堤防の限界(3)
「早く…逃げて…。」
倒れ込みそうになった身体が何者かに受け止められた。若い神官だ。
「申し訳ありませんでした。どうかお休みください。後は我々が…。」
俺は弱々しく首を横に振った。神官の肩を借りると、海に向かって手を伸ばす。
「イスル殿下!このままではお身体が!」
もう助からないことくらい、自分でも分かる。胸に風穴が開いているのだ。それならば、下手に治療するより、少しでも長く水を押さえた方がよい。
「殿下のお手当てを!」
俺は楽な体勢を取らされ、傷の手当てをされた。抵抗する気力はなかった。水を操る意識はしているが、もう術は安定しない。起き上がって手をかざさないと駄目だ。俺が身体を起こそうとすると、俺を支えてくれた若者が泣いていた。
「私が刺してしまったんです。どうかお赦しください。玄武様、どうか玄の方をお守りください。」
ああ、これは駄目だ。麒麟が来るまで持てば、俺は死んでも良いと思っていたが、それでは彼らが救われない。俺はここで死ぬわけにはいかない。俺は苦痛を堪えて微笑むと、若者に手を伸ばして涙を拭った。
「では、一緒にこの国を…守ってくれるか?」
「はい!この命に代えましても!」
命には代えないでくれよと思ったが、話す余裕がない。深呼吸して、気を整える。龍の気配が消えていることに気が付いた。俺が限界で消してしまったのでなければ、カリが王宮に着いたのだろう。俺は堤防のみに集中することにした。
土師や神官は堤防を少しでも直したり、俺を治療したりすることに力を注ぎ始めた。若者を中心に、何人かは周辺に避難誘導をするために下山させたようだ。これほど手厚い援護があっても、徐々に地割れは広がっている。
「玄の方、もうこれ以上は…。逃げましょう。」
「逃げたい…者は…。」
俺は血を吐いた。荒い呼吸をしながら、術を維持することだけを考えることにした。
「イスル!どこにいる?」
頭上から叫び声がした。コンナムだ。応える力はもうない。
「陛下!どうしてここに?そのお姿は?」
「そこか!」
土でできた獣がコンナムと赤子を乗せて目の前に浮かんでいる。ああ、無事に産まれたのか。
「黄の方…。」
堤防が急速に安定してきた。よかった。俺の役目はもう終わった。
「しっかりしろ、イスル!死ぬな!」
コンナムはいつになく焦った表情で、俺の口に何か流し込むと、傷口に手を当ててきた。痛みが引いてくる。眠い。俺は重い瞼を閉じた。




