隣国への旅(2)
「ちょいと、そこのお兄さんたち!商人でも何でも、今日この都に入ったからには赤の装いをしないとね。この花飾りはどう?お兄さんの銀の髪に映えるよ。そっちのお兄さんは黒い髪だね。ますます似合う。二人合わせてたったの銀貨6枚でいいよ!」
真っ赤な花が髪留めにあしらわれている。綺麗ではあるが、絶対に吹っ掛けられている。花飾りに銀貨など出すはずがない。ただ、真面目に値引きするのも面倒だ。
「銀貨4枚なら買おうかな。」
「仕方ないねえ。特別だよ。その綺麗な黒髪に免じてね。」
俺は銀貨を払い、花飾りを二つ受け取ると、一つをカリに渡し、もう一つを自分の髪につけた。頭巾を被っているから目立たないということに気付いたが、まあいいだろう。
『素敵な歌だね。』
サンが言った。本当にサンは歌が好きだな。確かに明るくて心が弾むような曲だ。
「アンゲ、何か欲しいものはある?」
「ウサギの串焼き!いい香りがするよな。」
「オレも気になっていたんだ。二本買って一緒に食おう。」
ヒョンヘは海の幸が豊富にあるが、肉はあまり食べない。食べるとしても焼いて軽く塩を振るだけだ。血生臭くて苦手だという人が多い。この国には何やらよい調理法があるらしく、血生臭さがないばかりか、食欲を誘うような香ばしい香りがする。肉汁がじんわりと口内に広がり、肉は軟らかく弾力のある歯ごたえだ。実に旨い。
「美味しいな、カリ。」
「これは絶品だな。調理法が気になるが…。」
「よそう。俺たちが聞いても分からないさ。」
『美味しそうだね。』
「サンにも食べさせてあげたかった…。」
思わず呟いてしまって、ハッと口を押さえる。カリは申し訳なさそうな表情をしている。
「ほ、ほら、せっかくだし踊っていかないか?」
「踊れるのか、アンゲ?」
「こういうのは楽しめばいいんだよ。さあ、行こう。」
俺は強引にカリの手を引いた。当然二人とも全く踊れないが、楽しいので気にならない。俺は歌を口ずさみながら踊り始め、いつしか大声で熱唱していた。
曲が終わると、俺に向かって硬貨が降ってきた。俺が戸惑うと、近くにいた男が声を掛けてきた。
「お兄さん、外つ国の歌うたいじゃないの?投げ銭は初めてかい?」
「この硬貨、俺に?」
「そうさ。普通はこんなにもらえないよ。お兄さんは異国の独特な節回しで綺麗な歌声だったからね。故郷の歌も歌ったら、さらにもらえるかもよ。」
物珍しさもあるのだろうが、俺がこのくらいの稼ぎを得られるのなら、他の歌うたいも同じくらいか、もっともらえるだろう。確かにこの国の歌は明るくて親しみやすいが、節回しが単調でずっと聴きたいと思えるほどの感動はない。
俺はヒョンヘの歌がどのくらいの人気を得られるか確かめようと、宿場に出掛けて歌うたいの真似事をしてみた。特に挽歌や哀歌が人気で、歌詞も分からないだろうにかなりの投げ銭を得た。




