表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/50

32:芥蔕……胸の奥にあるわだかまり

 「ぁ゙あ、あぁ!」

汚い悲鳴が時計塔の中で響き渡っている。針が動く音でその声は外ではかき消される。


「……だから言ったでしょう。使いすぎよ」


白い衣を纏った女が、額に汗を滲ませながら呟いた。

その下の石床に倒れ、のたうち回っているのは——レイドだった。


両手で頭を掻きむしり、目は見開かれ、焦点が合っていない。


「っ……うっるさい……!」

彼の脳内では、膨大な思考が暴れ回っていた。ありとあらゆる思考の処理。思考は聞こえずノイズも聞こえないのに、淡々と脳が焼き切れるような痛み。


それが休みなく、絶え間なく流れ込んでくる。


エタの魔法の肩代わり。


正確には——エタが扱うはずだった思考負荷。


「代償がないわけ、ないでしょう……!」

女は歯を食いしばる。


彼女の両手は発光している。回復魔法が休みなくレイドへ注がれていた。裂けた毛細血管が修復され、焼き切れかけた神経が繋がり直される。だが次の瞬間には、再び負荷で軋み、壊れる。


治す。壊れる。

その繰り返しに時間の概念はないように感じた。

ただ、削れていくものだけが確かだった。


「ぐぁあああああ!」

レイドの身体が何度も跳ね上がる。王都全員の思考を高速で展開しているエタの魔法は、レイドの脳裏に焼き付いて消える前に次の展開が重なる。誰の声でもない静かな声が、処理だけを耳に押し付けてくる。感情の入る隙間がない。


それを彼は受け止め続けている。


エタの代わりに。


「あんた、本当に……」

女の声は震えていた。


魔法は等価だ。強い魔力ほど反動は大きい。

デメリットの分だけ、術者を削る。

それがこの世界の理だった。


脳を焼き切り人格を削る。感情を摩耗させる。


だからこそ、エタは壊れなかった。代わりに壊れている者がいるから。


「助手なんて……軽く言ってくれるわよね」


白衣の裾が血で濡れている。回復魔法は万能ではない。生命力を削る。精神を削る。魔力を削る。だが女は止めない。


止めれば——レイドの脳は焼き切れる。


「っ……エタは……まだ」

レイドが掠れた声で呟く。

「あいつは、まだ……終わってない……」


その瞬間、思跡魔法の意識のゆらぎを感じ女の手が止まる。


「……来た」

震えたのは恐怖ではなく確信だった。レイドの絶叫が一段と大きくなる。


「や、めろ……! 増やすな……!」

脳内に流れ込む演算の量が倍増する。


「無理よ……これ以上は……!」

女の回復の光が強まる。だが彼女の視界が揺らぐ。鼻から血が滴り落ちる。それでも、止めない。


「エタは死なない」

静かに、言い切る。


「だって、あんたが壊れてないもの」


レイドの身体がびくりと震える。

壊れていないのではない。壊れるたびに、戻されている。

女によって。無限に。回復と破壊の連鎖。


循環の中で、レイドは歯を食いしばる。

「……あいつは……俺より……ずっと……」

言葉にならない。脳内の痛みが全てを掻き消す。


 レイドは理解し始めてる。傲慢で怠惰で才能に恵まれた自分より、魔法を使うたびにこんな苦痛が襲ってくるエタの力が……可哀相だって。


 だから耐えられる。私は、あんなに嫌いだったレイドのことが、今では信じられないくらい肯定できるようになった。それは本当にすごいことなのよ。レイドは……


何度目か分からない回復の光を重ねながら、エリアは唇を噛んだ。それでも口から零れたのは罵倒だった。

「……あんた、本当に馬鹿ね」

涙が零れた。


だが回復の光は弱まらない。やがて魔力の質が、変質した。痛覚が空中へ逃げるように。

レイドの絶叫が、止まった。


「……え?」


彼の鼓動は安定していく。脳内の情報処理が静まり始める。

冷たく、澄んだ、一本の思考が何本もの帯となって強固になっていく。


女——エリアの背筋が凍った。

「……終わった?」


そこは塔の前。

エタが失神していた。


血に濡れ、胸に大きな傷がある状態で。

下の☆☆☆☆☆から評価をお願いします! 面白いと感じたなら5つ、つまらなかったな〜と思ったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です! ブックマークもしていただけると、めっちゃうれしいです!


よろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ