隣国への旅(4)
外は赤かった。炎が立ち上っている。広間の方だ。俺は火の手が上がっている方に行こうとした。カリに腕を掴まれる。
「まさか消火するおつもりですか?」
「当たり前だ。急がないと。」
「ここでそんなことをしたらどうなるか、想像がつくでしょう?この国の水師に任せましょう。」
甲高い悲鳴が聞こえた。俺はカリの手を振り解いた。
「玄武様!」
『力を貸そう。好きなだけ水を出すがよい。』
火元までたどり着くと、露店も商品も家も何もかも燃えていた。派手に火柱が上がり、逃げ惑う人々は火傷を負った者も多く、逃げ遅れたであろう人の助けを求める声が木霊している。これは大火として語り継がれそうなほどの大災害だ。俺は迷わず両手を上げた。頭上に水が広がっていく。
「火の粉まで残さず飲み干せ。」
俺が手を下ろすと、川が氾濫した時のような大水が天から降ってきた。猛威を振るっていた炎は見る影もなく失せてしまった。
人々の視線が俺に集中しているのが分かる。目立ちすぎた。しかし、俺に後悔はなかった。
「玄武の加護だ…。」
「何だったか、ほら、ヒョンヘの。」
「イスル王子だよ。」
「どうしてこの国に?」
俺は穏便に立ち去ろうとした。子どもが俺に駆け寄ってきた。
「助けてくれてありがとう、お兄ちゃん!」
俺は微笑むと、子どもの目線にしゃがんだ。
「無事でよかった。じゃあな。」
俺が立ち去ろうとすると、警戒心を露わに遠巻きに見ていた大人たちも恐る恐る声を掛けてきた。
「あの、ありがとうございます、イスル殿下。おかげで多くの命が助かりました。」
「気にするな。行きがかり上助けただけだ。」
「どうかお礼をさせてください。ささやかですが。」
「気持ちだけでよい。火が消えたとはいえ、この惨状から復帰するには何かと入り用だろう。」
そもそも俺は他国の王族だぞ。お礼なんて怖くて受け取れるか。
しばらくお礼の言葉を聞いていたのが問題だった。見るからに様子の異なる集団が現れた。それぞれ玄や青の上着を羽織っている。五行師か。
「貴方が火を消してくださったのですか?」
「ああ。そうだ。」
「ありがとうございます。五行師としてお礼を申し上げたいので、王宮にいらしていただけませんか?せっかくお越しいただいたのに、なぜかご挨拶もまだのようでしたので。」
冗談じゃない。なぜ商人に扮して入国したのかと問われることが目に見えている。
「礼には及ばない。それより、密かに貴国へと来てしまったことを詫びねばならない。自国の恥を晒して申し訳ないが、俺は今ヒョンヘでは微妙な立場にあってね。国外に行きたかっただけで他意はなかったのだ。すまなかった。どうか陛下にもお伝えしてくれ。」
「歓待の用意もしているようですので、ご遠慮なさらず。お連れの方もお待ちですから。」
カリが人質に取られた。俺は溜息を吐くと、彼らについていった。




