麒麟との対話(1)
俺がナビのところに出掛けたのは、数ヶ月が過ぎてからだった。ナビはあっさりと俺を通した。かなりお腹が大きくなっている。
『話がある、麒麟。まさか話もできぬほど弱っておるわけではあるまいな?』
『キミは何がしたいんだ、玄武。どうしてボクの邪魔をする?』
麒麟は玄武と違って、威厳に満ち溢れているという雰囲気ではないようだ。神々しくない。
「何の用なの、イスル?」
「え…ただ、王妃様が退屈だろうと思いまして。お話し相手にでもなれたら、と。」
ナビには玄武と麒麟の会話は聞こえていないようで、俺は神々の会話を盗み聞きしつつ、ナビと雑談することにした。
『麒麟よ、この国に対するそなたの神力が弱まる一方であることは知っておる。それでも懸命にこの国を支えようとし続けた献身には頭が下がる思いじゃ。しかし、大堤防を支えるために人柱を欲するのは本末転倒ではないか?』
『なら…他にどうすれば良かったんだ?いつもキミたちはそうだ!大勢の人々が苦しんでいても何もしないくせに、行動したボクの不手際ばかりを責め立てる!もう限界なんだ。あの子たちはボクをずっと信仰すると誓ってくれたのに…。もう堤防を支えられるほどの信心がなくなった。ヒョンヘが海の底に沈まないようにするには、邪法に頼るしか…。』
麒麟も人柱を欲しているのか。
『もうよい。そなたは充分この国のために戦った。もうやめにしよう。こんなことを続けても、かえってそなたが邪神とみなされて信心を失い、さらに負担が増すだけじゃ。この先何人の人柱を要求するつもりじゃ。この国の者たちも何度も大人しく生贄を捧げるはずがない。イスルが人柱となろうが、この国の民全員の心が変わらぬ限り気休めにもならぬわ。』
『ここでボクが手を引いたら、この国は…。』
『水没すればよい。』
俺は思わず顔を上げた。ナビが怪訝そうな顔をするので、慌てて誤魔化す。
『八百年じゃぞ。それほどの長きにわたり守ってきたのじゃ。今手を引いても非難されるいわれはない。信心を失った人間が悪かろう。最後に警告だけして、この地を去るがよい。元々ここは海の底。儂の支配領域じゃ。無理にそなたが支配するのも疲れたじゃろう。このままではそなたが力尽きる。見ておれぬのじゃ。儂と共に天に帰ろう。』
まさか玄武は最初から俺を利用していた?人間より仲間である麒麟を守ろうとして、本当に堤防を破壊するつもりで術を刻ませたのか。
『見捨てられないよ。今でも鮮明に思い出せる。彼らが嘆く声を。絶望に満ちた顔を。そしてこの地に暮らせると分かった時の喜びに満ちた顔を。嬉しそうに感謝を述べる声を。』
『麒麟…。』
『救いたい。そのために犠牲を払おうと、ボクが力尽きようと構わない。玄武、キミは智慧がある。どうにか一人でも多くの人間を救う方法を考えてくれないか?』
沈黙が訪れた。玄武が考えているのかもしれない。
『よく分かった、麒麟よ。願わくは、一柱で抱え込まず、もっと早くに相談してほしかった。今更言っても仕方あるまい。今回の件を通じて思ったのじゃが、儂らには最近の地上のことは分からぬ。』
俺は深海の底のように黒い目が俺を見据えているような錯覚を覚えた。
『イスル、お前の力を貸してほしい。』




