隣国への旅(3)
「イスル殿下。」
宿屋の部屋の中でカリが話し掛けてきた。俺は商人のアンゲから王子のイスルに戻ろうと数回瞬きしてから答えた。
「何だ?」
「今回の旅の目的は何ですか?」
「どうして今更尋ねる?」
「最初は堤防を直すための何かを集める旅かと思ったのですが、どうも様子がおかしいので。食や文化にこだわって、まるで移り住む準備のようでした。」
全くの的外れというわけでもない。国民が移り住む準備ではある。
「俺がヒョンヘを見捨てて逃げ出すと?」
「そうは思いません。でも、誰かを移り住ませたいのでしょう?母君ですか?」
俺は考え込んだ。
「玄武様、どうしましょうか?」
『話したいのなら話せばよい。儂は見守るだけじゃ。』
もう打ち明けてもいい気がする。カリを巻き込むことはないと思っていたが、これ以上隠し立てしても仕方ない。それよりは協力してもらった方がいい。
「実は…。」
俺は簡潔に、もう堤防は限界であること、俺が人柱となれば崩壊を遅らせることができること、その前に国民を他国に亡命させる方法を探していることを述べた。
「殿下…。」
カリは俺を徐に抱き締めた。
「このままここで暮らしませんか?」
俺は咄嗟に返事できなかった。カリと共に、ここで?商売をしてもいいし、歌うたいとして暮らしたっていい。でも…。
俺は苦笑しながらカリを引き剥がした。
「ありがとう、カリ。だが、これは俺の役目だ。逃げるつもりはない。」
「殿下…。」
「そんな顔をするな。この国の人々は俺たちを受け入れてくれそうじゃないか。国土を諦めて全員で避難したっていい。俺だって命は惜しい。」
カリはまだ浮かない表情だ。
「では、約束してください。御身に危険が迫ったら、何を措いても逃げると。」
「分かった。約束す…。」
言い終わらないうちに大きな物音と揺れを感じた。俺はカリと顔を見合わせると、外に飛び出した。




