見者の食欲を奪ってしまえという勝手きわまりない理由から選んだのだが、やはり神社で自殺など祟られたか。

――祟るなんて、どうして?

声が、イチローくんの脳内に響いた。

『久しぶりね、私にお祈りする人は』

頭を上げたイチローくんの前、女の子が一人立っていた。まばゆい光を纏って。イチローくんは、ドギモを抜かれた。

女の子は年のころ十六、七、腰までとどく長い銀髪を二つ分けに、頭のわきで結わえている。巫女装束の胸のふくらみは結構デカい(ちゃんとみている)。女の子はイチローを、含み笑いしてじっと眺めた。

『政権交代だね』

「ななな……」

何なんだ、と、胸が詰まって声が出ない。

『何はない。あんたが私を呼んだんでしょう?』

少女は凄艶に笑む。

(何だ僕は狂ったか、幻か……)

少女の面影を瞼にとどめて、イチローくんは意識を失った。



2.


さすがに自殺未遂とあっては、騒ぎになった。イチローくんは(無駄に凝った漢文書き下し調で)イジメの経緯、教師を含む関係者名、具体的な日時など遺書をしたためていたので、警察から詳しい捜査が行われた。



イチローくんは病室で目を覚ました。周りに少女などいない、やはり一時狂っていたらしい。

「何で死に損なったか」

それが第一の感想である。警察なんかが何かしてくれるはずがない。連中は検挙成績につながらない事件など馬鹿らしくて投げておく。第一、妄想文集(笑)がある。あんなものを取り上げられるくらいなら死んだ方がましだ。幸いなのか身体に大事のないイチローくんは明日からの学校で〆られるのは疑いがなかった。

翌日、死刑台に上るつもりで登校したイチローくんを、チラチラしろ~い視線が囲む。だが、何かがおかしい。いつもはもっと突き刺さるように痛い視線のはずだ。むしろ奇妙なものをみる(実際奇妙だが)目なのだ。何人か駆け寄った。

「おい、汚沢!」

「ひいっ」

イチローくんは飛び上がった。

「もうダメぽ!」

「お前、何をしゃべりやがった?」

「へ、何も……」

しかし、周りを囲む男子生徒は不気味な顔して、

「垣谷クンが、警察から逃げる途中事故ったんだよ!」

――谷垣少年はたまたま仲間と自宅でシンナーを吸っていたところを事情聴取に来た警官に認められ、慌てて自宅付近の国道に飛び出したところ、不幸にもトラックに跳ねられた。腰骨が粉砕された彼が日常生活に復帰するのは絶望的だと云う。

警察を恐れた男子ヤンキーたちは、すぐ不気味そうに囲みを解いた。呆然としゃがみ込むイチローくん。


「言ったとおりでしょ?」

再び、あのささやきが聞こえた。



「なっ……」

「また『な』?」

イチローくんは周囲を見回すが、見慣れぬ少女と話している自分を不審がるクラスメートはいない。あの時の銀髪の巫女さんが学校の制服を着て婉然と微笑んでいるのに、である。巫女さんの姿が、他の人間には見えていないらしい。

「お前は、なな、何者なんだ」

「ヨモツヘグヒ」

「え?」

「だから『名)』よ、私の。御呪い。私に祈ってくれたあんたの為」


そのとき、誰かがどんとイチローくんを突き飛ばした。

「おい、一人で何ブツクサ呟いてやがるんだよ」

「こいつとうとうイカレたんじゃねぇーの?」

「こいつ、キメェw!」

イチローくんがさーっとマッサオになる。クラスメートの毛利、不良グループのナンバー・ツーだ。

「てめえ、俺らを呪ってたらしいじゃねえか」

イチローくんが前のめりに屈みこんだ。胃が口から飛び出しそうになる。毛利の膝頭が鳩尾から外れると、イチローくんはこらえきれずぐしゃっと跪いた。その顔にぺっと唾を吐きつける。

「クズが、死んでりゃ良かったのによ。テメエ、垣谷が事故ったからって付け上がんなヨ。ありえねえ。俺らぁ誰もテメエみてえなキメぇクズ野郎の生存なんか認めねー。トドメさしてやる」



そうだった。イチローくんは思い出した。こいつらにとってイジメは遊びなんだ。自分のような「クズ」をイジメるのは当然な権利ですらあるのに生意気にもそれがどんな邪たちであれ反撃するなんて、許されるはずがない。虐められたら黙って死んでラッキーででも祟っていいはずがない。だって相手は「クズ」なんだから。クズである理由はこいつらがクズだというからクズなのだ。そして自分はこいつらの所謂クズである。なんでだろう。何で自分はこんな蛆虫どもに平伏していたのだろう。今まで抱いたことの無かった種の感情がふつふつとイチローくんの中で逆立っていた。

予鈴がなり、森たちは名残惜しそうにイチローくんを再度突き飛ばした。気がつくと少女は消えていた。




「えー、男沢の件だが」

教師が気まずそうに口を開く。担任は明らかに、「イジメはありませんでした」という形に話をもっていきたいらしい。言うまでもなくイジメによる自殺未遂など自分の勤務評価に関わるし、それどころかこの担任も遊び半分でイジメに加担していたのだ。

「いじめぇ?そんな事はありません!」

「証拠だせよー!」

クラスメートが口々声を上げる。これでは多勢に無勢、イチローくんに勝ち目はない。

「なあ、みんなこれだけ無いつってんだ。お前がうそをついてるんだろう、男沢?」

「本当です。僕は自殺しようとまでしたんです」

「つーても、誰か証言するやつが……」

「いえ、イジメはありました」


水を打ったようにその場が静まった。少女らしいハキハキした様子で、さらに追求を続ける声がひびく。

「私、何度も見ました。男沢くんが男子から殴られたり、女子からからかわれたりしているの」

「阿生、それは」

イチローくんは自分の目を疑わざるを得ない。弁護しているのはあの明ちゃんなのだから。明ちゃんは怖いくらい真剣な顔で皆と向き合っていた。

「ちょっとふざけていただけとか、そういうんじゃ……」

「私、この先『何か』あればイジメはあったと証言します」

痛々しいくらいの沈黙にふたたび教室が包まれる。

「阿生てめえちょっと顔が良いからってつけあがんなよ……」

毛利が立ち上がった時、教室が爆音に包まれた。窓ガラスが粉砕され、暴れくるう圧縮された空気と焔とが狭い室内を駆け抜ける。クラスメートの殆どが吹き飛ばされ、身をすり切って転がる中、イチローくんは茫然と立ちつくしていた。彼のまわりだけ破片が避けて通ったようになっているが、もろに火炎の煽りを受けた毛利や担任の古泉はガラスの破片がハリネズミのように突き立って、真っ赤に血まみれていた。

「ぐあ、い、いてええええええええええええええっ!」

「ひ、ひいなんなんだ何が起こったぁ……ぐうう」

イチローくんは明ちゃんの下に駆け寄った。

「大丈夫、怪我ない?」

「う……」

明ちゃんにはガラスこそ突き立っていないが足を挫いたらしく、イチローくんが助け起こすと、手を払い恥ずかしそうに俯いた。

「一体なにが……?」

イチローくんが窓に近寄ると、壁面に鼠色の尖鋭なシルエットの飛行機が頭から突き刺さっているのに出くわした。

「こ、これはF-×2ラ○ター……?」




3.


翌日の新聞には○軍の戦闘機が訓練飛行中付近の高校に衝突した旨が報じられた。と、同時にイチローくんの虐めについてもマスコミが嗅ぎつき始める。イジメグループの大半は重軽傷で動きが取れない。これはイチローくんには千載一遇であり、男沢イチローくんは、この機を逃すほどマヌケじゃなかった。警察やマスコミ、○軍関係の前で何度もベソをつくって見せたイチローくんは、さらなる攻撃の目標を森一人に絞る。森の親は近所の建設業なのは(粘着で)調査済みである。イチローくんは、顧客のふりをしていつわりの電話をかけたり、森家の燃えるゴミを盗んだりで電話帳を手にすると、手当たりしだい怪文書をバラ撒いた。効果的なのは親のお得意先、取引関係で、翌週には毛利自ら坊主頭になって担任と謝罪に来た。森の、火傷の文字通り歪んだ顔を、初めてイチローくんは悠々と見下ろしていた。トドメにイチローくんは毛利建設の顧客情報とあることないこと含めて大型匿名掲示板の、○軍事故スレッドに書き込んだ。


続いて、イチローくんは、イジメの主力メンバーの各個撃破に移った。イチローくんはいつか粘着できるよう、主だった不良生徒の個人情報は掴んである。そこで、実家がマンションのものには郵便受けに怪文書をバラ撒き、持ち家のものには拡声器でイジメの惨情、自殺しようとした自分の窮情をがなり立て、借家(大抵がそう)の大家には「お宅があいつのウチに部屋を貸すから自分は殺される!」とインターホン越しに一昼一夜泣きわめいた。警察も、イチローくんの哀れな事情は知っているのであまり強く注意できなかった。また反撃しようにも垣谷グループは戦闘機墜落事故でみな重症の上、下手に手を出すと、事件をマスコミに嗅ぎつかれる。これらの奸計は普段愛読しているアングラ雑誌のイヤガラセ法から採ったのだが、トドメにイチローくんは垣谷・森グループ実家の電話番号をスポーツ新聞の三行広告欄に「デリヘル」として登録した。泣きっ面に蜂である。イジメグループのうち三人は不登校になり一人は自殺未遂した。イチローくんはこれを「兵は詐を以て立つ」などと豪語した。主力が沈黙すれば、付和雷同で加担していたものもおとなしくなる。一ヵ月後にはイジメは止んでいた。みな、この段階でイチローくんの恐ろしさに気付いたのだ。


時を同じくして朗報がイチローくんに舞い降りた。


「男沢くんですよね」

「はい、そうですけど?」

受話器越しに警戒した声を送ると、向こうはおめでとうございますと、告げた。

「今回、あなたの小説が佳作に選ばれました」



イチローくんは無駄な妄想力を活かして三文小説などをノートに書きなぐり、携帯でうぷしていたのだが、自殺する前夜、我ながらこれはと思うものを今生の記念とばかりにラノベレーベルに公募しておいたのだ。それが大賞の佳作を受賞したという。多分に○軍事故の影響があった。というのも、受賞したラノベの出版社は編集が思想的にかたよった人物で、○軍の古今未曾有の不祥事に燦然と現れたいじめられっ子少年(!)を宣伝材料として注目したのだ。さらにブログで今までの経緯を「電○男」みたく書いたイチローくんの下には、マスコミが続々取材に来て、「文学(笑)でイジメを克服した現代の芥川少年」などと過度に美化して報道したおかげで、今やイチローくんの評判はうなぎ登り、もはや勢い猛の者となっていた。将来はラノベ作家になれることは請け合いである。今まで遠巻きにあるいはイジメに加担してイチローくんを冷笑していたクラスメート達は手のひらを返してイチローくんに近づき、口々に賛辞を述べ、もみ手をすりすりし、これに他クラスの生徒まで加わるありさまで、イチローくんは気持ち悪いくらいだが、しかし現実を認識すると泰然、嬉々として報復に回り、自分をイジメていた不良をなぶって廻った。イチローくんの勢いは止まらない。



「これでもうカビ臭い粘着キモヲタのあんたを、バカにする奴はいなくなったわね。よかったね」

部屋で中華書局版、趙翼の廿二史剳記を読んでいたイチローくんの耳元をまたあの甘い吐息がくすぐった。イチローくんはパタンと本を閉じた。

「よくは分からないけど、なんか君のお陰だとは分かっている。君にはお礼を言わなくちゃいけない。でも……」

「でも?」

「君はいったい何なの?」

ヨモツヘグヒ、そう名乗った少女はあれから毎晩イチローくんの部屋に現れるようになっていた。イチローくんを弄び、官能をくすぐり、ギリギリまで昂ぶらせて、ついには消えて朝焼けを迎えるのだ。イチローくんは、悶えに堪えきれなくなっていた。

「君はお化けか幽霊なのか?」

「幽霊にこんな熱い血潮があるかしら?」

少女は自分の胸にイチローくんの手をみちびいた。手に熱い鼓動が伝わる。

「君が何なのかは分からない。だけど、不思議な力を持っていることはわかった。だから」

イチローくんは顔をぐしゃっとしかめた。

「明ちゃんも助けて!」



今や飛ぶ鳥落とす勢いのイチローくんと対蹠的に負け組に転落したのが、例の阿生明ちゃんである。明ちゃんは教師にチクッた、「チクリ」として全校生徒の侮蔑を受けていた。突然散々な目にあったクラスは、イチローくんに逆らえない分、その鬱憤を明ちゃんにぶつけていると云う方が正しい。元々、美形だけど大人しく然程クラスで勢力のない明ちゃんはみるみる浮いていった。顔の綺麗過ぎる明ちゃんに対する、女子生徒のやっかみもあった。今や昼食どき一人ぽつねんとお弁当を食べる明ちゃんのありさまは、イチローくんには痛々しくて見ていられなかった。

「あんたはこれで勝ち組になれたのに、まだお望みがあるの?なら自分でなんとかすればいい」

「…………」

イチローくんは沈黙せざるを得ない。今明ちゃんを庇えば、折角築いた自分の地位を抛棄するようなものだ。それだけは避けたい。

「僕は……でも……」

気がつくと、少女は消えていた。しばらく逡巡していたイチローくんは、携帯電話を手に取っていた。




4.


「ふんふん、その神社に死出のお参りしたら、負け組人生が逆転したと。おまけに美少女巫女さんの悪霊まで憑いてきた訳だ」

ファミレスのドリンクバーコーヒーを啜って、彼は髭だらけの口ひげをもぞもぞと動かし煙草を吸った。

「どういうことでしょうか、付和さん」

ぷはーと煙を吐くこの男は、某出版社編集付和という。イチローくんとはラノベ大賞の授賞式で出会って、何度か食事を驕って貰った事がある。胡散臭いオヤジだが、過去雑誌記者としてオカルトからエロ記事まで何でもでこなした物知りだ。

「その女は『ヨモツヘグヒ』と、そう名乗ったんだな」

「はい、それってどういう意味なんでしょう」

付和はまた煙を吸ってから、

「あれだ、日本神話で、伊邪那美命が火之迦具土を生んだために死んでしまい黄泉の国に行く、そこであの世の食い物を食っちまうんだ。すると死者の世界の住人になり、二度と現世に戻れなくなる。これを黄泉津戸喫という」

「へえ……」

「お前さんが拝んだ神社は、ご祀神はなんだ?」

「それが、分からないんです。縁起とか由緒とかどこにも書いてないし、ほんと社だけでしたから」

「そうか……」

付和はなにやら考え込んでいたが、

「マアお前さんの話がマトモだとしよう。確かに都合よくあんな事故なんてあり得ないしな。すると何かをお前さんがしたはずなんだ。その神社で。その巫女さんとやらが神様だとして、日本の神様ってのは、人間が何か差し出すと、その返礼に幸福をもたらしてくれるものなんだ。お賽銭ってのもいわば神撰の一種だし、神楽を舞うのも神様への奉納だ。本来奉るのを祭りという。お前さんは、何か(しゅ)をかけたんじゃないかな」

「…………」

「お前の住んでいる××市は武蔵国風土記によれば、元は今のS県からの開拓民の拓いた村だったそうだ。何か関係あるかもな。まぁちょっと調べといてやる」

付和はコーヒーを飲み終わると、新しい煙草に火をつけた。

「そうそう、この前言ってたの覚えてるか。某ベストセラーミステリー作家のゴーストだよ。一作五十万は固いぜ。お前中々つかえるやつだし、特別に紹介してやってもいいぞ。リベートは六割でいい」

「結構です」



帰りの電車に揺られながら、イチローくんは思案に耽っていた。付和の言うとおりだとすれば、自分はあの神社で何かのおまじないをした事になる。(存在自体が怪しいのを別とすれば)しかし、リア充を呪ったのと、首を括ったのと以外には、これといって怪しげな儀式などした覚えがない。すると、何が原因で自分はあの少女を招き寄せたのだろう?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ