18:詭弁……こじつけの議論。ごまかし
リナが案内されたのは、王都の一等地にある貴族の屋敷だった。豪華なシャンデリアの下、リナは泥だらけの服のまま、ふかふかの絨毯の上に立っていた。その対面には豪勢なソファに腰掛けた三人の男女。
「おいおい、冗談だろ? こんな汚いガキが『強力な魔法使い』だと?」
呆れた声を上げたのは、全身を重厚なプレートメイルで固めたガンツだった。勇者パーティの盾役だ。その隣で、聖職者の衣をまとった金髪の女性、エリアも眉をひそめた。
「レイド様、人を間違えたのではないでしょうか」
だが、中央に座る男だけは違った。金色の髪に腰には伝説の聖剣『アスカロン』を差している勇者レイド。彼は興味深そうにリナを観察していた。
「……黙れ、お前たち」
天才と称されるリナを勇者パーティーに誘えば、あの敗北は仲間のせいだったのだと民衆に誤解されずに済む。
「どうして私が、こんな連中と――」
リナは壁にもたれかかると、掌に力が込められていくのを感じた。
声に出さずとも胸の内がざわつく。
「――これでわかったかしら?」
リナは片手を前に突き出した。冷気が指先から噴き出し、屋敷の室温がみるみる低下する。
パリン、と果物の入った皿が割れる音が響き、床の大理石に細かい氷片が光った。
ガンツとエリアの喉元に凍てついた氷の刃が迫り、凍傷の刃先が睨みつける。
「ひ、ひッ…!?」
二人が青ざめる中、リナは冷たい笑みを浮かべた。
「実力が見たいなら見せてやる。……その代わり次私をガキ扱いしたら、次はその体ごと凍らせるわよ」
シン、と静まり返る室内。その沈黙を破ったのは拍手の音だった。
「すごい!」
レイドが立ち上がり、リナの手を取った。その瞳は希望に満ちているかのように――あるいは、希少な宝石を見つけた子供のように輝いていた。
「君こそが僕の求めていた魔法使いだ。リナ、歓迎するよ」
「え……ど、どうも」
これが勇者……。軽い男。でも、力はある。
握られた手から伝わる魔力量は、確かに常人離れしている。この人となら……。
「早速だが、明日頼みたい仕事がある」
レイドは地図を広げた。指差したのは洞窟。
「ターゲットは『アダマン・ガーディアン』。漆黒の超硬金属で構成された人型のゴーレムだ。階級は燼で、こいつは厄介で……ついこの間、俺たち勇者パーティーが討伐に失敗した魔物なんだ。調べたところ、非実体の魔法の魔法を二つ合わせ持っているらしい」
「非実体を二つ……?」
「通常、非実体系は他の魔法を持つことが出来ないだろ? こいつの場合、回復と非物理耐性」
リナは眉を寄せた。魔法の理論において、一つの個体が持つ非実体系プラス、他の魔法を持つことはあり得ない。だが現実にそれが出ている。
……ゼルならどうする?
ふと、思考がそこへ飛んだ。
あいつなら斬撃を飛ばして倒したりして……ッ、やめなさいよ私!
リナは頭を振った。
なんであいつのことばかり……。私は私のやり方で倒すのよ!
「お任せください、勇者様。私の氷で、その魔物を粉々にしてみせます」
***
一方、その頃。王都の下町にある安宿街。
「主よ、これはいけません」
「何がだ」
「この宿、ベッドから綿が飛び出しております! これでは主の安眠が妨げられてしまう!」
ゼルは窓枠に腰掛け、王都の夜景を見下ろしていた。この巨大都市で、リナ一人の気配を探すのは砂浜で特定の砂粒を探すに等しい。
「放っておけ。どうせ寝られる」
「しかし……。あ、そういえば情報屋によれば、リナ殿らしき人物が勇者の使いと接触したとの目撃情報が」
「……そうか」
ゼルは安酒の入った瓶を煽った。
「勇者の元へ行ったのなら、それで良いではありませんか。私どもの計画通り……」
「ああ、計画通りだ」
ゼルは短く答えた。
だがあの小娘は、強がりで、不器用で、そのくせ妙に潔癖なところがある。勇者レイド。奴の本性を知れば、あの硝子細工のような精神は耐えられるのか。
「……寝るぞ。明日は観光だ」
「は、はい……」
ゼルは布団に横になったが、その目はしばらく開かれたままだった。
***
翌日。
王都から北へ数キロ離れた地下深くに広がる『奈落・洞窟』。日の光すら届かない広場にて、その再戦は始まった。現れたのは、全高十メートルを超える人型のゴーレム――『アダマン・ガーディアン』
「来るぞ! ガンツ、前衛!」
「おおッ!」
ガンツが巨大な盾を構えた。
「変硬っ!」
ジンの鋭い爪が振り下ろされる。
ガギィィィィィィンッ!!
耳をつんざく金属音。ガンツの足が地面にめり込む。
「ぐッ、重ぇ……! だが、通さねぇぞ!」
ガンツの魔法:変硬。触れている物の硬さを変えられる魔法。この時ガンツは盾に変硬をかけていた。
「今だ! リナ!」
レイドの指示が飛ぶ。
「わかってる!」
リナが前に出る。短剣を突き出し、膨大な魔力を練り上げはじめた。
「私の氷からは逃げられない……『氷結』ッ!!」
リナの足元から氷の柱が突き出す。彼女は足場にして駆け上がり、空中へ飛び出す。
「『スノー・ピアース』」
鋭利な雪の針がガーディアンに突き刺さった。
「すごい……! あんなに硬かったのに刺さった!」
エリアが息を呑む。
「ははっ! 最高だリナ!」
レイドが興奮した声で叫び、聖剣アスカロンを抜いた。刀身がまばゆい光を放つ。
「とどめは僕がする! 『ストリング・スーパー・インペイルド』ッ!!」
光の刃が、ガーディアンに突き刺さろうとした。キイーンと金属に刃が当たった音。
「え……!?」
「非物理耐性か!」
その直後。
「ガアアアアアッ!」
咆哮と共に襲う圧倒的風圧。風圧に乗って洞窟の破片が飛来する。
「きゃああっ!」
「ぐおっ!?」
エリアとガンツが吹き飛ばされ、洞窟の端まで飛ばされた。リナは即座に氷の壁を展開し、風を防いだが、その表情は焦りに染まっていた。
非物理無効……聖剣アスカロンが効かない! だったら!
「『六花の氷柱』ッ!!」
リナの周囲の上空に六つの氷柱が出現する。彼女の指先の動きに合わせて、それらは上空から落ちた。
ダダダダダンッ、無数の氷柱がガーディアンの体を貫く。確かに氷柱はガーディアンを切り裂いたはずだ。
「う、嘘……再生速度が速すぎる……!」
効いていないわけではない。再生が追いついているのだ。
リナは歯を食いしばった。
もっと……もっと強く! あいつの一撃みたいに、再生する暇も与えないくらい粉々にすれば!
「アアアアアアッ!!」
リナの髪が逆立つ。最大限の魔力放出。洞窟の気温が一気に下がり、岩が凍てつく。
「消えなさいッ! 『大氷棺』ッ!!」
それは、彼女が持てる最大の広範囲殲滅魔法。ガーディアンに冷気が降りかかり、カチカチと体が凍り始める。
ガーディアンの動きが止まる。活動が停止したかに見えた。
「はぁ……はぁ……」
リナが膝をつく。魔力の使いすぎで視界が霞む。
そうよ……最初から全部凍らせておけば……。
ドクン。
氷像の中から、不気味な鼓動が響いた。
「え……」
次の瞬間、表面に赤い亀裂が走る――内側から赤黒いオーラが噴出した。
二つ目の形態。氷を破って現れたのは、前までの重厚なガーディアンではなく、どす黒い筋肉と骨格が剥き出しになった異形だった。
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