40:冷血……体温が外界の温度なみに低いこと
次の瞬間。フィールドの上空から、空気を裂く音が聞こえた。冷気が渦を巻き、空間の一点に凝縮していく。
エタが目を細めた。
「これは」
空を見上げる。
氷柱。ではない。より精密な――
巨大な氷の槍だった。
一本ではない。六本。氷のフィールドの上空に、円を描くように浮かぶ六つの巨大な槍。先端は鋭く研ぎ澄まされ、青白い光を放っている。
空気が凍っていく。皮膚が赤く傷められている。
時間もかけられそうにない。
リナが小さく呟いた。
「六つの氷槍」
――六花。
「六花の氷柱」
六本の氷槍が、同時に唸った。空気を引き裂き、氷槍が落ちる。エタの体が横へ弾けた。
思考が読めない!
氷槍が地面に突き刺さる。氷の床が爆ぜて、衝撃波が走る。氷の破片が嵐のように舞い上がった。
エタは滑りながら後退する。その軽快な足取りは、氷のフィールドが展開される時よりも慣れていた。
「逃がさない」
氷槍が連続して落下する。衝撃が連鎖するようにエタへと落ちていく。氷槍が落ちてくるたび、エタは後退しながら避けていく。
氷の床が割れ、白い煙が立ち上る。
短剣を振るい、氷槍の先端を弾き、軌道をずらす。
「……!」
だが短剣でも弾ききれなかった最後の一本が肩をかすめた。
氷が肉を裂き血が飛んだ。その血は空中で凍りつく。
エタは笑った。
「はは!」
氷煙の中で立ち上がる。
「素晴らしい」
「これで終わりじゃない。エタ!」
指でパチンと鳴らした。
しまっ――
地面に突き刺さった氷槍から、更に細かな鋭い槍がいくつも放出された。
避けられるか。いや、これはまずい――!
「だが」
エタは短剣を逆手に握り直す。
「まだ足りない」
二本の短剣はエタへ向かう数百本の槍を弾き飛ばした。
リナは目を見開く。
「リナは私のことを見くびり過ぎだよ。数だけの攻撃なんて避けられる。重さも速さもない――」
その瞬間。
リナの目が変わった。冷気とは違う。
もう一つの力。
空間が軋む。ゼルの目が細くなった。フィールドの外で。彼だけが気づきそうになっていた。魔力の10倍の放出量に。
「……まさか」
リナの唇がわずかに動く。
「白壊」
世界が、一瞬静止した。
氷槍がまたもや上空から落ちる。だが六本だった氷槍は、もはや数えられない。
40。
50。
まだ増えている。
軽く見積もって50本、それ以上……。
ゼルは眉間にシワを寄せた。見たことがある技、1500年の確かに覚えていたはずの記憶に靄がかかっている。
エタの瞳が揺れる。
「なぜ、その数はあの時でも――六本以上出せるのか?」
リナは答えない。
ただリナは腕を空から振るう。白い亀裂が空間に走る。
エタの思跡魔法が動く。思考を読み、その先にある意識に彼は呼吸を忘れた。
あの女と同じ意識にあるのか――
白壊。
エタの脳裏に一人の女が浮かぶ。あの勇者一行の女、エリア。
エタは震えながら「どうして」と問う。リナの目は妙に冷たい。
「その名前を」
氷のフィールドの外。ゼルは小さく息を吐いた。
「思い出した……魔力出力を10倍に引き上げる技、白壊。魔法を放出する時に必要な出口の意識の穴を、意識的に広げるもの」
視線をリナへ向ける。60本の氷槍が、静かに降り注ごうとしていた。
「白壊・六花の氷柱」
白い冷気が再び集まる。
その目をやめろ!
リナの目には希望も野望も何も写っていない。
お前はゼルじゃない。だからそんな目をするな。
彼女の目は戦場に立ったゼルのそれだった。
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