隣国への旅(5)
「お召し替えを。」
そう言えば商人の装いだった。国王に謁見するにはみすぼらしすぎるか。俺は用意された服に着替えさせられるのを待った。着物を着せられるときに、首筋に痛みを感じた。咄嗟に手で押さえて振り返ったが、強烈な眠気に襲われた。
「お前、金師か。」
「如何にも。陛下の安全のため、しばしお眠りください。」
油断しすぎた。まだ少しなら水を操れそうだが、カリを置いて逃げても仕方ない。俺は頭を押さえながら眠気に抗う。
「カリも俺も、殺されはしないか?」
「まさか。安全にお話ししたいだけです。ご無礼をお許しください。」
俺は抵抗することを諦めた。ゆっくりと瞼を閉じる。
「信じよう。好きにするがいい。」
「ありがとうございます。」
『お人好しが過ぎるぞ、イスル。暴れたければ暴れるがよい。』
『カリは後で助ければいいから、まずはお兄様が逃げた方がいいんじゃない?』
もう少し早く言ってほしかった。もう瞼を開けられそうにない。
『儂の加護を受けていることを知った上で、人質まで取って会おうとしているのじゃぞ。眠らされたが最後、何をされるか分かったものではなかろう。』
「申し訳ありません。俺の考えが至りませんでした。」
『この国のために利用されるじゃろうな。覚悟はしておくことじゃ。忘れるな。儂はあくまで人間全ての…。そなたがこの国のために働くとしても…。…スル?』
玄武の声が聞き取れなくなってきた。頭は冴えているのに。
「イスル殿下?」
俺はハッと目を開けた。身体が重い。俺は自分の身体を見た。分厚い首輪と腕輪を付けている。黄色い腕輪には縄が結ばれている。何か紋章が入った陶器の拘束具だ。土師の仕業だろう。身体を起こすと、腕輪に巻き付いた縄が、何か重いものに繋がっていることが分かった。振り向くと、カリが赤い腕輪を嵌めており、そこに縄が通されている。
「カリ、無事か?」
「オレは無事ですが、殿下は?」
「まあ、見ての通りだ。」
「ご無礼をお許しください、イスル殿下。」
俺は声のする方に振り向いた。玉座から老人が見下ろしている。この国の王だ。
「国王陛下ですか?」
「はい。お初にお目にかかります。」
「堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。これを早く外していただきたいですし。目的は何です?」
俺は乱暴に言った。
「簡単なことです。そのお力をこの国のためにお役立ていただけませんか?」
「お断りします。」
俺は即答した。
「まあ、お聞きください。殿下の貴国におけるお立場はわたしも理解しているつもりです。貴国の王は殿下の叔父に当たるお方です。その上、王妃様は御懐妊とか。玄武様のご加護を受けた殿下はお命が危険でしょう?この国で賓客として迎え入れるというご提案は、殿下にとってもよい話かと存じますが?」
「それでも俺はあの国の人間です。この国のために力を使うことはできません。」
「そう結論を急がずともよいでしょう。しばらくはそのままおくつろぎください。殿下の首と腕に嵌っている輪は土の気が込められたもので、水師の術封じです。玄武様のご加護があれど、簡単には外せますまい。無理に外そうとすれば、従者の方も巻き込まれかねませんよ。」
俺は試しに水を出そうと念じたが、無理だった。国王を睨みつけるも、余裕の笑みを浮かべている。絶対に協力などしてやるものか。




