堤防の限界(1)
俺はヒョンヘの方角に水流を生み出した。俺が思い付く限り一番早く移動できる方法だが、今日中には着かないだろう。
『それでは間に合うまい。そなたが耐えられるぎりぎりまで力を貸そう。』
「可能な限りの力をお貸しください。俺が即死しない範囲で。」
『お兄様、無茶しないで。』
「今全力を尽くさないなら玄武様のご加護を授かった意味がない。頼みます、玄武様。」
玄武は何も言わなかったが、俺の全身に力が漲るのを感じた。全身の血が湧きたつようだ。身体には玄い甲冑を身に付けている。
俺は水で龍を作り出した。まるで生きているかのように俺に首を垂れている。俺は馬に跨るように飛び乗ると、カリに手を差し伸べた。
「カリ、乗れ。」
「はい。」
カリは俺の手を取ると、俺の後ろに跨った。それを確認すると、俺は龍をヒョンヘの方に飛び立たせた。あっという間に景色が遠ざかる。俺は悲鳴を上げそうになった。カリは驚異の体幹で微動だにしない。龍を操っているはずの俺さえどうなっているのか分からないままに龍は飛び続け、日没の前には堤防が薄っすら見えてきた。特に異常は見られない。
俺は堤防の上に降り立った。龍を消すと、鼻血が垂れてきた。堤防の辺りには、相変わらず土師や神官がいるばかりだ。間に合った。安堵する俺に、神官が槍を構えてきた。俺は驚いたが、いきなり空から龍に乗った人間が現れたら警戒するのも当然か。
「俺だ。イスルだ。堤防が狙われているという情報があったので、様子を見に…。」
俺が近付くと、彼らは益々警戒する様子を見せる。
「見え透いた嘘はおやめください、玄の方。」
「嘘、とは?」
「玄の方が堤防に描いた紋様は、堤防を破壊するためのものだということは調べがついているのです。玄の方には反逆罪の嫌疑が掛けられております。抵抗するようなら殺害もやむなしとの命です。」
俺は改めて辺りを見渡した。人々の顔には恐怖と憎しみの色が見て取れる。
「違う。それにはわけがあって…。」
「弁明は堤防の外でお伺いします。」
間諜の仕業か。俺を堤防から遠ざけようとして…。
不意に足元が大きく揺れた。
『もう堤防が持たぬ!海水が押し寄せるぞ。下を見よ!』
地面に亀裂が走っている。俺は血の気が引くのを感じた。考える間もなく、海に向かって手をかざし、押し止めようとする。すると、一斉に槍が向けられた。
「おやめください。やめないようであれば、攻撃します。」
「違う。俺は海水を止めようとしているだけだ。俺に攻撃する暇があったら、堤防を直すか避難するかどちらかにしろ。」
堤防を壊そうとしている疑惑のある俺が来た途端に堤防が崩壊しかけて、海に向けて力を使っている。確かにこれは俺が海を操って堤防を壊そうとしていると思っても無理はない。波を押し止めるのはかなりの力を使う。長くは持ちそうにない。誤解を解いている余裕はない。
『もはやそなたでは止められぬ。麒麟を呼ぶのじゃ。』
俺は龍を生み出した。人々の警戒がさらに強まる。
「カリ、大至急ナビ王妃の御子を連れて来い。」
「承知しました。」
カリは龍に乗った。龍に向かって槍が迫り、土師からは土の壁や礫が繰り出されるが、龍を壊すには至らない。俺は急いで龍を王宮に飛び立たせた。龍に逃げられたと分かると、人々は俺に敵意を向けてきた。
「全員攻撃せよ!殺しても構わん!」




