23:傀儡……他人の言いなりになって動く者
「はぁはぁ」
森の中を颯爽と駆けていく一人。
「どうして俺がァ!」
怒鳴り声が森に響き渡った。
「追放されなきゃ、ならねえんだよ!」
勇者レイド。自分が大切な坊ちゃま系勇者。くそッと言葉を吐き捨てながら森を駆け抜ける。
「俺は英雄でなきゃいけない」
なのに……。レイドは立ち止まる。そこはもう王都から近くない。東に進んだところ。
ああ……そうだ。
「あいつだ。あいつが悪い! リナ・フォルトーぜ。それの横の男! あいつも俺の勇姿をすべてかっさらっていきやがった!」
レイドは地面へひれ伏し、怒りの限り腕を地面に叩きつけた。聖剣もない、地位もない。
「俺は……、俺は……」
自分が可哀想で仕方がないから、レイドは涙を浮かべた。ポタポタと雫が垂れる。
どうしようもない。そう諦めた時だった。
「助けて上げましょうか? レイドさん」
紳士的な声。レイドは顔を上げた。
「誰だ? お前」
そこには怪しげな猫の仮面を被った男がいた。男はエタ・イリヒと名乗る。
「話題になってましたね? 元勇者」
「黙れ。これも全部、あいつのせいだ!」
「あいつとは……あの正体不明の御方ですね。少女リナを救い、レイドさんでも敵わなかった燼の魔物を倒してしまう」
目元は仮面で見えないものの、口元は不気味な表情を浮かべていた。
「……それで、なんの用だ? 見ての通り、俺は一文無し。地位も何もすべてなくなった」
「先走りしないでください。私はあなたを狙っているわけではございません。ただ助け舟を出そうと思った者です」
「助け舟? そんなものいらない」
イリヒはふと笑い、「あなたには何もありませんでしょう。今後の希望も生き方も」と言い出した。レイドの怒りは爆発した。
レイドの怒声が森に響く。
「お前は何様だ! なんなんださっきから、人の不幸の上にノコノコと!」
猫の仮面の男は、怒りを受けても一切動じない。
ただ、ゆっくりと拍手をした。
「素晴らしいです」
「……は?」
「その激情。その自己肯定。その被害者意識。実に勇者らしいですね」
レイドの額に青筋が浮く。
「殺すぞ」
「今のあなたに出来ますか?」
静かな一言。レイドは言葉を詰まらせた。
聖剣はない。魔力も底を尽きかけている。魔道具すらない。王都からの支援も。
丸腰だ。
男は一歩近づく。
「あなたは奪われた。称号も、民衆の歓声も、未来も、取り返したくはありませんか?」
レイドの瞳が揺れる。
「……できるのか」
「ええ。"理"によって」
「理、だと?」
「魔法とは何か。レイドさんは理解しているでしょう?」
リヒトは首を傾げた。そして続ける。「魔法とは“契約”です。術者は代償を払う。負荷を受ける。だから長時間の発動は不可能。永続は不可能。……それが理」
「当たり前だ。肩代わりのことだろう?」
「では」
リヒトは微笑む。
「もし、その負荷を肩代わりする存在がいたら?」
レイドは目を細めた。
「誰だ?」
「それは」
男は静かに、手を差し出し「あなたです」と言い放つ。
「は?」
「私の詠唱。その代償を引き受ける。私は永続的に魔法を使い続けられる」
「なにを!」
レイドは叫ぶ。
「肩代わりの場合、本当の術者のデバフは指図した術者に返る! 命の保証はない。危険だ!」
「命の保証?」
リヒトはくすりと笑った。
「保証なんていちいち考えてられませんよ」
一歩、さらに距離を詰める。
「レイドさん。あなたが失ったものを取り戻すには、“常識”の外に出るしかない」
森が静まり返る。
「私の魔法は少し反動が大きい……ですが代わりに威力と使い道は最強クラスです……私の魔法なら彼らを一度で殺せる……」
「……どうすればいい」
レイドの声は、低かった。
リヒトは満足そうに頷いた。
「簡単です。私に向かって、こう言ってください」
風が木々を揺らす。
「――“魔法を永続的に使い続けろ”」
レイドの背筋に悪寒が走る。
「永続的……それは本当に大丈夫か? 肩代わりの時間の考慮はされているのだな?」
「ええ大丈夫です。ほんの一瞬。彼らを暗殺しようとした時にだけ……効能があります」
レイドが、だがと言いかけたところでリヒトは遮る。
「本当に……大丈夫です。あなたは勇者。世界が選んだ器。一瞬の効能のうちだけ、私のデバフの肩代わりなんて容易いはずです」
レイドは歯を食いしばる。
「俺を利用する気だろ」
「互いに、です」
リヒトは肩をすくめた。
レイドは葛藤していた。そして、思い出す。あの時の映像を。
リナの横に立つ、あの男。
自分の居場所を奪った存在。
笑う群衆。
追放の宣告。
屈辱。
「……あいつらを」
拳を握る。
「叩き潰せるんなら」
リヒトの口元が、ゆっくりと吊り上がる。
「……リヒト」
喉が乾いていてカラカラしていた。だが、レイドは言った。
「魔法を、永続的に使い続けろ」
その瞬間、レイドの脳内に入る膨大な負荷。
「ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あッ!」
「成功ですよ、レイドさん」
リヒトの声は静かだった。
「契約成立」
「ぁ゙ぁ゙ぁ゙!」レイドの頭に、破裂しそうなほどの痛みが襲う。
「言いましたよね?」
仮面の奥から、くぐもった笑いが漏れる。
「代償は、あなたが払うと」
レイドは息を荒げながら立ち上がり、リヒトに殴りかかろうとした。
「おっと、危ない……」
「どうぞたくさん、踊ってくださいレイドさん」
「あなたは、とても良い駒だ」
森の奥で、何かが目を開く。歯車が、静かに噛み合い始めた。
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