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麒麟の国  作者: 馬之群
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堤防への使者(1)

この国、ヒョンヘ(玄い海という意味)に未曽有の危機が迫っていた。隣国に今にも攻め込まれそうになっているのだが、国力が圧倒的に足りないのだ。そもそもヒョンヘは立地がよくない。海抜より低い国土は、巨大な堤防によって海から守られてはいるが、大陸と地続きの部分から攻められると逃げ場がないということにもなる。


まあ、俺の目下の悩みはそんなところになかった。国防に頭を悩ませるのは宮仕えのお偉方の仕事だ。俺は国王陛下の甥という気楽なご身分であり、年齢的にも能力的にも役に立てそうな点がない。


俺の悩みはもっと俗っぽいところにあった。王妃であるナビ(蝶という意味)が身籠ったので、お祝いの品を用意しなければならない。はっきり言って、俺はそういうことには疎いので、従者のカリ(刀という意味)に完全に任せてしまった。現状どうなっているのか何も分かっていないが、カリなら上手くやるだろう。…多分。いや、誰かに何を贈る予定なのか尋ねられたら困るな。カリに確認しておかなくては。


と、まあ、思い至ったのが今朝のこと。その場でカリに尋ねることができればよかったのだが、生憎とそうはいかない状況だった。


俺は今、妹のサン(山という意味)と共に堤防付近にある村に来ている。


最近(と言ってもここ数十年似たような状況が続いているらしいが)堤防の状態が不安定なようで、宮廷に多量の嘆願書が届けられた。堤防の修理など人力では解決のしようもないのに。宮廷としては現状を説明して、解決できないことを分かってもらうしかない。そして、先述の通り宮中は大忙しである。この件に割ける人員などいない。そこで、地位が高く無碍にもできない人物であり、宮中にいなくても全く困らない(要するに暇人な)俺が直接説明に行くことになったのだ。ご丁寧に俺の妹も添えて。


俺たちは熱烈な歓待を受けた。海沿いならではの新鮮な海の幸、何の言語か分からないが、美しい歌声、身体の芯まで温まるような温泉、我が国の伝統工芸品として名高い華美な衣装など王宮でも珍しいほどの贅沢を尽くした。これで申し出を断らなければならないのは心苦しいが、俺にはどうしようもない。温泉の香りを漂わせ、複雑な紋様が刺繍された黄色い服を身に纏いながら、俺は王宮側の意向をきっぱりと伝えざるを得なかった。嫌な役回りだ。


話が逸れてしまった。それとお祝いの品を聞き出すのと何の関係があるのかと気になるだろう。カリに話し掛けようと思うと、サンに筒抜けになってしまうという状況が困るのだ。絶対に説教される。俺が悪いのだから自業自得と言えばそれまでだが、兄の誇りというものがある。そこで俺は極力、王妃懐妊の話題を振らないように気を付けながら、サンと二人で帰りの馬車の中、取り留めもない雑談を続けている。外には小雨が降り続いているためか、馬車はゆっくり進んでいる。話す時間はたっぷりあった。


不意に馬車が止まった。何やら外が騒がしい。サンも不安そうな表情になった。


「まだ着かないでしょう?どうしたのかな?」

「ちょっと訊いてみる。」


俺は外を覗いてみた。ちらりと見えたのは、こちらに迫りくる人々だった。馬に乗っており、手には何か武器のような物を持っていた。それらが視界に映るや否や、馬車が急に走り出し、俺は馬車の壁に当たった。サンの懐に仕舞われていた人形が飛び出す。


「何?どういうこと?」

「襲われてるんだ。盗賊か何かだと思う。」


サンの梔子(くちなし)色の目が見開かれた。


「どうしよう…。」

「大丈夫だ。護衛がついているだろ。」


俺はサンの手を握る。暫く馬車は揺れていて、周囲の喧騒は増していった。突然、馬車が大きく揺れて止まる。俺は再び壁に激突した。


「お兄様!」


俺が顔を上げると、見知らぬ男が剣を振り被っているのが見えた。直後、俺は頭に強い衝撃を受けて、意識を失った。

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