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ゼルの掌握  ~魔王はまだ死ねない~  作者: Hulanes
第二章:鬼哭・啾々
30/52

30:蓋然……おそらくそうなるであろうこと

 毒はまだ抜けていない。魔力の流れがどんどんと遅延する感覚。


 ――致命的だ。

 相手が思跡魔法の使い手でなければ。


「あなたは、考えないことで思考を超えた。理に反する選択ですよ」


「王はな」

ゼルは口元の血を拭った。


「理の外に立つものだ」


 父は言っていた。『読まれるな。王は、策略を読まれた瞬間に負けるのだ』


エタは一歩踏み出す。“来る”と分かった瞬間には、すでに短剣はゼルの喉元にある。


キィン。


金属音が鳴り響いた。ゼルは聖剣で受けた。だが反応が僅かに遅い。


 最後のテレポート。聖剣は大きくて転移させづらいな――


エタは後退せず、逆手の二本目を腹部へ滑らせる。


浅い。だが確実。刃に塗られた毒が、さらに体内へと流れ込む。


「あなたは強い。ですが、持久戦は不利ですよ」

エタは靴についた土を払いながら、淡々と言う。


「思考の乱れ、毒の進行、意識の消耗」


ゼルの姿が消える。


「あなたはもうじき、死ぬでしょう」


 右後方。


 違う。


 上。


 違う。


 地面。


 違う。


 また、完全ランダム。


空間に“門”が開閉し、残像が幾重にも重なった。


 狙いがない。


 いや、違う。


 規則があるはずだ。


 奴の脳内は必ず最善を選ぶ。


 ならば、最善を読めばいい。


ゼルは現れた。意識が遠のき瞳が焦点を失う。


 真横。


 拳。


エタは半歩ずらす。だが拳ではなく、聖剣が門を通り別角度から胸を掠めた。


「……」

エタは静かに距離を取った。


「なぜ、そこまでして勝ちたいのですか」

目を細めて首をかしげた。唇に手を当てて問う。


 ゼルは答えない。意識は途切れかけている。足が震え、起きているだけでも不安定な状態。


もはや言葉を紡ぐ余力すらない。


だが、脳裏に浮かぶ。近代兵器と声。


心臓を貫かれた瞬間の、あの“退屈そうな目”が魔王の心にフラッシュバックした。

屈辱だった。

1500年が、無機質な再生数へと換算された。


ゼルは意識をしっかり取り戻し、大きく瞳孔を開き半歩ズシリと踏み出した。


「……俺はな」

ゼルの魔力が左手に集中していき、血を吐きながら笑う。


「理解されるために生きてきたわけじゃない。理解されなくていい。永遠に立てば、それでいい」

空間が歪みはじめる。エタの視線が鋭く走る。


門が増殖していき、一帯がゼルの魔法圏内へと変わっていく。


 エタは思跡魔法へ魔力を込めた。込めるほど繊細に相手の深い思考を読み取れ、景色さえも浮かんでくる。


 未来予測。


 可能性分岐。


 選択枝の収束。


 さあ、何を考えている――


『お父さん! ねえ見て! 今日は40cmくらいテレポートできた』

『お父さんお父さん! どうやったらお父さんみたいに強くなれる?』

『父上。なぜ私たちは20歳で成長が止まるのですか』

『父上……あなたは俺の――』


 は?


情景が強制的に流れ込む。

幼い声、笑い、泣き、叫ぶ。

小さな手がエタの指を握る。


 ――違う。


 これは戦闘思考ではない。


エタの呼吸が初めて乱れた。


「……やめろ!」

本能的な拒絶だった。

思跡魔法が崩れていく。


 こいつは、戦いのことなど微塵も考えていない。


 最善を選ばない。


 こいつは瞬間の衝動だけで動いている!


それでも、ゼルは踏み出した。


脳内に再びゼルの思考が響いた。

 『――他人の思考に、勝手に踏み込むな』


真正面。


聖剣を構えたまま地面を踏みこんだ。


合理的ではない。


 まずい!

エタに一瞬の隙が生まれる。


短剣と聖剣が激突する。

火花と衝撃。


エタの膝が僅かに沈む。ゼルもまた、毒が回り、体が横へと崩れ落ちる。

「愚かです」


「王はな」

ゼルは皮肉の笑顔を見せつける。


「愚かでいい」


倒れたゼルはエタの足を手で掴む。エタは短剣を手に取りゼルへと投げる。


短剣が、背中へ深く突き刺さる。

 「あ……ぐ……」


ゼルの手が離れ、エタは後退。追撃はしない。ゼルは背中に刺さった短剣を抜き、その場でもがいた。


「あなたは」

エタが呟く。


「あなたは――本当によくわからない人ですね」


 理の外。


 思考の外。


「……なるほど」


 ようやく理解した。未来を読ませないのではない。未来を決めないのだ。


「あなたは、選ばないのですね」


「その時の自分を」

その唇は、わずかに上がっていた。路地裏へと歩き出す。


「次は彼を使ってリナを説得し――」

エタが去ろうとした直後。

背後の空間が、わずかに波打った。


――開門。


エタの左胸に後ろから聖剣が突き刺される。


胸に、冷たい感触。


遅れて、痛み。


「……そうか」


「最後まで……読めなかった」

吐血をし、剣が引き抜かれた胸を抑える。膝から崩れ落ちた。


 なぜ――思考は、完全に途絶えていたはずだ……。


仰向けに倒れたまま、ゼルは空を見た。

月が滲む。


「……読まれなかっただろう」

それだけを呟き、意識を手放した。

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