堤防の限界(2)
大変なことになった。俺は今、海水を止めつつ、龍を王宮に飛ばし、攻撃を水の盾で防いでいる。力の使い過ぎなんていうものじゃない。激しい頭痛と耳鳴りがして、鼻血だけでなく、視界も赤くなってきた。
『お兄様、一旦堤防を守るのは諦めて!お兄様は自分の身を守って、被害を減らすことに集中した方がいいよ。このままじゃ、麒麟様が到着する前にお兄様が死んじゃって、結局全員波に呑まれるから!カリを安全な場所に降ろして、身を守ることに集中して!』
サンの言い分はもっともだ。俺には全てを救う力はない。もう意識を保つのも精一杯だ。盾や龍と同時に波を押し戻すのはもう無理だと分かる。
『イスル、もうよい。流れてくる水の方向を操って、少しでも人が少ない方へ流すのじゃ。このままでは死ぬぞ!鼻血や血涙を止めることは、ごくわずかな力で可能じゃ。そなた自身の身体を流れる血は操りやすい。今なら間に合う。』
「どうしてですか、イスル様!国と民を守るべき王族ともあろうお方が、この国を水没させるなんて!」
誰かの声がした。彼らも必死にこの国を守ろうとしているのだ。彼らを見殺しにすれば、より簡単に大勢を救えるだろう。しかし…。
俺は意を決して目を閉じる。俺の身体の周りに出していた水の盾と身に纏っていた甲冑を消した。
『お兄様!』
『イスル、何をする!』
身体が貫かれ、土の塊で殴られる感覚がした。痛みのあまり集中が乱れ、波が勢いよく堤防にぶつかったことで、地面が大きく揺れた。俺は懸命に意識を飛ばさないように気を付けた。ここで死んだら意味がない。
「頼むから、今のうちに…逃げてくれ!」
俺は息も絶え絶えに叫んだ。攻撃の手がぴたりと止まった。
「ここまで無抵抗なのはおかしい。殿下が堤防を破壊して国民を皆殺しにするおつもりならば、私たちを皆殺しにすることなど容易いはずです。」
「その通りだ。とすると、もしや、玄の方の仰ることは本当なのでは?」
「そんなはずは…。確かに玄の方が堤防を破壊しようとしていると聞いたんだ。」
「誰からだ?」
「モレ(砂という意味)からですよ。あれ、モレはどこに?」
「我らを騙して逃げたんじゃないか?」
神官たちはざわめきだした。どうやらこれ以上の攻撃は受けずにすみそうだ。よかった。無理やり血を巡らせて延命するのも限界があるだろう。




