麒麟の加護(2)
俺は身震いした。そんなことがあるのか。まだ生まれてもいない子に。
「サンの魂を移す話はどうなるのですか?」
『確かに入っている魂によって身体が形を変えるから、誰に入れても甦ることができるとは言った。だからと言って、いくら何でも、生まれてこないと無理だ。』
俺は口に出すのも悍ましいような計画を相談した。
「確認ですが、ナビが産んだ赤子にサンの魂を移してサンを甦らせて、赤子の魂はコンナムに移して赤子にすることが可能なのですか?」
『ううむ…。できるか?あまりに身体の大きさが異なるがのう。魂も未熟で不安定じゃ。ここまで異なる人物に魂移しをしたことはないが、果たして適応し得るのか…。』
玄武は独り言のように呟いている。
「赤子の成長を待ってから魂を移しましょうか。」
『麒麟の加護は他の五神に比べ短いぞ。せいぜい五年くらいじゃな。一歳も六歳も大した違いはあるまい。それに、時間を掛け過ぎてはサンが悪霊化しかねぬ。ナビの子が産まれるのを待つ間なら、どうにか間に合うといったところじゃ。』
俺は溜息を吐いた。
『お兄様、もういいよ。失敗するかもしれないし、赤ちゃんを危険に晒すなんて嫌だよ。お兄様がこれだけ頑張ってくれただけで、もう満足したから。』
「嫌だ。諦めたくない。まだ結論を出さなくてもよいでしょう?赤子とはいえ、麒麟様が加護をお授けになったのは計画通りではありませんか。」
『…。』
玄武から返答はない。俺は神経質にサンの人形を撫で続けた。
『問題は、堤防に紋様を刻んでしまったことじゃ。麒麟は儂を止めようとしておるはずじゃから、すぐにでも儂に警告しに来るじゃろう。麒麟と敵対する前に魂を移せばよいと思っておったが、そうもいかないとなるとどうしようかのう。赤子に魂を移すことは失敗する可能性が高いから、事情を説明することも難しくなった。』
俺は苛立ちを机にぶつけた。
「いっそあの子がいなければ…。」
『お兄様。』
俺は頭を振った。駄目だ。
「失礼。聞かなかったことにしてください。」
『取り敢えず落ち着こうよ。また命を狙われたばかりじゃない。犯人も分からないし。これ以上危ないことをしないで。ね?』
「犯人なら目星がついているよ。毒を盛られたのだから、神官だろうさ。」
俺はふと違和感に気付いた。
「待てよ。俺が襲われたのは、俺が堤防に紋様を刻んだからだと思ったが、そうだとしたら毒を盛るのが用意周到すぎるな。元から俺への殺意があったのか。どうしてだ?」
神官から恨みを買った覚えはないが。
『確かにきな臭いな。調べた方がよかろう。』
「麒麟様の件はどうしましょうか。」
『この国の神官は麒麟の手足じゃ。建国時から麒麟と密接につながっておるからのう。神官について調べることで、麒麟の弱みを握れるやもしれぬ。』
俺は考え込んだ。神官が何をしようが麒麟には関係ないように思われたが、麒麟に仕える神官が危機に晒されたら守ろうとはするのだろうか。
「では、俺の身の安全のためにも、神官について探ってみることにしましょう。」




