神官の思惑(4)
『こんなやつの言うことなんて聞いちゃダメ、お兄様!』
俺は項垂れた。大神官の言う通り、俺は簡単に生き延びることができる。あまりに容易い。しかし、俺だけがこの国を救えると聞かされても聞かなかったことにできるほど豪胆な人物ではないのだ。死ぬ覚悟ならとうにできている。ただ…。
「お前の主張、よく分かった。俺も王族の端くれ。我が身可愛さに国を見捨てて逃げるほど外道ではない。これがあの件の前に持ち掛けられた話であれば、二つ返事で引き受けたことだろう。」
俺は唇を噛んだ。
「朦朧とする意識の中で必死にもがいても、自分の身体が自分のものではなくなったかのように頑として動かなかった。口にも鼻にも土が入り、吐き気がしても吐ける隙間もない。息は苦しく、視界は暗く、助からないことを悟って、ただ早く死ねることを祈る時間の辛さが、お前には分かるか?奇跡的に身体は動くし、息は吸えるようになった時の安堵感が…。」
俺は涙が頬を伝うのを感じた。あの時のことは、今でも思い出しただけで身体がすくむ。
「それを、もう一度埋まれだと?その気になれば全身が埋まってからでも全てを押し流せるのに、我慢しながらただ苦しみ抜いて死を待てと?よくもそんな…。そんな残酷なことが…。」
『そうよ。お兄様が全てを背負う必要はないでしょう?玄の方になったことも、黄の方がお生まれになっていないことも、お兄様のせいではないもの。この国が沈んだって、それは別にお兄様が悪いわけじゃない。誰にもお兄様を責める権利なんてない。神様だってなんだって!』
大神官は同情する素振りすら見せなかった。そうした方が説得に効果的であることも、俺がそういう状況になると断れない人物であることも分かっているだろうに、冷徹極まりない表情のまま、俺から目を逸らさない。
「お前の覚悟は伝わった。それでも俺は承服しかねる。利己的な外道とそしりたければするがいい。」
俺は大神官に背を向け、部屋から出ようとした。
「八つ裂きにしても足りぬであろう我が身をこのまま捨て置かれるのですか?」
俺は歩みを止めたが、振り返りはしなかった。
「願わくは二度と俺に兵を差し向けるな。時間と兵力の無駄だ。決心がつけば自ら赴こう。俺が来なければ存分に呪うがよい。」
俺は吐き捨てるように言うと、返事を待たず足早に立ち去った。




