堤防への使者(2)
苦しい。身体が動かない。疲れや怪我のせいでも、ましてや恐怖のせいでもない。本当に身体を動かしようがない。吐きそうなのに、吐くことすらもうできそうもない。それどころか、息をすることさえ不可能だ。ああ、俺はもう駄目だ。死にそうという段階ではない。これはもう死んでいる。いっそ早く本当に死んでしまいたいと思うほどの恐怖と苦痛を感じながら、再び意識は遠のいていく。
寒い。目が覚めると、頭がガンガンと痛み、口の中が土の味だった。身体は半分土に埋まっている。俺は胃の内容物を全て吐き出して、ふらふらと立ち上がった。
気分は最悪だったが、俺はそれすら嬉しくてたまらなかった。生きている。俺は助かった。ああ、でも、サンはどうなった?
「サン…。」
辺りを見渡すと、そこは崖下だった。周囲には運ばれたばかりに見える土砂が積もっている。雨で土砂崩れでも起きたのだろうか。全身が埋まらなくてよかった。サンが近くにいないか探そうとして、俺は血の気が引くのを感じた。
この崖下に道なんてない。俺らは崖上にいたはずだ。
俺は再び吐き気に襲われ、激しく咳き込んだ。土砂崩れがあったから身体が埋まったのではなく、土砂崩れに巻き込まれたからこそ地中から出られたのだ。俺は…生き埋めにされた。
俺は必死に崖を這い上がった。崖の上には無数の死体が転がっていた。大半が俺の護衛だった。盗賊と戦って死んだのか。俺はサンの名を叫んだ。
考えてみれば、俺が恐らく崖で生き埋めになっていたのだから、サンだって同じだろう。俺は崖の近くの土に掘り返されたあとがないか探した。掘り返されたような地面を見つけ、手で掘ってみる。雨のおかげでだいぶ掘りやすくなっている。俺は暫く掘り続けた。間違っていたのではないかと不安になったところで、見慣れた布が目に入った。サンの持っている人形の布だ。
「サン!」
なかなか掘り出せずもどかしかったが、遂にサンの顔が露わになった。きっと、俺の手がかじかんでいるだけだろう。あまりに冷たく、硬い。サンの身体を土から出し、サンの肩を激しく揺する。
もう分かってしまった。俺の身体から力が抜けていく。
サンは死んでいる。
俺はサンの身体を抱えて激しく咽び泣いた。その身体には目立った外傷はないが、もう蘇生の見込みがないことは明らかだった。




