麒麟の加護(1)
それから数日は特に何もなかった。俺は自室で療養し、すっかり回復した。俺を襲った連中の正体は不明だが、再び襲われることはなかった。
そうこうしているうちに、ナビへの祝いの品が届いた。子ども用のおもちゃ一式である。木琴、振ると音の出るおもちゃ、人形、花木と蝶の刺繍が入った毬などだ。素朴で温かみがあるが、細やかな装飾が施されている。とても繊細な出来栄えだ。
「子ども用の品か。可愛いな。」
「国王陛下と王妃様のお名前や目と髪の色を意識しつつ、イスル殿下の得意な音楽も取り入れました。赤子が口に含んでも大丈夫なように、部品が取れにくいようになっています。」
言われてみれば、人形は茶髪に若葉色の目のものと、金髪に空色の目のものがある。それぞれコンナムとナビを模しているのか。毬に花木と蝶が描かれているのも、二人を意識してのことか。
「よい品だ。これならナビも喜ぶだろう。早速届けに行こうか。」
「ええ。それが良いでしょう。」
俺はナビに届けに向かった。ナビは快く俺を出迎えてくれた。
『待て、ナビの様子がおかしい。』
玄武が切羽詰まったように言ってきた。俺は身体を強張らせた。
「お久しぶり、イスル殿下。お祝いを持ってきてくれたのね?」
「え、あ、はい。王妃様。どうぞ。」
俺は品々を差し出した。ナビの表情が明るくなる。
「まあ、可愛い。素敵なおもちゃね。」
「お気に召して頂けたようで幸いです。」
「もっと近くで見せて。」
俺は緊張しながらナビに歩み寄った。
『ああ、麒麟の奴め。よりにもよって、そんな者に加護を…。』
俺は冷や汗を掻いた。ナビが麒麟の加護を得てしまったのか?
「あら、素敵。ねえ、これ私と陛下でしょう?」
「ええ。」
「陛下はお忙しいから、生まれてくる子に寂しい思いをさせてしまうかと不安だったの。この人形があれば寂しさも紛れるでしょう。」
確かにナビの気配が違う。妙な息苦しさを感じる。
『すぐに帰るのじゃ、イスルよ。今のそなたには相手できまい。』
「本当に申し訳ございませんでした。王妃様もお疲れだと思いますので、俺はこれで…。」
「せっかちね。少し話したいことがあるの。二人きりで。いいかしら?」
正直に言えばよくないのだが、断れる立場でもない。俺はナビが人払いするのを見ているしかなかった。
「お話とは何でしょうか?」
「お茶でも飲みながら話しましょうよ。」
ナビは用意させた茶を勧めてきたが、流石の俺もこう毒を盛られては口をつける気にならなかった。
「イスル殿下、貴方は王位に就きたいと思っているかしら?」
そう来たか。俺は鳥肌が立つのを感じた。
「全く思っていません。陛下と王妃様の御子が王位に就くべきです。俺には何の取り柄もありません。」
ナビの目がきらりと光る。
「玄武様の加護を受けながら、慎み深いのね。」
ああ、状況が悪くなった。本当に王位に就きたくはないのに。
「加護はせいぜい数十年しか受けられません。加護がなければ、俺など凡夫です。王の素養など皆無ですよ。」
ナビは納得していないようだ。勘弁してくれ。彼女にまで命を狙われたら身が持たない。
「信じましょう。試すようなことを言ってごめんなさいね。我が子のことが心配なのよ。」
「お気持ちは分かります。何か不安なことがございましたら、いつでもご相談ください。それでは。」
俺は自室に戻ると、どっと疲れて座り込んだ。
『休んでいる場合ではないぞ。』
俺は姿勢を正した。
「ナビが加護を受けたのですか?」
『違う。ある意味、もっと悪い。』
おかしい。ナビの気配がいつもと違ったのに。
『加護を受けたのは、ナビの腹の子だ。』




