隣国への旅(1)
さて、そういうわけで俺は、カリとサンと玄武と共に大陸を旅している。サンというのは人形に入った魂のことで、玄武は声だけがたまに聞こえるということなので、実質カリと二人旅だ。
俺たちは商人に扮して国を出た。商品を積んだ荷を押しながらの移動は時間が掛かるが、焦ることはない。怪しまれないことの方が重要だ。俺は念のため頭巾を被っている。
「お忍びで市井の人々と関わりたいから、設定を練ろう。俺たちはどう見ても親子には見えないよな。無難に親戚の子でいいか?」
「そうですね。口調も改めましょう。」
「そうだね。これでいいかな?」
俺は武人として鍛え抜かれたカリの身体と無駄のない足運びを見ながら、こういう商人もきっとどこかにいるはずだと自分に言い聞かせた。
「俺らはヒョンヘから来た商人で、新しい市場を開拓中。人々の暮らしを知ることで、どのような商品が売れそうか調べたい。」
「名前はどうする?」
確かに。イスルという名がどのくらい知れ渡っているのか分からないが、用心するに越したことはない。
「あんたはカリでいいね。俺は…アンゲ(霧という意味)と呼んでよ。」
「分かった。よろしくな、アンゲ。」
「よろしく、カリ。」
大陸の連中は基本的に余所者に寛大だということがすぐに分かった。少なくともヒョンヘよりは。見知らぬ行商人の商品も見てくれるし、何なら買ってくれる。商品が良質だからか、俺が子どもだからか、質問にも答えてくれる。
気候や風土はヒョンヘによく似ている。麦や豆などの雑穀、干し魚を食べる。冬になると農業も漁業もできなくなるため、麻糸を紡いで布を織っている。ヒョンヘの麻布より目が粗く、手触りもよくないが、売値は安い。
「もし、ヒョンヘの連中が移り住んで機織りの技術を伝えると言ったらどうする?」
「助かるねえ。亜麻はたくさんあるんだ。もっと高く売れたら粥ももう少し濃くなるさね。」
機織りの技術がある者なら移住に困らないか。しかし、他人に教えられるほどの技術者はそんなに多くはないし、他の方法も必要になる。
「当てがあるのかい?」
「まさか。気になって訊いただけだよ。じゃあ、俺たちはこの辺で。」
俺とカリは都の中心に向かった。ヒョンヘの都より活気があるように思えた。露店が立ち並び、大道芸人もいる。陽気な音楽と歌が流れていて、広間で人々が躍っている。みんな赤いものを身に付けている。祭りか何かなのかと尋ねると、『炎帝の宴』という祭りらしい。極寒の冬が訪れる前に、今年の冬も火が絶えないようにと朱雀に祈るそうだ。この国は朱雀を信奉しているようだ。玄武は歓迎されないだろうな。




