玄武の加護(3)
俺は朱雀門を丸ごと水の盾で囲んだ。火矢、土人形などによる猛攻が続く中、それらすべてが城壁に届く前に阻まれることに敵だって違和感を覚えていることだろう。俺は城壁から敵に呼び掛ける準備を始めた。
『一目で儂の加護を受けていることが分かるようにしてやろう。』
玄武の一声で、俺の周囲に水が集まってきた。それらは玄い甲冑へと姿を変え、俺の全身を包んだ。
「ありがとうございます。」
俺は城門の上から敵兵の前に姿を現した。攻撃の手が止むことはなかったが、俺は気にせず声を張り上げた。
「侵略者諸君に告ぐ!俺は玄武様のご加護を受けし者で、イスルという。ヒョンヘの国王の甥である。今すぐ自国へ引き返すがよい。これは最後の警告である。不当な侵略を続けようというのであれば、一兵たりとも故国の地を踏ませない。」
敵兵がざわめいている。俺の方に刀が飛んできた。当然水の壁に阻まれる。
「臆病者の亀野郎が吠えてんじゃねえよ!加護を受けているなどとうそぶいても所詮は一人だろうが。この軍勢を一人で相手するとでも言うのか?」
喚いているのはそこそこ地位が高そうな若者だ。俺はスッと右手を上げた。
「黄泉の国にて確かめるがよい。」
俺が右手を下ろすと、目にも留まらない速さで一筋の水が放たれ、吸い込まれるように男の額を貫いた。男はその衝撃で落馬した。もう事切れていることだろう。あれは青龍の加護を受けた木師がいたとしても治せまい。まあ、現在そのような者はいないのだが。
「攻撃せよ!」
敵の猛攻が始まった。流石に定石を弁えていて、木師は植物を使って味方の強化、回復に専念し、火師は遠くから大量の火を投げ掛け、土師は土で作った人形や土礫などを大量に生み出し続け、金師は至近距離から武器で重い一撃を放ち、水師は盾で味方を護っている。
俺は一人で全ての攻撃を防いでいる。俺の身を護るだけなら楽だが、城壁を護り続けるのが大変だ。攻撃に転じるほどの余力がない。特に相性の悪い土師からの攻撃が痛い。長引かせるほど俺が不利になる。俺は両手を天に上げた。
「水よ、不浄を洗い清めたまえ。」
俺の頭上を見て、敵味方問わずざわめいている。既に敵の頭上いっぱいに広がっている水は、小さな湖くらいの量がある。
「土師と水師、壁を作れ!早く!」
凄まじい勢いで土や水の壁が組み上がり、兵士たちはその下に入ろうと駆け出した。俺は気にせず水を敵兵に降らせた。壁のなかった部分にいた兵士は身体を貫かれ、壁も長くは持たなかった。木師の回復や金師の応戦も虚しく、ものの四半刻で生きている人間はいなくなった。
「終わったようだな。」
俺が振り返ると、味方が怯えたように後ずさった。俺は拳を握り締め、味方に向かって語り掛けた。
「侵略者たちはいなくなった。この勝利は皆の奮闘と、玄武様のご加護のおかげだ。誇るがよい。俺たちには神のご加護がある。俺の目が黒いうちは、薄汚い侵略者どもは一歩たりともこの国に足を踏み入れることが叶わないだろう。ヒョンヘに栄光あれ!」
「ヒョンヘ、万歳!玄武様、万歳!イスル様、万歳!」
兵士たちの勝鬨が地を揺らす。俺は暫く彼らの声援に応えたのち、疲れ切ってその場を後にした。
「イスル殿下、国王陛下がお見えです。」




