麒麟との別れ(1)
それから五年の歳月が流れた。
そろそろ麒麟がテジに加護を授けるのも限界らしい。麒麟の加護が失われては、再び堤防が決壊する。俺はいくつか対策を講じていたが、自信がない。
「イスル兄上、麒麟様からお話があるそうです!」
テジは相変わらずかわいい。まだ六歳だからというだけでなく、利発で他人の心の機微がよく分かっている。それは麒麟のおかげなのかもしれないが。
『ボクはそろそろ地上から去る時が来た。その前に、王宮からこの国の人間に呼び掛けたい。キミと共に。』
「承知しました。陛下に許可を取ります。」
数週間後、俺とテジは王宮の上で人々を見下ろしていた。俺が生み出した、巨大な水の亀の背に立ちながら。
『さて、ボクが話す通りに話してくれるかな?』
「はい!」
テジの声は通りやすい。大きく息を吸って、高くて愛くるしい声を張り上げた。
「ボクは麒麟だ!この子を通じてキミたちに語り掛けている。ボクは近日中に、加護を授けられなくなるだろう。その前に話しがある。」
加護を授けられなくなるという言葉に、群衆がざわめいた。麒麟はそこで間を取った。ざわめきが鎮まったところで、再び話し始める。
「ボクがこれ以上加護を授けられないのは、堤防を維持することさえままならないほど弱っているからだ。はっきり言おう、あの大堤防はもう決壊寸前だ。何なら、五年前に決壊するところだったのを、イスル兄上とテジで止めた。」
そこまで言うのか。案の定、大きなざわめきが広がっている。
『覚悟を決めたのじゃな、麒麟。』
『そうだよ、玄武。ボクはもう誤魔化さない。』
「人間たちよ、心配しなくていい。ボクは天からこの国を守り続けよう。キミたちは地上で成すべきことを成してほしい。」
『続きはキミが言ってくれ。』
「はい。分かりました。」
俺は麒麟の言葉を待った。一向に指示が出ない。
「麒麟様?」
『キミが自分の言葉で、自分で調べて出した結論を言ってよ。』
急にとんでもないことを言う。俺は焦ったが、既に計画は練ってあった。




