7:震撼……強いショックで震え動くこと
「雑魚がぁッ。調子に乗るな」
大剣を構えた男が、床を蹴る音と共に突っ込んでくる。
Cランク相応の速度と、体重を乗せた一撃。まともに食らえば一般人なら両断だろう。
周囲の冒険者が、あーあと顔を背ける。だがゼルは動かない。剣が振り下ろされるその瞬間まで、ポケットに手を入れたまま、目をつぶっていた。
「遅い」
男の大剣が、ゼルの頭蓋を割る軌道で振り下ろされた。剣はゼルの頭に触れる寸前、空中の紫の穴に吸い込まれた。
「あ?」
男が間抜けな声を上げた瞬間。
「ヒッ!?」
男の動きが凍りついた。大剣の刃先が、男自身の背後の空間から飛び出した。男の首筋にピタリと押し当てられ、血が出てくる。
「な、なんだこれ」
「どうした? 続けろよ」
ゼルは涼しい顔だった。
「移動魔法の応用だ。お前の剣のベクトルを、そのままお前の首へ繋げた」
「何だよ。聞いたことねえよそんなの」
男はパニックになり、剣を引き抜こうとする。
ゼルはパチン、と指を鳴らした。
硬質な金属音が響き渡る。空間の門が閉じた瞬間、ゼルから斬撃が発射される。鋼鉄製の大剣が真っ二つに切断された。男が尻餅をつき、そ床には刃先がカランカランと音を立てて転がった。
静まり返る。誰も言葉を発せない。
「ま、魔剣グレイブが……金貨10枚が……」
男は腰を抜かし、折れた剣を見て涙目になっている。
ゼルは呆れたように肩をすくめ、試験官の方へと歩き出した。試験官は口をポカンと開けたまま、ペンを取り落としている。
「おい、試験官」
「は、はいッ!?」
「こういう時、次からはしっかり止めろよ」
先ほどまで嘲笑していた冒険者たちが、一斉に視線を逸らして縮こまった。移動魔法使い? 逃げ専門? 誰もが理解した。
こいつは化物だと。
「は、はい」
試験官が裏返った声で叫ぶ。
「ランクは?」
「え、えっと、規定によりFからのスタートになりますが、ギルド長の判断次第ではすぐに昇格も……」
「Fでいい。目立つのは得意じゃない」
「流石です、主! あの剣をいとも簡単に!」
「いや、精度がだめだ。……やはり肆虐態じゃないと門がバグる」
肆虐態だと、全身に門を貼っているため、簡単に門の取り外しが可能。体に引っ付いている門を剥がして、"門を出す"という行為を省き、正確な位置の狂いがなくなる。
ギルドカードを受け取り、外に出ようとするゼルとバラルガ。
「おい、あいつ何者だ?」
「名前、ゼルって言ったか」
「聞いたことねぇな」
しかしギルドの喧騒を背に歩き出した彼らの背後から、軽やかだが芯の通った足音が近づいてきた。
「ちょっと、そこのアンタ」
凛とした声にゼルが足を止めると、そこには一人の少女が立っていた。 短めの黒髪、意志の強そうな瞳。冷ややかな視線をゼルに向けている。
「何の用だ。さっきの仲間か?」
少女は鼻で笑った。
「あんなCランクと一緒にしないで。私はこれでも最年少でBランクまで上がったのよ」
彼女の名は、この街で天才と謳われる冒険者、リナ・フォルトーゼ。 若くして上位ランカーに名を連ねる彼女は、先ほどの修練場での一部始終を影から見ていた。
「ていうか、テレポートは本来、移動するだけの非実体。それを物体に? しかも物質を断裂させるほどの精度で操る?」
リナはゼルに詰め寄った。その瞳が、鋭くゼルの顔を覗き込む。
「あんた、ただの人間じゃないわね? もしかして、魔王の部下なんじゃないの?」
「魔王の部下、か」
ゼルは思わず自嘲気味に口角を上げた。
部下どころか本人なのだがな……。その実力だと思われてるとは。
「笑い事じゃないわ。最近、この付近で不自然な魔力の乱れがあるの。ちょうどそこに現れた、得体の知れない『移動魔法』の使い手。疑うには十分すぎる材料よ」
リナは腰に下げた魔導短剣にそっと手をかけ、警戒を強めている。
「他人の素性を決めつけるのは、若さゆえの欠点か? Bランク小娘」
「……っ! 次に怪しい動きを見せたら、ギルドに報告して徹底的に洗わせてもらうから。覚えておいて」
リナは雑踏の中へと消えていった。
「主。あなたを相当疑っているようですが、立ち振る舞いからして、今後強くなりそうですよ。今のうちに消しておくのが良いかと」
「放っておけ。今はあんな小娘に構っている暇はない」
しかし、ゼルは知らなかった。魔力の乱れ。現魔王がこの街に接近していることに。
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