サンの決断(2)
「サン、聞こえるか?」
『ずっと聞こえてるよ。聞こえるだけで何もできなかったけどね。私が死んでいることをこんなに歯がゆく思ったことはなかったよ。』
「結果的に誰も死ななかっただろうが。そう怒るなよ。」
気まずい沈黙が訪れた。
『…本気で言っているの?』
「悪かった。もうしない。」
これ以上説教されるのはごめんだ。俺は本題に移ることにした。
「それはそうと、黄の方がついにお生まれになったな。」
『うん。でも、お兄様、黄の方に魂を移すなんて駄目よ。黄の方に万が一のことがあってはいけないし、私のために誰か死ぬのはごめんだからね。』
サンならそう言うだろうと思った。
『念の為に言っておくが、あの赤子にサンの魂を移すこと自体は可能じゃぞ。すぐに別の者に赤子の魂を移すこともじゃ。魂の移し替えは高度な術じゃが、あれほど大きな力を使ったそなたならば容易かろう。』
『玄武様、お兄様の背中を押すような真似はおやめください。』
『サンを甦らせるために奮闘してきたイスルが不憫じゃろう。本懐を遂げるがよいぞ。』
俺は痛む身体を起こし、壁に手を付きながら外に向かった。強大な土の気を感じる方に。他人に見つかると面倒なので、水を操って兵士の気を逸らしながら進んでいく。サンの人形をしっかりと握り締めながら。
俺はナビの部屋の前で立ち止まった。大きく息を吐き、中に入る。
「イスル殿下、如何なさいました?」
侍女が話し掛けてきた。
「ナビ王妃、無礼をお許しください。俺とその子を二人きりにしていただけませんか?」
「どうして?」
「麒麟様とお話ししたいので。」
ナビは柳のような眉を吊り上げた。
「私がいてはいけないの?」
「申し訳ありません。王妃様にお聞かせするわけにはいかないのです。」
ナビは俺に赤子を差し出してきた。髪色はナビのような金色で、目は肉食獣のように黄色い。とてもかわいい。
「イスル殿下を信用してお預けしますわ。テジ(大地という意味)王子、貴方の従兄のイスル殿下よ。」
「確かにお預かりしました。」
「ええ。では、私は陛下のお見舞いに行ってきますね。」
ナビは侍女を引き連れて外に出て行った。俺は腕の中のテジを見つめる。命の危機など分かっていないのだろう、無邪気に笑っている。
『始めるか?』
「あ、そう…ですね。はい。」
『前にも言ったが、別にテジが死ぬわけではないぞ?サンの魂をテジに入れればテジがサンになるが、テジの魂を別の者に移せば、その者がテジになる。』
分かっている。最初はコンナムの身体にテジの魂を入れて、コンナムを殺してしまうつもりだった。しかし、今やコンナムを殺すのも気が引ける。というか、誰も代わりに殺したくなんてない。




