ドアの向こうの妻だったもの
『誰にだって、消し去りたい過去と、人には言えない秘密がある。
もしも、あなたの奥底にある「暗い望み」が、最悪の形で現実になってしまったら――?
ドア一枚を隔てた妻の異変。首元の謎の痣。そして、明かされる思いもよらない真相。
平穏な日常が徐々に狂っていく戦慄のホラーサスペンス、開幕です。
※本作には一部、ショッキングな展開や心霊描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。』
高嶺治郎は、妻の帰りを待っていた。妻はちょっとそこのコンビニまで、と伝えただけで、そそくさと出掛けていった、
妻の名前は、高嶺 翔子。今年で二十八になるプロポーション最高の自慢の妻であった。
子供は生まれてないが、霊的に そろそろ 頑張っておこうということで 夜の営みに励んでいた矢先であった。
突然、玄関のドアがノックされた。
「……治郎さん、開けないで」
思わず手が止まる。扉一枚を挟んだ妻の声は、まるで冷たい水を浴びせられたかのように低く、かすれていた。
「翔子? どうしたんだよ、何があった?」
「私じゃないの……今の私は、私じゃない。……お願い、そこから離れて」
パニックになりかけながらも、治郎は必死に頭を回転させた。ドアのスコープをもう一度覗き込む。そこに立つ翔子の首元には、小さな赤い痣のような痕があった。
(霊的に頑張ろうとしていた? 待てよ――)
治郎はふと思い出した。先ほど翔子が出ていく直前、二人が交わしていた会話と、テーブルの上に残されたスマホの画面を。翔子は「コンビニ」と言ったが、財布すら持たずに出て行ったのだ。
「翔子……お前、最初からコンビニなんて行くつもりなかっただろ。さっき電話してきた『あの男』のところへ行ったな?」
ドアの向こうで、息をのむ音がした。
「……気づいていたの?」
「ああ。だが、お前が怯えているのはその男じゃない。お前が連れて帰ってきたのは――僕たちの『まだ生まれていない子供』の霊だろ」
沈黙が落ちた。ドアノブがガチャリと音を立てて回る。
「正解よ、治郎さん」
開いたドアの先に立っていたのは、翔子ではなかった。翔子の体を乗っ取った『何か』が、歪んだ笑みを浮かべてこちらを見つめていた。
「でも、一つだけ間違えているわ。私を呼び寄せたのは翔子じゃない。……あなたが毎晩、心の中で望んでいたからよ」
【了】
ご愛読いただき、誠にありがとうございました!
日常が静かに侵食されていく恐怖と、人間の底知れない業を描いた本作、いかがでしたでしょうか。
ドアの向こうの不穏な気配や、徐々に明かされていく真相——執筆中も「自分ならどうするか」とゾクゾクしながら筆を進めておりました。読者の皆様にも、少しでも冷や汗をかくような緊張感をお届けできていれば幸いです。
最後になりますが、作品を見つけて最後までお付き合いくださった読者の皆様に、心より感謝申し上げます。
また次の物語でお会いしましょう




