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第一話

 前略 お兄ちゃんへ


私は先週、魔法学校を卒業しました。


今日朝一番に届いた手紙。その手紙はこんな風に始まった。


「そっか、もう六年たったのか」


俺はめんどくさがりの妹が送ってきた久々の手紙にいろんな思いをはせながら、続きを目で追った。


何ヶ月ぶりだろう。


魔法学校を卒業したので、これから一年以内に魔法薬の薬剤師になるか新しい魔術を開発する魔術師になるか決めない

といけません。パンダに白黒はっきり決めろと言っているようなものです。それをはっきり決めたお兄ちゃんはすごいと思います。


絶対になにかが違うと思った。パンダに白黒はっきり決めさせたらただの熊になってしまうような気がする。それに、俺も魔術師として決めて生きてはいるけど、実際にはっきりとした区別はあって無いようなものだ。


絶対なにかが違うと思っているお兄ちゃん。そりゃそうですよね。


・・・・・・見事に読まれてた。なんでだろう?


そんなすごいお兄ちゃんを私は尊敬するので、私は来週から居候させてもらいます。


・・・・・・・・・・・・。

ちょっと待て。いきなりか。


魔法学校から家に手紙が届くまで一週間。家まで来るのも一週間。


なにか因縁めいたものと嫌な予感を同時に感じる・・・・・・。


家のインターホンがなり軽快な音楽が流れる。俺は恐る恐る玄関の扉を開く。


「ちわーす。郵便でーす」


......流石に世の中そこまでドラマチックには出来ていないみたいだ。


俺は受け取りのサインを押し、荷物を受け取る。


「あざーしたー」


妙に態度の軽い郵便屋さんが帰ったあと、俺は荷物を家の中へと運ぼうとした、が。


「お兄ちゃん」


さっきまで郵便屋さんが居たところによーく見覚えのあるちっさい女の子が一人。


「お久しぶりー。今日からお世話になりまーす♪」


よく通る明るいが静かな森にこだました。


それは俺にとって騒がしい日常の始まりだった。



「ん......」


ガラガらがっしゃーん


俺の朝は容赦の無い破壊音による騒音で強制的に目が覚める。


何だいきなり・・・・・・。


そういえばそうだった。昨日から妹が居候をしていたんだっけ。しかしうるさい。迷惑極まりない。あいつは何をしているんだ?


俺は寝起きでまだだるい体に鞭を打ち、叫ぶ。


「おーい。マキナ。うるさいぞ」


「あ、おっはよーお兄ちゃん」


俺の声に気付くと、マキナは一体何を考えたか俺の部屋の扉を開け、いきなり俺の胸に飛びついてきた。


マキナの長くのばした薄い茶色の髪が俺の顔へかかる。それ以上に女性としてロクに発達もしていない胸を当ててくるが、肋骨が当たって痛い上に、むなしい。


「わっ、バカ、何してんだ」


「二十二になってもまだ独身のお兄ちゃんに女の子の良さを教えてあげようと思って」


マキナは無い胸を少しでも強調しようと俺の顔面に押し付ける。


無駄なのに。


「や、やめろって」


「二年ぶりなんだし、お兄ちゃんが前までちっちゃいって言ってたマキナのがどれくらい大きくなったか見てもらわなきゃ。もうバカになんてさせないから」


「今だって無いだろ。バカ。っていうかお前には思春期ってものが無いのか」


俺にもあったよ。黒歴史・・・・・・思春期が。


「お兄ちゃんならいいの。思春期なんてすっ飛ばした」


大変なことになる前に性格を矯正したほうがいいかもしれない。そのうちに冗談で済まなくなる気がする。


「冗談で済まさなくってもマキナはうれしいよ♪」


・・・・・・今はゆっくり寝たい。落ちてくる瞼を必死で吊り上げながらもとりあえず破壊音をやめてもらうために行

動をはじめる。


「で、お前はなんで朝からこんなにうるさいんだ」


「えへへ、高い所にある魔法薬の材料をとろうとしたら、失敗しちゃった」


はあ、初日からこれか。これから先が思いやられる。


「それはいいとして、この匂いはなんだ」


さっきから鼻についていた刺激臭。


「......さあ、しらないよ」


マキナはあからさまに目を逸らしている。


「マキナ、何か隠してないか」


マキナのそらした目線に無理矢理合わせて、問い詰める。


「ぎくっ、な、なにも隠してないよ」


「ご丁寧に擬音語まで用意して否定するやつを信じられるかっ」


「だから何も隠してないって!」


よく見るとマキナは左手を後ろにやって俺から見えないようにしている。どう見たってあからさまに怪しい。


「なあマキナ、腕相撲やらないか。お前が両手、俺はもちろん左手だ。勝ったらケーキを買ってやるよ」


「えっ、いいの、本当?」


そう言ってマキナは両手を思いっきり開き俺の手に飛びつく。


釣れたな。


……ころんっ

 

「あっ」


謎の玉の近くに薄紫の煙が立ち上っている。煙の近くは輪をかけて臭い。


「なんだこれ」


「えっと、お兄ちゃんの魔法薬の材料で、カメムシのにおいを目に見えるようにする玉」


「なんでそんなものを」


「人払いの薬の材料に使うカメムシが逃げ出しちゃって」


「早く見つけろおぉぉ!」


そんな俺の背筋に鳥肌が立つ。もぞもぞと動く何かが目の前に。


話は変わるが、俺は虫が嫌いだ。


生理的に受け付けない。小さい虫ならまだマシだが、大きいのになるとときどき意識が飛ぶ。


カメムシのサイズも例外でない。


目の前が暗くなる。


「にゃーーっ、お兄ちゃん大丈夫?」


追伸


俺はベッドの角に頭をぶつけて全治一週間となりました。


「トーマさん、トーマ・クライアスさん」


窓口で支払いを済ませると、俺は荷物を持って病院を出た。


一週間前に気絶したときの怪我がやっと治った。


だから仕方なくこうして病院のお世話になっているわけ。


「はぁ」


なんとなく気が重い。昔から病院は苦手だ。


「おにいちゃーん」


マキナが退院したばかりの俺の胸に飛び込んでくる。


「こらこら。あんまりくっつくな」


「えへへ、いいじゃん。マキナ、お兄ちゃん大好きだもん」


・・・・・・重症だな。ちょうどよく目の前が病院だ。


「いいか、おまえはそんなんでも女の子なんだからな。学校ではそういうこと気にしなかったのか?男子だっていただ

ろ」


「いたけど、そんなこと気にしてられなかったよ」


そういえばそうだった。魔法学校も過疎化が進んでいて、授業も基本的に男女合同だった。


個人的に嫌な思いでもある。


例えば、武装解除の授業。相手の武装だけじゃなくて、服やアクセサリーとか、まあ色々と吹き飛ばされる。


単純に言うと、授業自体が凄惨な脱がし合いになる。


そして当然この授業も男女合同。毎回悲鳴が教室に響いた。主に女子。


俺は色々あってトラウマになっている。何が起きたか、ご想像におまかせ。


結果だけ言います。というか、人に言えるのは、授業のせいで初恋の女の子にフラれたことくらい・・・・・・。


「残念だったねー。おにーいちゃん♪」


「妙にうれしそうだな・・・・・・」


マキナはどうだったんだろう。そのうち聞きたいな。


「おーい、マキナーっ」


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